2025年10月、日本に初上陸する『The Mongol Khan(モンゴル・ハーン)』。3000年前のモンゴル帝国を舞台に描かれた王位継承をめぐる壮大な悲劇で、50名を超えるパフォーマーによるダンスや華やかな衣裳、モンゴル伝統楽器や歌唱を用いた音楽などが高く評価され、モンゴル国内で異例の10万5千人を動員。2023年にはロンドン・ウエストエンドに進出して約4万2千人を動員、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズシアターでも約3万人を動員しました。

本作の魅力を探るべく、なんとモンゴル現地取材が実現!いち早く本作を観劇した舞台写真と、演出家・俳優陣へのインタビューをお届けします。

豪華絢爛な衣裳やダイナミックな群舞で魅了

『The Mongol Khan(モンゴル・ハーン)』は、「モンゴルのシェイクスピア」とも呼ばれる劇作家バブー・ルハグヴァスレン氏が1988年に執筆した作品。フン族の伝説をもとに作られたフィクションで、愛と野望、裏切りと復讐、王権を巡る壮大な戦いを詩的な台詞で描いています。

過去2度、モンゴルで上演されていたという本作を、モンゴルの自然・文化・歴史を題材にした映像作品を数多く手掛け、国際的な映画祭でも高い評価を受けるヒーロー・バートル監督が演出。

伝統的かつ豪華絢爛な衣裳や独特の音色を奏でる音楽、アクロバットや身体表現、ダイナミックな群舞、映像演出など、エンターテイメント性に富んだ作品に仕上げました。

その結果、舞台『The Mongol Khan(モンゴル・ハーン)』はまずモンゴル国内で大きなブームを巻き起こします。演劇作品が30日以上ロングランされることはなかったというモンゴル国内で徐々に口コミが広がり、モンゴル最大の劇場「国立アカデミックドラマシアター」で180回以上のロングラン公演を達成。総動員数10万5千人を突破しました。(モンゴルの人口は約348万人)

そして、舞台『千と千尋の神隠し』も上演された劇場ロンドン・コロシアムでも連日完売となり、大きな話題に。特にモンゴル文化のユニークさを打ち出した点が高く評価され、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズシアターでも人気を博しました。

そんな話題作『モンゴル・ハーン』が、10月10日(金)から10月20日(月)まで東京国際フォーラム ホールC、10月24日(金)から26日(日)まで愛知県芸術劇場 大ホールにて上演されます。(モンゴル語上演・日本語字幕付き)

2人の王妃が産んだ王子の数奇な運命

舞台は、3000年前のモンゴル帝国。王アーチュグ・ハーンの正妃と側妃が、数日違いで王子を産みます。しかしそのうちの1人アチールは王位継承を巡る陰謀によって仕組まれた、王の血を引かぬ子でした。陰謀により2人の王子はすり替えられてしまいます。

そして偽りの王子アチールが戴冠。彼は傍若無人な振る舞いを繰り返し、王国は混乱に陥ります。アーチュグ・ハーンはハーンとしての務めを果たすため、アチールを殺すことを決意し…。

アーチュグ・ハーンと側妃ゲレルの愛、権力闘争に利用されアチールを産んだツェツェル王妃の苦悩、真の王子クチールが直面する壮絶な人生、そして王権を巡る争いを描いた壮大な物語。

アーチュグ・ハーンを演じるのは、モンゴルで最高位の民間功労賞・アルタンガダス(極星)勲章などを受賞する名優エルデネビレグ・ガンボルドさん。圧巻のオーラで舞台中央に君臨し、ハーンの威厳で観客を惹きつけます。

公演後、インタビューに応じてくれたエルデネビレグ・ガンボルドさん

自らの手で子どもを殺すという壮絶な決断を演じるハーン役について「普通の人間は子どもを殺すという決断はしないでしょう。しかしハーンは、国を揺るがす大きな決断をする時、神や精霊と交信する霊媒師シャーマンと話し合って決断をしなければなりません。ですから、家族や自分の身ではなく、ハーンとしての責任を最優先にした決断をすることになったのです」と語ります。

