2025年劇団☆新感線45周年興行・秋冬公演 チャンピオンまつり いのうえ歌舞伎『爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK』。劇団員が大集合し、中島かずきさん書き下ろし、主宰・いのうえひでのりさんによる演出で、江戸時代を舞台に『忠臣蔵』を上演するため奔走する演劇人を描きます。本作に出演する向井理さん、早乙女太一さんにお話を伺いました。
観客も役者も惹きつけ続ける劇団☆新感線の魅力とは?

−製作発表を終えられて、改めて本作への期待を教えてください。
向井「会見でも雰囲気を見て分かる通り、ずっと学生のままでいるような劇団で、そのわちゃわちゃに入れさせてもらえているので、凄く奇跡的なことだなと思います。見ていても楽しいですし、参加しているだけで楽しい独特な稽古場で、単純に観て面白かったなと思ってもらえる作品になると思います」
早乙女「劇団☆新感線のファンの方たちは間違いなく楽しいと思いますし、役者を描いたこの芝居を新感線の皆さんがやることでグッとくるようなお話にもなってくると思います。僕自身も凄く楽しみにしています」
−劇団☆新感線の魅力は何だと思われますか。
向井「分かりやすく言うとヒーローショーだと思います。今回の作品は主人公たちの心理に反する悪役のような人たちが出てきて、殺陣もあるけれど、人は死なないので割と平和なお話です。でもヒーローショーであることは間違い無いですし、歌舞伎の要素ももちろん入りつつ、自分たちが信じているお芝居の魅力が描かれていきます。45周年だから、原点回帰のような、お芝居に対する純粋な想いというのは凄く感じます。僕は作家の役なので、余計、中島かずきさんの想いが乗っかっているような台詞がいっぱいあって。45年間やってきた集大成みたいなものもグッと出るんじゃないかなと思いますし、最後の最後に古田さんが言う台詞にそれが集約されているなと思います」
早乙女「揺るぎのないバカ、という感じでしょうか。それが清々しくてかっこよくて気持ちが良いです。僕は13歳の時に初めて新感線を観たので、仮面ライダーやウルトラマンのような感覚で、青春の憧れなんです。その時に感じたかっこよさはずっと残りますし、自分もその中に入れるのが凄く嬉しくて、自分もそうありたいなと思います。しかもこれが45周年まで続いているというのは、本当に凄いことだと思うんです。それはいのうえひでのりさんがぶれていないし、それを皆さんが信じてやり続けているからだと思います。後輩が言うのも何ですが、バカでかっこいい、という感じです」

−それぞれが演じる役柄についてはいかがでしょうか。
向井「かずきさんは、ドラマ性を持たせたい時に(僕を)呼ぶと仰っていて、今回演じる役は対極にいる2役なので、そこでドラマ性を求められているのかなと思っています。芝居を作る作家と、芝居を押さえつけようとする役。特に作家の役はかずきさんが今までやってきたこと、乗り越えてきたことが込められている役だと思うので、本読みの時にも“背負ってね”と言われました」
早乙女「劇団員の方々が、本当にキャラが濃ゆい人たちしかいないから、僕は一番さっぱりしています。今までは闇や孤独、業を背負う役が多かったんですけれど、今回は何も背負っていないので楽しいです(笑)。女形を演じるということで、17歳で初めて出演した新感線作品『蛮幽鬼』でも女性に化ける役だったので、原点に立ち返るという感覚があります」
「最初の観客になれる」「第二の故郷」
−お互いの印象についてもお聞かせください。
向井「100人いたら100人が言うことだと思いますが、やっぱり立ち回りが凄いなと思います。2017年にIHIステージアラウンド東京で上演された『髑髏城の七人』シリーズで同じ無界屋蘭兵衛(むかいやらんべえ)を演じたご縁もあります。同じ役を演じると分かっている中で拝見したので、一緒に観ていた山内圭哉さんと帰りに(出演を)“断ろうか”と話したくらい(笑)。同じ役をやるということは必然的に比較されますし、もちろん演目としてもそうなので困りましたね。立ち回りだけじゃなく、動きのしなやかさも凄く勉強になります。他の作品ももちろん拝見していて、太一くんや弟の友貴くんは、お二人にしかできないお芝居があるので、毎回楽しませてもらっています」
早乙女「凄く知能的で、ミステリアスな雰囲気を感じます。僕に無いものを全て持っている(笑)。今回の作家の役も、飄々としていて、何を考えているんだろうという謎深さがあるのですが、その奥に熱さもあって、魅力的だなと思います」

