「芸術の秋」ですね。この言葉はよく耳にしますが、1918年に発行された雑誌『新潮』に「美術の秋」と記されたことが由来ともされています。今回はそんな「芸術の秋」にぴったりな映画を3本ご紹介します。

『SING/シング』アニメーション・ミュージカル・コメディの傑作

動物たちが歌とダンスで夢を追いかける『SING/シング』(2017)の舞台となるのは、経営難に陥った劇場。支配人のコアラ、バスター・ムーンは、劇場を立て直すために歌のコンテストを企画します。

そこに集まったのは、才能を持ちながらも日常に埋もれていた個性豊かなキャラクターたちでした。内気なティーンのゾウや、家族のしがらみに悩むゴリラ、子育てと夢を両立させたいブタの主婦など、それぞれが抱える悩みや不安を歌にのせて表現していきます。

この作品の魅力は、ポップスからクラシックまで幅広い名曲が惜しみなく使われていること。カーリー・レイ・ジェプセン『Call Me Maybe』、サム・スミス『Stay With Me』、レディー・ガガ『Bad Romance』といった曲を聴いているうちに、自然と体が揺れ、気分が軽くなっていくのを感じるはずです。そして、スティーヴィー・ワンダーとアリアナ・グランデによるオリジナル曲「Faith」も見逃せませんよ。

『SING/シング』には「困難に立ち向かう人へのエール」が詰まっていると、わたしは感じます。バスターが「人生のどん底もいいもんさ、あとは上がるだけ」と話すシーンが象徴的です。この言葉は観客にとっても力強いメッセージとなり、気持ちが沈んでいるときに観れば、自然と背中を押してもらえるでしょう。

アニメーションならではのユーモラスな描写も満載で、子どもから大人まで楽しめるコメディ要素も抜群!笑って、音楽に心を震わせて、最後には希望で心が満たされる。そんな体験をもたらしてくれる映画です。

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『ロミオ+ジュリエット』シェイクスピアの名作を現代版で

ウィリアム・シェイクスピア『ロミオとジュリエット』は、世界中で何度も上演・映像化されてきた古典劇の名作です。なかでも特に強烈な印象を残すのが、バズ・ラーマン監督による映画『ロミオ+ジュリエット』(1996年)だといわれています。

舞台を現代に移し、銃やアロハシャツが登場するスタイリッシュな映像で描かれる本作は、公開当時から賛否を呼びつつも、多くの観客を魅了してきました。

主演はレオナルド・ディカプリオとクレア・デインズ。若き日の2人が全身で演じる「禁じられた恋」は、純粋さと切実さに満ちており、観る者の感情を強く揺さぶります。水槽を挟んで視線を交わす場面が見惚れてしまうほど美しく、書き下ろしの楽曲『I’m kissing you』が切なさをプラスしていると感じました。

また、映像が現代的にアップデートされている一方で、台詞はシェイクスピアの原文をほぼそのまま使用しています。銃撃戦などスピード感のある映像に、荘厳な詩的表現が重なり合うことで、不思議な緊張感とリズムが生まれました。古典劇とポップカルチャーの融合は、まさに芸術の挑戦ともいえる試みですね。

「恋に落ちる」という行為の純粋さ、そして「愛が許されない」という残酷さ。物語の結末を知っていても、ロミオとジュリエットの未来を願わずにはいられません。『ロミオ+ジュリエット』は、ただの青春映画や悲恋物語を超えて、古典文学の力強さを鮮烈に体感させてくれることでしょう。

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『ミッドナイト・イン・パリ』タイムスリップと恋で変化していく男

芸術の都・パリを舞台に、過去と現在を行き来する不思議な体験を描いた映画が、ウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』(2011年)です。

主人公ギル・ペンダーはハリウッドで脚本家として成功しながらも、自分の本当に書きたい小説に向き合えず、もどかしい思いを抱えています。しかし婚約者とのパリ旅行中、真夜中の街角で古めかしい車に乗り込んだことから、彼の人生は大きく変わっていくのでした。

車が向かった先は1920年代のパリ。そこにはアーネスト・ヘミングウェイやフィッツジェラルド夫妻、サルバドール・ダリといった伝説的な芸術家たちが集い、夜ごと情熱的に語り合う世界が広がっていました。ギルは彼らとの交流を通じて、本当に求めていた創作の喜びや芸術への愛情を思い出し、次第に自分を見つめ直していきます。

一見するとロマンチックなファンタジーですが、その根底には「過去への憧れ」と「今を生きること」の対比というテーマが流れています。ギルが惹かれる芸術家たちにとっても、1920年代が黄金時代とは限らず、彼らもまた別の時代を羨んでいる。誰もが「自分の生きる時代は物足りない」と感じる、その普遍的な人間の悩みを描いていると感じました。

映像も格別です。パリの街並みが柔らかな光で包まれ、セーヌ川沿いやカフェ、石畳の小路など、わたしたちを夢のような時間旅行へ誘ってくれます。まるで芸術の秋に美術館を訪れたかのように、映像自体が絵画のような味わいを持っています。

さらに物語には恋愛要素も巧みに組み込まれており、ギルが婚約者との価値観の違いに気づき、次の人生を選び取っていく姿は、きっと勇気を与えてくれるはずです。夢や理想に迷い、最後に決心する物語は、まさに芸術の力が人を変えていく瞬間を映し出しています。

『ミッドナイト・イン・パリ』は、芸術に触れたい秋の夜にぴったりの作品です。タイムスリップのファンタジーと恋の行方を追いながら、気づけば自分自身の生き方を考えさせられるかもしれません。

『ミッドナイト・イン・パリ』の視聴はこちら

さよ

芸術の秋は、難しく考えず「好き」と思える作品に触れることから始まります。映画の中で歌い、恋をし、時を超える体験を楽しみながら、心が少し豊かになる瞬間を見つけてもらえたらうれしいです!