思い通りにいかないことばかり。こんなはずじゃなかった。だけど人生を変えるのは難しい。どんなに“変えるべきだ”と背中を押してくれる心強い友人がいたとしても。ダイナーで働くウェイトレスのジェナも、その一人。母親から教わったパイを焼き続けながら、ダメ男の夫・アールとの別れを決断できない。女性として苦悩しながらも強く生き抜く姿を描いたミュージカル『ウェイトレス』の観劇リポートをお届けします。(2021年3月・日生劇場)
01 高畑充希の圧巻すぎる歌唱力と表現力に注目!
2007年に公開された映画『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』を舞台化したミュージカル『ウェイトレス』。日本公演の主演を務める高畑充希さんはブロードウェイ・ロンドンで計3回観たほど作品の大ファン。かねてより本作の出演を熱望していたそうです。
田舎町のダイナーで働く3人のウェイトレスであるジェナ、ドーン、そしてベッキー。歴史オタクなドーンを宮澤エマさんが可愛らしく微笑ましく演じます。ジェナの背中をいつも押してくれる姉御肌のベッキーは、浦嶋りんこさん(WキャストはLiLiCoさん)が轟かせるハスキーで力強いボイスが魅力。
しかし特筆すべきは、高畑充希さんの透き通った伸びやかな歌声と情緒的な表現力でしょう。全く力みの無い軽やかな歌声が、ステージと客席を飛び越え心臓に直接突き刺さってくるよう。お金をせびるダメ男・アールに愛想を尽かしながらも、パイ作りや同僚との日々を楽しもうとするジェナ。その切実さと力強さに涙し、どうか彼女が幸せを掴めるようにと、いつの間にか祈りながら見守ります。
少し変わり者で優しいポマター医師を演じる宮野真守さんと、ドーンと恋模様を展開するオギーを演じるおばたのお兄さんも作品の良いスパイスに。DVや不倫、望まない妊娠など実は重めのテーマが続く本作の中で、ホッとする瞬間を与えてくれます。
02 小麦粉が日生劇場に舞う?!独特なパイのネーミングも必見
ダイナーの看板商品であり、ジェナと母親の思い出の食べ物でもあるパイ。実際に小麦粉が舞い、卵を入れ、生地を練るシーンも。ジェナが名付けるパイは“ちょっとワイルドなワイルドベリーパイ”などその時々の心情を表したユニークなネーミング。
パイに思いを込めることで、何度も訪れる苦難を“なんとかなる”と言い聞かせ乗り越えようとしているようです。様々なパイが登場するので、観劇後はパイを食べたくなってしまうかも?!筆者は次の日に“高畑充希さんの才能に脱帽しながら頬張る栗のパイ”を食べました。