−稽古の様子はいかがですか。いのうえさんからは何かお話がありましたか。
向井「キャラクターの説明ってされたことないかもしれないですね。動きの位置などミザンスをつけていく中でこっちでも何となく感じて提案して、採用されたりされなかったり。新感線は動きが多くて、台詞に意味を持たせるために、正面から見ているいのうえさんが「一番このシーンを表現できる」と思う動きをつけているので、それを覚えるのが大変です」
早乙女「いのうえさんから直接細かいところは説明されないんです。ご自身の中にはこうしたらこう見える、こういうキャラクター像にしたい、というのがあると思うのですが、稽古の中ではやりながら自分でも見つけていくという感じです」
−劇団☆新感線の舞台に出ることで、役者としての変化や受ける刺激はありますか。
向井「出たいからって出られる劇団じゃないので、それは本当に毎回ありがたいなと思いますし、しかも今回は後にも先にもないようなお祭りに参加できて、それだけで名誉なことだなと思います。演劇的にはストレートではないと思っていますし、僕が今までやってきた演劇とは全然違うところにあると思っているので、新感線には絶対呼ばれないだろうなと思っていたんです。だから未だに不思議なんですけれど、新感線でしか見られない景色があります。いつも思うのは、僕らは最初に観ている観客なんです。稽古場でだんだんと出来上がっていく様子を観られますし、小屋入りして通し稽古して、それを観ていて面白いと思えるのは、本当にこのチームならではだと思います」
早乙女「最初の頃は振り切れない自分がいました。僕がやっている大衆演劇では、歌舞伎のような見得があるのは当たり前なんですが、僕は凄く苦手で避けてきたんです。でも新感線では一言台詞を言うと、ピンスポットが当たって、カーンと効果音も付いて、絶対にかっこよく決めなきゃいけない。そこに対する躊躇や恥ずかしさが当初はあったのですが、そこで振り切っている人たちのかっこよさを見たので、今となっては何とかやらせてもらっています」

−早乙女さんは準劇団員と呼ばれるほど、劇団☆新感線ではお馴染みの存在になっていますね。
早乙女「17歳から出演させていただいて、毎回新たな課題を与えてくださって、育ててくれた人たちという感覚もあります。自分の劇団以外で第二の故郷のような場所にしてくださったことが凄く嬉しいし、僕が若い頃に憧れたように、今の若い人たちが見て憧れるような場所になったら良いなと思っています」
芝居への熱い想いを重ね合わせて
−今作は芝居の上演を制限される世の中を描いており、コロナ禍など現代にも重ね合わせることができると思います。
向井「普遍的なメッセージじゃないかなと思います。いつの時代でも、政治や自然現象によって、虐げられている人はどこかにいるので、今の状況をなんとかしたいと思っている人たちは絶対共感できると思います。東日本大震災の時、僕は大阪で舞台をやっていたのですが、取材で震災によって休館してしまった美術館に伺いました。住民の方々は“早く開けてほしい”と言っていて、“お金を払って非日常を買う”というのがいかに平和な状況なのかを感じました。非日常は自分の心に余裕を与えてくれるし、ないと不安に感じる人もいるのだなと改めて気づいて。長時間劇場に座って、ゲラゲラ笑って帰ってもらう、シンプルなことでもそこに心の平安を感じる人がいるというのは、他にはない仕事だなと思います」
早乙女「僕もコロナ禍で演劇が不要不急と呼ばれた悔しさを経験していて、それはこの作品の時代も同じだと思います。芝居ってバカにされるけれど、それを信じて愛している人たちの想いの強さが入っていて、その想いは自分自身もいち役者として持っておきたいなと思います」
−最後にメッセージをお願いします。
向井「セルフオマージュが入っていたり、まだ隠し球もあったりしますし、新感線ファンはもちろん、初めて観る方も楽しんでいただけると思います。こういう世界観は他にはないので、秋祭りに行くような感じで観てもらえればうれしいです」
早乙女「こんなに劇団員が揃うのは最後なんじゃないかというくらい皆さんが集合しているので、新感線ファンの方も、知らない方が観ても楽しめると思います。皆さん色々な人間に会ったことがあると思いますが、ここには会ったことがない人間がいっぱいいます(笑)。そして意外に良いお話です。良いお話を照れ隠しのようにふざけてやっているので、誰が観ても楽しめると思います。忠臣蔵を知らなくても大丈夫なので、ぜひ楽しんでいただければと思います」

劇団☆新感線『爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK』は2025年9月19日(金)から9月23日(火祝)まで松本・まつもと市民芸術館、10月9日(木)から10月23日(木)まで大阪・フェスティバルホール、11月9日(日)から12月26日(金)まで東京・新橋演舞場にて上演されます。公式HPはこちら

演劇愛溢れる作品になりそうで、とても楽しみです。お二人は劇団☆新感線にどのようなスパイスを与えるのでしょうか。