2025年8月4日に東京建物 Brillia HALLにて開幕するミュージカル『ある男』。開幕を前に、開幕前日舞台挨拶と公開ゲネプロが行われました。
「徹平くんのボクシングがプロ並み」「浦井健治になりたい」
開幕前日舞台挨拶はHareza5周年イベントとのコラボレーションとして、野外の中池袋公園にて行われ、浦井健治さん、小池徹平さん、濱田めぐみさん、ソニンさん、上原理生さん、上川一哉さん、知念里奈さん、鹿賀丈史さんが登壇しました。

「明日開幕ということで、皆さん応援の方よろしくお願いします」と観客に呼びかけた浦井健治さん。本作の見どころについて問われると、「ジェイソンさんの楽曲もそうなんですけれど、小池徹平くんのボクシングがプロ並みなんです」とアピールしました。

小池徹平さんは暑い中舞台挨拶に来た観客に、「劇場の中は涼しいですから、よかったら涼みがてら観に来てくださったら」と呼びかけ。X役ということで、もし別の誰かになれるなら?と問われると、「浦井健治になりたいです!かっこいいから」と答え、浦井さんとの絆を見せました。
濱田めぐみさんは本作の楽曲の魅力について、「何曲か歌わせてもらっているんですけれど、全部種類が違って、テンションも違って、色々な特徴がある楽曲が揃っています。私だけじゃなくみんなそうなので、楽曲のバリエーションを楽しんでいただけたら」と語りました。
ソニンさんは世界初演となる本作について「原作の平野さんの世界観を崩さないように、ミュージカルとして素敵な形にするためにはどうしたら良いのか、みんなで意見を出し合って、細かいところを直前まで変更しながら作り上げたので、初日、どう皆さんにお届けできるのかをドキドキワクワクしています」と心境を明かしました。

上原理生さんはジェイソン・ハウランドさんの音楽について、「音楽は目に見えないもので、耳からの情報としてシーンの空気や雰囲気、緊張感を伝えてくれるものだと思いますが、ジェイソンの音楽は凄くそれを的確に表現しています。観る上での助けになってくれると思うので、ぜひそこを楽しみにご覧いただけたら」と魅力を語りました。

上川一哉さんは「ミステリーなので、キリキリする感情がいっぱい出てくるんですけれど、一つ一つリアルにお客様にお届けできるよう、この暑さに負けないぐらい頑張りたいと思います」と意気込みを。
知念里奈さんは「人間の本質とは何か、愛する人の過去も愛せるのか、愛する人の選択を受け入れられることができるのか。深いテーマが込められた作品です。稽古をしながら、みんなの過去を受け入れられるかなと思いながら過ごしました。きっと観終わった後に、静かに心に沁みる作品になっているかなと思います」と語り、個人的な見どころとして「鹿賀丈史さんのお芝居と歌を久しぶりに近くで見ることができて、大興奮しております」と語ると鹿賀さんはニッコリ。

戸籍ブローカーの小見浦憲男とボクシングジムの会長・小菅の2役を演じる鹿賀さんは、「見分けがつくような芝居の振り分けをしたいと思っております。楽しみにしてください」と呼びかけました。

最後に小池さんから「気持ちを引き締めて、皆さんにこの夏、いい作品を届けられるように、怪我なく最後まで走り続けます」、浦井さんから「『ある男』がミュージカル化ということで、どんな風になるんだろうということがまず興味本位としてあると思うんですけれども、城戸も、そして小池徹平くん演じるXという人物も歌います。平野さんの渾身の小説に失礼のないよう、丁寧に丁寧に作ってまいりましたので、応援のほどよろしくお願いいたします」とメッセージが贈られ、会見が締め括られました。
「生きるために真実を隠して嘘をつく」
2018年に読売文学賞を受賞し、世界中で翻訳された平野啓一郎さんの傑作小説『ある男』。音楽をジェイソン・ハウランドさん、脚本・演出を瀬戸山美咲さんが手がけ、世界初演ミュージカル化となります。

東京建物 Brillia HALLの舞台上に現れたのは、ある男・Xが最期の時を過ごした森を思わせるセット。額縁のような枠が登場人物たちを追いかけ、名前や国籍という枠組みの中で生きる人々を映し出します。

順風満帆な人生を送っているように見える弁護士・城戸章良(浦井健治さん)。城戸は、宮崎に暮らす女性・谷口里枝(ソニンさん)から亡き夫・谷口大祐に関する真相を突き止めてほしいという依頼を受けます。

弟・大祐の訃報を聞いて訪ねてきた兄・恭一(上原理生さん)が遺影を見て、弟とは全くの別人であると言ったのです。夫は、ある男・Xとは何者なのか。恭一が歌うナンバーから、本作のミステリーとしての世界観が一気に深まっていきます。

城戸は真相を突き止めるため、大祐の元恋人である後藤美涼(濱田めぐみさん)の元へ。調査にのめり込んでいく城戸は、帰りが遅くなっていき、妻の香織(知念里奈さん)との溝が深まっていきます。

そしてたどり着いたのは、戸籍ブローカーで、横浜刑務所に収監中の小見浦憲男(鹿賀丈史さん)という男でした。

X(小池徹平さん)はなぜ戸籍を偽ったのか。その真相を追う城戸に、Xは「お前も偽りの人生を生きているだろ」と突きつけます。時空を超えて城戸とXのデュエットが実現するのは、ミュージカルならでは。
「幸せな人生」と、その裏にある「嘘」で繋がる城戸とX。浦井さんは時に情熱的にXを追求する一方で、小池さんは里枝とともに過ごした穏やかで素朴なXの人柄を柔らかに表現していきます。

Xと里枝の出会いのシーンでは、Xの描いた絵をきっかけに心の距離が縮まっていくシーンを、小池さんとソニンさんの抜群のコンビネーションで美しく描かれているのが印象的でした。

他にも、Xと本物の谷口大祐(上川一哉さん)の言葉が重なっていったり、夫への想いを語る香織と里枝の言葉が重なっていったりと、ミュージカル楽曲を通じて登場人物たちの重なりが描かれていきます。

戸籍を交換してまで別の人生を生きなければならなかった、Xの壮絶な過去とは何なのか。ミステリー要素が強い作品ながら、アイデンティティについて深く掘り下げていく本作。どの登場人物の視点から見るかによっても、感じる世界が変わっていきそうです。
ミュージカル『ある男』は2025年8月4日(月)から8月17日(日)まで東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)にて上演。その後、広島・愛知・福岡・大阪公演が行われます。公式HPはこちら

かつてシェイクスピアは『ロミオとジュリエット』で、「ロミオ、あなたはどうしてロミオなの」という台詞を書きました。名前とアイデンティティというテーマは、人類が演劇で探究し続けてきた、そしてこれからも探求し続けていくテーマなのかもしれません。