日本と海外のクリエイターの共同作業のもと、優れた海外戯曲を上演するBunkamuraのDISCOVER WORLD THEATREシリーズ。2025年はシアターコクーンの前芸術監督である故・蜷川幸雄氏の生誕90年にあたることから「NINAGAWA MEMORIAL」と題し、シェイクスピアの『リア王』が上演されます。古代ブリテンの王・リアを演じるのは、大竹しのぶさん。蜷川氏の手掛けたシェイクスピア作品に何度も出演していた彼女が新境地に挑む本作は、この秋最も注目の演劇作品と言えるでしょう。
終わりのない悲劇『リア王』
年老いたブリテンの王・リアは、3人の娘たちに領地を配分し、自らは隠居することを決めます。領地を分け与えるにあたり、リアは娘たちに「どれほど自分のことを愛しているか」を述べさせることにします。
それぞれ公爵夫人となっていた長女のゴネリル、次女のリーガンが、大げさな言葉で父への愛を語ります。しかし、リアが溺愛している末娘のコーディリアだけは、素っ気ない言葉を口にしただけでした。
それはコーディリアからの誠実な愛のためでしたが、コーディリアの真意を理解できなかったリアは激高し、彼女を追い出してしまいます。コーディリアを追い出した後、ゴネリルとリーガンの下へ身を寄せることを決めたリアでしたが……。
『リア王』は、シェイクスピアの悲劇の中でも、特に陰鬱な作品として知られています。それは物語が迎える結末に顕著に現れており、「終わりのない悲劇」だという見方もあります。
そのように絶望的な作品でありながら、現在でも繰り返し上演されている『リア王』は、普遍的な魅力を持っていると言えるでしょう。
大竹しのぶ×フィリップ・ブリーン『欲望という名の電車』コンビが再び
前述の通り、大竹しのぶさんは『マクベス』や『シンベリン』など、蜷川氏のシェイクスピア作品に多く出演しました。
そのほか、野田秀樹さん、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん、栗山民也さん、宮本亞門さんなど名だたる演出家の舞台で主演を務めています。そんなキャリアから、日本を代表する舞台俳優の一人と言っても過言ではありません。
そんな大竹さんは、1979年、2017年上演の『にんじん』で少年を演じたことがあったものの、成人男性の役を演じるのは今回が初めてです。リアという難役に挑戦するとあって、観客としては見ごたえがある作品になりそうです。
また、演出を務めるイギリス人演出家フィリップ・ブリーンさんにも注目したいところ。ブリーンさんは、テネシー・ウィリアムズやドストエフスキーなど、近代演劇作品の傑作を手掛け、高い評価を得てきました。今回は、そんなブリーンさんが上演台本を担当し、『リア王』の戯曲が一新されることが決まっています。
大竹さんとブリーン氏がタッグを組むのは、2017年のDISCOVER WORLD THEATRE vol.3『欲望という名の電車』以来。その際も、大竹さんは悲しみのため狂気に陥るヒロイン・ブランチを演じました。今度の『リア王』では、次第に狂気に飲み込まれていくリアをどう演じてくれるのでしょうか。
実力派が勢揃い!注目のキャスティング
また、豪華キャストの顔ぶれにも注目したいところです。
狡猾な長女・ゴネリルを宮沢りえさん、冷酷な次女リーガンを安藤玉恵さん、そして誠実がゆえに誤解されてしまうコーディリアを生田絵梨花さんが演じます。皆さんは舞台、映像のどちらの分野でも幅広く活躍されている実力派。リアの運命を変えていく3人の娘たちをどう演じるのか、期待が高まります。
そしてもう一組の「兄弟」、エドガーとエドモンドのキャスティングも見逃せません。私生児という立場ながら野心を抱き、ゴネリルとリーガンを誘惑するエドマンドを成田凌さん、エドマンドの策略によって追放されてしまうエドガーを、舞台初出演の鈴鹿央士さんが演じます。
その他、道化役には勝村政信さん、エドガーとエドマンドの父であるグロスター伯爵に山崎一さん。リアの忠臣ケントに横田英司さんなど、重要な登場人物に実力派が揃っていて、非常に頼もしいキャスティングです。
Bunkamura Production 2025/DISCOVER WORLD THEATRE vol.15『リア王』NINAGAWA MEMORIALは、2025年10月9日(木)から11月3日(月・祝)まで、THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)、11月8日(土)から16日(日)までSkyシアターMBSにて上演されます。公式ホームページはこちらです。

「この人たちが出るなら絶対に面白い!」と言い切れるほどの豪華キャストに興奮しました。また、テネシー・ウィリアムズ作品などの繊細で深い世界観を表現するブリーン氏の演出も興味深いポイント。どのような『リア王』が誕生するのか注目したいです。