ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)の遺した劇作品の中で、最も有名だと言えるのが『ハムレット』でしょう。デンマークの王子であるハムレットが、亡くなったばかりの父王の亡霊に出会うところから始まるこの悲劇は、世界中で上演され続けている名作です。そんな『ハムレット』には、一度聞いたら忘れられない印象的な台詞が数多く書かれています。本記事では、現代の私たちの心にも刺さる『ハムレット』の名台詞5選を紹介します。
『ハムレット』とは?復讐を誓う王子の悲劇
シェイクスピアは、エリザベス朝時代のイギリスで活躍した詩人・劇作家です。その生涯に多くの優れた戯曲や詩を書き、それらは400年以上経った現在でも、多くの人々に愛され続けています。
『ハムレット』は、シェイクスピア作品の「四大悲劇」のひとつに数えられています。亡くなった父王の亡霊から死の真相を聞かされたハムレット。それは、父が叔父であるクローディアスに殺害されたというものでした。
クローディアスは父王の死後、ハムレットの母であるガートルードと結婚して、新しい王となっています。ハムレットは、父を殺したクローディアスと、父王の死後すぐにクローディアスと再婚したガートルードに怒りを抱き、復讐を誓うのでした。
『ハムレット』の主な登場人物は?相関関係を解説
ハムレットにはさまざまな人物が登場します。少し覚えにくい名前もあるので、まずは登場人物の名前と関係性を整理しておきましょう。
ハムレット…デンマークの王子で、先王の息子。
クローディアス…先王の弟で、王の死後デンマーク王に即位する。
ガートルード…先王の妻で、ハムレットの母。先王の死後、クローディアスと再婚する。
ポローニアス…デンマークの宰相。
レアティーズ…ポローニアスの息子。
オフィーリア…ポローニアスの娘。劇中ではハムレットとの悲恋が描かれる。
ローゼンクランツ、ギルデンスターン…ハムレットのかつての学友。
そのほかにも、ハムレットの友人である「ホレイショー」などの人物が登場します。登場人物たちの関係や情報を簡単に知っておくと、より『ハムレット』の名台詞を楽しめるのではないでしょうか。
現代にも響く『ハムレット』の名台詞5選
「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。」(河合祥一郎・訳)
「生か、死か、それが疑問だ」(福田恆存・訳)
出典: 第3幕第1場
最も有名な台詞。ハムレットが生と死について、深く悩む場面でのモノローグです。
現在の苦しい状況をじっと耐え忍び生き抜くのか、それとも死を覚悟して剣を取り、苦難に立ち向かうのか。ハムレットはそのどちらを選ぶのが「男らしい」生き方なのか悩んでいます。
「劇というものは、いわば、自然に向かって鏡をかかげ、善は善なるままに、悪は悪なるままに、その真の姿を抉(えぐ)り出し、時代の様相を浮かび上がらせる」(福田恆存・訳)
出典:第3幕第2場
ハムレットが、宮廷で行われる劇について、演劇の一座に演技指南をしているシーン。演劇の本質を突いていると後世でも愛される台詞のひとつ。
そのほか、感情がたかぶったときほど抑制した台詞回しを心得るように諭したり、大げさなアクションはとるなと言ったり、この場面のハムレットはまるで名演出家のようです。
「良い悪いは当人の考えひとつ、どうにでもなるものさ」(福田恆存・訳)
出典:第2幕2場
ハムレットが、友人であるローゼンクランツとギルデンスターンと談笑している場面での台詞です。「デンマークは牢獄だ」と言ったハムレットに、ローゼンクランツが「ということであれば、世界中が牢獄と言うことに」と反論します。
それを受けたハムレットのこの台詞は非常に哲学的であり、現代の私たちも考えさせられます。
「弱きもの、汝の名は女なり!」(坪内逍遥・訳)
「たわいもない、それが女というものか!」(福田恆存・訳)
出典:第1幕第2場
現代の読者からは偏った女性観に映るこの台詞は、ハムレットが、母の早すぎる再婚を嘆く場面で語られます。
父の死からすぐに叔父と結婚した母への、失望と怒りが込められており、非常にインパクトの強い台詞です。
「弱きもの、汝の名は女なり!」という訳が有名ですが、実はこれは、昭和3(1928)年にシェイクスピア全集を完訳した坪内逍遥(1859-1935)による古い訳です。
「これがまんねんろう(ローズマリー)、あたしを忘れないように(中略)お次が、三色すみれ、ものを思えという意味」(福田恆存・訳)
出典:第5幕第5場
最後に紹介するのは、手違いで父・ポローニアスをハムレットに殺されてしまったオフィーリアの台詞です。
彼女は悲しみのあまり錯乱してしまい、最後には川に落ちて溺死してしまいます。この台詞は、狂気の中のオフィーリアが兄・レイアーティーズに花を手渡し、語りかける場面です。
ちなみに、オフィーリアはクローディアスに「おべっかのういきょう」と「いやらしいおだまき草」を、ガートルードには「昔を悔いるヘンルーダ」を渡しています。これが何を意味するのか、観客としては思わず深読みしてしまう名台詞です。
参考文献
『ハムレット』ウィリアム・シェイクスピア:著 、福田恆存:訳(新潮社)
『新訳 ハムレット 増補改訂版』ウィリアム・シェイクスピア:著、河合祥一郎:訳(角川文庫)

特にハムレットが演劇の一座に「劇とは……」と講義しているのが印象的でした。難しく重いイメージのある『ハムレット』ですが、「良い悪いは当人の考えひとつ、どうにでもなるものさ」など、人生の教訓に活かせそうな名言もたくさんありますよ。