9月14日(日)から本多劇場で行われる、村井良大さん初の一人芝居『ザ・ポルターガイスト』。芸術家を志す主人公・サーシャを含めた11人の登場人物を1人で演じ、青年の葛藤と再生を描きます。本作の魅力や、一人芝居を通して見えてきたことを村井さんに伺いました。

ブラックコメディの中に隠されたコロナ禍への想い

−本作への出演が決まった時の心境を教えてください。
「一人芝居は昔からやってみたいなと思っていたのですが、いざお話をいただくと、怖さもありました。一方で、「この人の一人芝居を観てみたい」と思われるような役者でいられたんだな、という嬉しさもあって、色々な気持ちが入り乱れていました。一人芝居は自分がどれだけ出来るのかをまざまざと再確認できる時間になるだろうなと思いましたし、今まさにそうなったなと感じています」

−『ザ・ポルターガイスト』の脚本を読んでみていかがでしたか。
「最初はブラックジョークというか、コメディの笑える部分がたくさんあるのが印象に残りました。それだけでも十分魅力を感じましたが、今、台詞を一人で掘り下げれば掘り下げるほど、この作品の深いテーマを理解できた気がして、最初とは全く印象が変わりましたね」

−どんな印象に変わりましたか。
「一人のアーティストが自分を見つめ直して、リスタートする物語なのだなと思っています。この作品はフィリップ・リドリーが2020年という、コロナ禍のかなり早いタイミングで発表した作品です。劇中の学校名や地名も彼が実際に通っていた学校や暮らしていた場所の名前で、彼の想いがものすごく詰まった、彼自身もおそらく自分と対話して書いた作品だと思います。でも核となるテーマは押し付けがましくなくて、それが凄く巧みな脚本だなと思います。やっぱり自分を見つめ直してリスタートしようと思うのは、凄く踏ん張りが必要じゃないですか。コロナ禍でそれを体感した方も多いと思うんです。この作品は一人芝居だからこそ主人公の人生を追体験できるし、再生というテーマが上手く伝わるのだと思います」

観客に余白を与えてくれるのが一人芝居の醍醐味

−一人芝居の面白さというのはどういう部分に感じていますか。
「一人芝居はあまり多く上演されているものではないので、お客様も慣れていない人が多いと思うんです。だからこそ、頭を凄く使うと思います。「これってどういうことなんだろう」「誰が喋っているんだろう」というところから、「この間が面白いな」「これが大事だよね」ということまで。お客様が色々と想像したり、考える余白があるのが、一人芝居の、そして演劇の面白い部分だなと感じます。
そうやって芝居を観た人が自分の中で考えることで、答えは自分の中にあるんだなということに気がつくと思います。これは人生において凄く感じることで、例えば恋愛相談にしても、その人の中で答えは決まっていた、というのはよくあることじゃないですか。人は元々自分の中で答えを持っていて、それが揺らぐことはほとんどないんですよね。それを凄くみんなと共有できる作品になっているので、作品を通して色々な答えがあると思いますし、同時に、「村井良大ってこういう人なんだな」というのも分かっていただけるんじゃないかなと思います」

−村井さんご自身も、作品を観劇して自分の中にある答えに気づくことはありますか?
「先日、村井雄さんが演出されている一人芝居を観に行って、1回では自分の中で理解できていないなと思って2回観に行ったんです。そうしたら、席が違うと全然見え方が違う。お客さんの感じも違うし、2回見ることで気づくことも多くて、そうやって自分の中に芽生えた発見は凄くかけがえのないものだなと感じました。本作でもそういう体験をしてもらいたいなと思います」

−本作は一人芝居ながら11役登場するということで、演じ分けて、さらに会話劇を1人で成立させるという難しさもあると思います。
「今まで相手の役者さんに助けられていたんだなと凄く感じています。どうやって演じ分けようかと考えていたんですけれど、演出家の村井雄さんに、「全部“村井良大”でも良いよ」と言われたんです。というのも、本作の戯曲にはサーシャしか明確に台詞の割り振りがあるキャラクターはいなくて、それ以外の台詞は会話の中でこの人の台詞なのかなと想像することしかできません。あえてこの役のセリフはこう、という指示が戯曲にないのは、一人語りだからできる面白さだと思いますし、考えていくと、この人がこう喋っているということが分かったからって何なんだろう、とも思います。
ともすれば、観終わった後に、これはサーシャが過去の記憶を回想していた話なんじゃないかと考えるひともいるかもしれない。雄さんは、「友達がこう言っていたんだよね」と話す時に、友達の口調を真似してまで言う人はいないと言ったんです。確かにそうだなと思って、綺麗に演じ分けることが目的ではなく、やっぱりこの作品の核である、アーティストの再生と、そこには愛があったということを大事にしたいなと思います」

村井良大自身が表現される作品に

−作品と向き合う中で、ご自身との対話も増えていますか?
「自分との対話の時間ばかりですね。一人でやっていると、ここでふっと息を抜くと次の台詞が出てこない、とかもあって面白いです。本当に一人芝居は自分自身との戦いだし、ありのままの自分を見せられているなと自分でも感じます。事務所の方や自分と近しい人からも、「村井良大ってこういう人だったんだ」と思ってもらえるような作品になると思いますし、そうなったらベストだなと思います」

−サーシャという人物にはどんな印象を持たれていますか。
「元々絵が大好きで、お母さんのことも大好きで、でもある事件をきっかけに色々なものを失って、薬をオーバードーズしてしまい、精神状態を安定させるのに苦労している。会話の中で本音と建前の両方を観客に見せていて、人間らしさを見せつけられるなと感じます。彼が路頭に迷ったり、人間らしい部分がたくさんあったりするからこそ、最後のシーンにも凄く納得がいきました。僕自身、凄く共感するキャラクターです」

−お話を聞いていると、村井さんがいかに作品と深く向き合い、愛情を持っているかかが伝わってきます。
「読み込んでいる最中では、何度も作品を嫌いになりましたよ(笑)。何度枕を投げたことか。手のかかる子なんですけれど、同時に作品の魅力にも気づいていくし、知っていく。最初は目の前に迫ってくる大きな壁のような感覚でしたが、今は一緒に歩いている感じがしていて、僕が成長するごとに作品も成長するので、一人芝居は奥深いなと実感しています」

撮影:晴知花、ヘアメイク:荻野明美、スタイリスト:秋山貴紀

−本多劇場の舞台に一人芝居で立たれるということについてはいかがでしょうか。
「凄く光栄です。歴史ある劇場ですし、お芝居を観るのにとてつもなく適した劇場でもあります。僕はこれまで一度、コロナ禍の無観客のときに舞台に立たせていただいて、まさか二度目がこれほど大きな舞台になるとは思ってもいませんでした。身の引き締まる思いでもありますし、一度目に立った時に、本多劇場にある演劇の匂い、面白いものが絶対に観られるという信頼感や実績を劇場から感じたので、一人芝居で、この作品で舞台に立てるのが本当に楽しみです」

『ザ・ポルターガイスト』は2025年9月14日(日)から21日(日)まで本多劇場にて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

『白衛軍』『手紙』と取材させていただいてきた村井さん。いつも作品に対する想いを真摯に語ってくださるのが印象的です。一人芝居という新境地で、どんな新たな表情が見えるのでしょうか。