「感情って何だろう?」「本物の共感とは?」そんな問いから始まる物語が、再び舞台に帰ってきます。

韓国でベストセラーとなり、日本でも多くの読者の心をつかんだ小説『アーモンド』。その感動を舞台で体感できる再演が決定しました。主演は、繊細な表現力で注目を集める戸塚祥太さんです。感情を持てない少年・ユンジェをどう演じるのか、今から期待が高まります。

この記事では、原作小説の魅力やあらすじ、キャストの意気込みなどをご紹介していきます。心を揺さぶる物語の世界へ、一緒に旅してみませんか?

韓国発行部数100万部超え&本屋大賞翻訳部門(2020年)第1位

『アーモンド』は、2016年に出版された、韓国の人気作家ソン・ウォンピョンさんによる長編小説です。韓国での発行部数は100万部を超え、日本でも本屋大賞翻訳部門(2020年)で第1位を獲得、韓国文学の傑作として知られています。

大学時代から数々の文学賞に応募し続けたものの、落選続きだったソン・ウォンピョンさん。しかし、子育てをしていた時期に執筆した『アーモンド』が、彼女の人生を変えました。韓国有名出版社のチャンビが主催する文学賞を受賞し、ついに小説家デビューを果たしたのです。同作は世界13ヵ国で翻訳されましたが、新人作家としては異例の反響でした。

彼女は作品への想いをこう綴っています。

「四年前の春、子どもが生まれた。(……)自分に質問を投げかけてみた。この子がどんな姿であっても、変わりなく愛を与えることができるだろうか。期待とまったく違う姿に成長したとしても?その問いから、「果たして私だったら愛することができるだろうか?」と首をひねってしまうような子が二人生まれた。それがユンジェとゴニだ」

「ちょっとありきたりな結論かもしれない。でも私は、人間を人間にするのも、怪物にするのも愛だと思うようになった。そんな話を書いてみたかった」小説『アーモンド』著者コメントより)

では、愛することができるか悩んでしまうような「怪物」とは、一体どんな人物なのでしょうか?

怪物と呼ばれた少年が、愛によって生まれ変わるまで

<あらすじ>
扁桃体(「アーモンド」)が人より小さく、怒りや恐怖といった感情をうまく感じることができない16歳の高校生、ユンジェ。祖母は彼を「かわいい怪物」と呼んだ。
そんな彼は、15歳の誕生日に、目の前で祖母と母親が通り魔に襲われ死傷したときも、 ただ黙ってその光景を見つめているだけだった。

母親は、感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」などの感情を丸暗記させることで、なんとかユンジェを「普通の子」に見えるようにと訓練してきた。
だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェはひとりぼっちに。

そんなとき現れた、もう一人の「怪物」ゴニ。ユンジェとは正反対の激しい感情をもつ少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていく――

主人公ユンジェは、母と祖母の大きな愛を受けて育ってきましたが、扁桃体が小さいために、恐怖や不安といった情動反応をうまく処理できません。その結果、家族を失っても「いつものように、無表情で」いる以外の方法を知りませんでした。

しかし、少年院上がりの問題児ゴニとの出会いが、ユンジェに変化をもたらします。ゴニは気性が荒く、すぐに人を傷付けるため、周りに人が寄り付かないのですが、ユンジェは全く怖がりません。ゴニも次第に興味を持つようになり、対照的な2人の「怪物」は関係を育んでいくのです。

本物の共感とは何か。愛とは何か。そして「今あなたは、誰かのことを、本当に見ていますか?」と、ユンジェたちがまっすぐに問いかけてきます。淡々としているのに、繊細で、もやがかかっている感情に切り込んでくる作品が『アーモンド』だと思います。

7人のキャラクターと心の核を見つける旅へ

2022年に上演された舞台『アーモンド』は、コロナ禍で半分以上の公演が中止になりながらも、2022年読売演劇大賞上半期ベスト5演出/振付に選出されました。世代を超えて評価された異色の演劇が、2025年版として帰ってきます!

ストレートプレイでありながらも、上質な音楽の生演奏とコンテンポラリーダンスの融合によって物語が展開されていく本作。『FACTORYGIRLS〜私が描く物語〜』で第27回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞した板垣恭一さんが、脚本・演出を手掛けます。また音楽は、ミステリ・ミュージカル『ルームメイトと謎解きを』や『Fly By Night』などで板垣さんとタッグを組んできた、桑原まこさんが担当します。

そしてユンジェ役を演じるのが戸塚祥太さん。アイドルグループ・A.B.C-Zのメンバーで、近年は舞台やドラマにも活動の幅を広げています。キレのある動き、指先まで意識が行き届いた繊細な表現が、ユンジェの純粋さと真っ直ぐさにぴったりだと感じています。

ゴニ役は崎山つばささん。2015年にミュージカル『刀剣乱舞』で石切丸役として注目されて以降、白井晃さん演出の舞台や、数々のテレビドラマに出演してきました。ミュージカルで磨いた歌唱力を生かして歌手活動もしており、甘く爽やかな歌声が印象的です。ゴニの感情の機微をどう表現するのか、とても注目しています。

そして水夏希さん、松村優さん、平川結月さん、首藤康之さん、久世星佳さんもキャスティングされました。ユンジェの祖母を演じる久世さんは、出演依頼を受ける前から2022年版舞台『アーモンド』のファンとのこと。(キャストコメント動画より)「怪物」に魅入られた彼女が、ユンジェを愛する人として、どんな世界観を見せてくれるのかも楽しみです。

本作を読んでいると、人間それぞれに愛の形があり、それを分け合い、受け取り合い、人生を少しずつ進めていくのだなと感じます。演者と観客が一体となって作り出す、たった1回の『アーモンド』が、みなさんを待っています。ユンジェやゴニと一緒に、心の核を探す旅に出発してみませんか?

舞台『アーモンド』は、2025年8月30日(土)から9月14日(日)までシアタートラムで上演されます。また9月19日(金)から21日(日)までは近鉄アート館でも実施予定です。詳しい情報は公式サイトでご確認ください。

さよ

実はわたし、戸塚さんのファンです。特に歌うとき、彼の魅力は全開になります。滑舌がよく、つややかで、記憶に刻まれる声。上演中だけでなく、舞台が終わった後も、きっと耳の奥にユンジェの声が残り、ふとした瞬間に語りかけてくることでしょう。余韻も含めて、ぜひ劇場で舞台『アーモンド』をお楽しみください!