ベルトルト・ブレヒト(1898-1956)による不朽の名作『コーカサスの白墨の輪』。この作品を原作とした音楽劇『コーカサスの白墨の輪』が、2026年3月12日(木)から世田谷パブリックシアターに登場します。戦争の最中に置き去りにされた1人の赤ん坊と、その”育ての親”と”生みの親”の姿を描いた本作。

読売演劇大賞優秀演出家賞など数々の受賞歴のある瀬戸山美咲さんによって、時代設定が「未来の世界」に変更され、オリジナル楽曲を全編にちりばめた新しい作品として生まれ変わります。

亡命中のブレヒトが描いた“母の愛”とは?

ブレヒトは『三文オペラ』や『肝っ玉おっ母とその子供たち』で知られるドイツの劇作家です。演劇に新しい時代を画したと言われるほどの人物ですが、第二次世界大戦時のナチス政権下では激しい弾圧を受け、長年の亡命生活を送りました。

第二次世界大戦による激動の時代を目の当たりにしたブレヒトは、アメリカでの亡命生活の中で『コーカサスの白墨の輪』を執筆しました。

戦地に行った恋人の帰りを待つグルーシェは、反乱が起きた町で、混乱の中太守夫人に置き去りにされた赤ん坊を背負いこんでしまいます。グルーシェは追っ手から逃れ、飢えと戦い、赤ん坊と共に旅を続けます。

赤ん坊を自分の子どもとして育てていく決意をしたグルーシェでしたが、やがて内乱が治まると、生みの親である太守夫人が赤ん坊の返還を求めてきました。しかし、彼女は内乱の際、赤ん坊を置き去りにした過去を持っているのです。

育てた”育ての親”グルーシェと、赤ん坊を置き去りにした”生みの親”太守夫人の裁判が始まって…。

戦争や内乱といった過酷な環境下では、人々の心が荒んでいくのは自然なことです。
しかし、この話に書かれたグルーシェの選択は、人間の中にある”希望”や”優しさ”を象徴しているのかもしれません。

ブレヒト演劇の金字塔を「これから」の物語へ

本作で上演台本と演出を務めるのは、『THE NETHER』や『わたし、と戦争』などで知られる瀬戸山美咲さん。過去には読売演劇大賞優秀作品賞、優秀演出家賞などの受賞歴がある気鋭の劇作家・演出家です。

瀬戸山さんは、原作を「遥か先の未来から、今より少し先の未来を振り返る」構造に再構成しました。

過去に描かれたブレヒトの傑作を、「これから」の物語として描き直すという試みは、現代の私たちにも強いメッセージを残すのではないでしょうか。

作品のメッセージにある”果たして、人間は今より「マシな存在になれるのか——」”というフレーズは、人類の永遠の課題だと思えるような、壮大なテーマを感じさせます。

木下晴香、平間壮一などミュージカル界の実力者が集結

主人公グルーシェ役には、2017年『ロミオ&ジュリエット』でミュージカルデビューを果たした木下晴香さん。近年は、NHK大河ドラマ『べらぼう』にも出演し、活動の幅を広げています。

グルーシェの恋人シモンを演じるのは『RENT』マーク役、『イン・ザ・ハイツ』ウスナビ役など、数々のミュージカルで主演を務めた平間壮一さんです。また、太守夫人ナテラ役には、ミュージカル『梨泰院クラス』『Once』などにも出演した文学座所属のsaraさん。

そして、物語の語り部となる旅一座の歌手役を務めるのは、宝塚歌劇団の元トップスターで確かな歌唱力を誇る一路真輝さんです。

その他、映像作品から木下歌舞伎まで、あらゆるジャンルの作品経験が豊富な眞島秀和さんが裁判官アズダクを演じます。

これだけの個性が揃ったキャストの皆さんが、瀬戸山さんの生み出す新しい『コーカサスの白墨の輪』をどう演じてくれるのでしょうか。

音楽劇『コーカサスの白墨の輪』は、2026年3月12日(木)から3月30日(月)まで世田谷パブリックシアターで上演。兵庫、岡山、佐賀、愛知での全国ツアーも予定されています。チケット一般発売は2026年1月18日(日)より開始です。
公式ホームページはこちらです。

糸崎 舞

この物語は、一人の母親として私個人にも深く刺さりました! ブレヒトというと少し難しいイメージがあると思いますが、瀬戸山さんの上演台本や演出が、原作をより魅力的なものに進化させてくれるのではないでしょうか。