またラストシーンについて「チンギス・ハーンが生まれた時に血の塊を握っていたという伝説に繋がるシーンになっています」と明かしてくれました。

ウランバートルの国立博物館に飾られるチンギス・ハーンの像。右手には純金で作られた国家印章が握られている

匂いの演出も加わり、五感で楽しめる作品に

ツェツェル王妃を演じ、本作のプロデューサーとしても活躍するバイラ・ベラさんは王を裏切る役どころについて「チャレンジングな役ですが、凄く好きな役です。子どもを取り替えるように命じられ、自分の子どもに別れを告げるシーンは毎回涙が溢れます。真っ暗な劇場の中で照明に照らされ、まるで本当に作品の世界にいるような気持ちに陥るんです。2時間半、作品の世界で生き続ける演劇の美しさを感じる瞬間です」と語ります。

また本作の魅力について、「シェイクスピアを思わせる詩的な台詞と芝居、大人数での民族的なダンス、考古学をベースにした衣裳、美しい照明、伝統的な音楽、ヒーロー監督によるシネマティックな演出。さらに最近では匂いの演出も加わって、五感で楽しめる作品に仕上がっていると思います。衣裳は、3000年前の人々が金を多用して作った民族衣裳を再現しています。こんな豪華で美しいものを着ていたなんて非常に驚くことですし、衣裳も本作が注目を集めた理由の1つです」と、バイラさん。

日本公演に向けての想いを伺うと、「この作品を観て、モンゴルのことを知って、興味を持ってもらい、帰ったらモンゴルのことをより深く調べてもらいたい。そして実際にモンゴルに来てもらいたいですね。モンゴルでは、日本では考えられないような広大な草原が広がっています。他の惑星に来たんじゃないかと思うかもしれません。そこで乗馬をして、夜には星の光を浴びてもらいたい。“100万の星を見るホテル”に、ぜひいらしてください」と語られました。

発展とは、愛とは。ヒーロー監督インタビュー

『モンゴル・ハーン』の演出を手掛けたヒーロー監督は、コロナ禍をきっかけに「私たちは自分のことだけでなく、お互いを尊重し合い、大自然やこの世界を大事にしなければならない。そういう時期に来ている」と実感し、本作の上演を考えられたそう。「発展というものは何なのか、愛するということは何なのか。本作を通して改めて深く考えてもらいたい」と力を込めます。

昨今はモンゴルでも若者たちのスマホ依存やSNS依存が問題となっており、「携帯を消して、モンゴルの歴史に集中する、今この場所での時間をみんなで楽しむということを取り戻したかった。恋愛を描いたり、エンターテインメント要素を増したりすることで、若者たちにも興味を持ってもらえる作品に仕上げたかった」と語る監督。

役柄の心情を身体表現で表すなど、アンサンブルキャストのパフォーマンスも特徴的な本作は「演劇表現としての手法でもありますし、モンゴル人が言葉より行動で感情を示すという文化的背景もあります。それを世界のお客様にお見せしたいと考えました」。

日本公演に向けては、「本作はフン族の伝説をもとにして作られた作品ですが、フン族はアジア人、ひいては日本人の先祖とも関わりがあるという研究もあります。我々の祖先であるフン族の歴史を感じていただける作品ですし、お互いを支え合う文化を持つ日本人にぜひ観ていただきたい作品になっています。モンゴルの独特な伝統・文化を楽しんでいただくのはもちろん、本作のテーマを一緒に考えてもらいたいです」と熱いメッセージが贈られました。

撮影:鈴木文彦

舞台『モンゴル・ハーン』は10月10日(金)から10月20日(月)まで東京国際フォーラム ホールC、10月24日(金)から26日(日)まで愛知県芸術劇場 大ホールにて上演。公式HPはこちら

モンゴルの風景<フォトギャラリー>

Yurika

シェイクスピア劇を彷彿とさせる重厚な芝居と、異国情緒溢れるダイナミックな演出に圧倒されっぱなしでした!公演前後の忙しい時間にインタビューに応じてくださったり、公演後はみんなで食卓を囲もう!と夜遅くまでカンパニーの皆さんが歓迎してくださったりと、とても温かな気持ちになったモンゴル取材でした。