俳優の佐々木蔵之介さんが、ルーマニアの演出家であるシルヴィウ・プルカレーテと3度目のタッグを組んだ渾身のひとり芝居『ヨナ-Jonah』。6月末まで行われていた海外公演の後、10月からは東京芸術劇場を皮切りに日本各地で上演されます。

旧約聖書のエピソードをひとり芝居に

舞台『ヨナ-Jonah』は日本の東京芸術劇場とルーマニアのラドゥ・スタンカ国立劇場が共同製作した作品です。

原作は、ルーマニアの国民的詩人であるマリン・ソレスクの代表作『ヨナ』。旧約聖書に書かれている預言者ヨナの逸話が題材となっています。

その記述によれば、ヨナは神の命令に背く行動を取ったため航海の途中で嵐に遭い、巨大な魚に飲み込まれてしまいました。しかし、自らを省みて神に祈ったことで、3日後に魚の腹から生還したとされています。

本作では、ヨナを飲み込んだ魚がクジラに。演出家のシルヴィウ・プルカレーテが、苦境を生きる人々への賛歌としてひとり芝居に仕立てました。そして、俳優の佐々木蔵之介さんが運命に抗い自由を求める男を演じます。

日本とルーマニアの演劇界をつなぐ新作舞台

舞台『ヨナ-Jonah』の演出を手掛けたシルヴィウ・プルカレーテは、ルーマニアを代表する演出家です。ルーマニアのシビウ国際演劇祭では、プルカレーテ演出の『ファウスト』が毎年のハイライトとして話題に。また、彼が演出した作品はエディンバラやアヴィニョン、メルボルン、モントリオールなど世界中の演劇祭に招聘され、数々の演劇賞を受賞しています。

一方、ヨナ役の佐々木蔵之介さんは、映画やドラマ、舞台と幅広いジャンルで活動。第17回読売演劇賞で優秀男優賞、第38回⽇本アカデミー賞で優秀主演男優賞を獲得するなど、俳優としての実力を高く評価されています。

そんな2人がタッグを組むのは、実は今回で3度目。最初のタッグは2017年に東京芸術劇場が主催した舞台『リチャード三世』で、ウィリアム・シェイクスピアの名作に大胆な解釈で挑みました。続く2022年には、フランスの劇作家モリエールによる傑作をもとにした舞台『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』を上演。

このように佐々木さんとプルカレーテは共に舞台を創り上げながら、信頼関係を築いてきました。そして2025年、東京芸術劇場とラドゥ・スタンカ国立劇場が協力し、国際ツアーに出せる作品を目指して『ヨナ-Jonah』の製作が実現したのです。

東欧ツアーと演劇祭の参加を経て日本へ凱旋!

佐々木蔵之介さんのひとり芝居『ヨナ-Jonah』は、2025年5月21日にラドゥ・スタンカ国立劇場にて世界初演を迎えました。シビウ公演後は、ハンガリーのブダペスト、ルーマニアのクルジュ=ナポカとブカレスト、モルドバのキシナウ、ブルガリアのソフィアといった東欧の5都市を巡演。再びラドゥ・スタンカ国立劇場へと戻り、6月26日にシビウ国際演劇祭の参加作品として上演されました。

シビウ国際演劇祭とは、演劇やミュージカルはもちろんダンス、オペラなど多彩なジャンルを扱う総合的な舞台芸術イベントです。もともとは、ルーマニア人俳優のコンスタンチン・キリアックが1993年に始めた小さな学生演劇祭が原点でした。今では、フランスのアヴィニョン演劇祭やスコットランドのエジンバラフェスティバルと並んで世界三大演劇祭のひとつに数えられるほどの盛り上がりを見せています。

さらに今年のシビウ国際演劇祭では、佐々木さんが『ヨナ-Jonah』の舞台とこれまでのプルカレーテらとの成果を評価され、「ウォーク・オブ・フェイム」を受賞。この賞は毎年世界を代表するアーティストを表彰するもので、シビウ市の中心地にある歩道には受賞者の名前を刻んだ星の形のプレートが埋め込まれています。シビウ市に訪れる機会があれば、佐々木さんの名前プレートをぜひ探してみたいところです。

注目の『ヨナ-Jonah』日本公演は、10月1日(水)のプレビュー公演を経て、10月2日(木)から13日(月・祝)まで東京都・東京芸術劇場のシアターウエストにて上演。10月1日(水)から11月3日(月・祝)にかけて、池袋で開催される舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」の芸劇オータムセレクションにもラインナップされています。

その後、10月18日(土)に金沢・北國新聞赤羽ホール、10月25日(土)・26日(日)に長野・まつもと市民芸術館 小ホール、11月1日(土)・2日(日)に茨城・水戸芸術館 ACM劇場、11月8日(土)・9日(日)に山口・山口情報芸術センター[YCAM]スタジオA、11月22日(土)から24日(月・振休)まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで公演を行います。詳細は公式HPをご確認ください。

もこ

6月末にルーマニアを含めた東欧でのツアーを完走されたばかりの佐々木蔵之介さん。きたる日本公演でも、芸術とは国境や文化を超えて人の心に届くものだということを演技を通して伝えてくれるのではないでしょうか。