3月1日から東京建物 Brillia HALLにて開幕するミュージカル『ロマンティックス・アノニマス』。ベルギー・フランス合作映画を原作に、翻案・脚本エマ・ライス、歌詞クリストファー・ダイモンド、音楽マイケル・クーマンによってミュージカル化された作品です。日本初演において、ヒロインのアンジェリークを演じる吉柳咲良さんにお話を伺いました。
チョコレートを存分に感じられる演出に

−お稽古が進んでいる中で、物語への印象はいかがですか。
「繊細な心の動きが主軸になっているので、表情の細部まで見たくなるような、小劇場でも観てみたいなと思う作品です。物語としては凄く小さな世界で起こっていることですが、当の本人たちからしたら世界を変えるくらいの強さを持っている出来事で。正解は一つではないということを教えてくれるし、誰もが共感できる部分のある作品だと思います」
−内気な天才チョコレート職人アンジェリーク役ということで、チョコレートを作るシーンもあるのでしょうか。
「あります。チョコレート工場に見学に伺って、テンパリングの仕方や、豆の選別について、産地によって香りや味が違うことを学びました。実際に板チョコを作る経験もして、思った以上に温度調節が繊細で、人間の心とリンクしているということを知れました。劇中でも、本物のチョコレートではないですが、演出部の皆さんの力で、本物にしか見えないチョコレートが登場します。また、本物のチョコレートを食べるシーンがあったり、チョコレートを存分に堪能していただける演出になっているので、ぜひ楽しんでいただきたいです」
−マイケル・クーマンさんが手がける音楽についてはいかがですか。
「素敵な楽曲ばかりです。音楽によって作品の世界観に惹き込まれていく感覚があるし、歌うための音楽というより、物語が進んでいく後押しをしてくれる音楽という印象です。紡いでいく言葉も凄く繊細ですし、台詞混じりの歌もあります。一方で、心情を表す時はダイナミックに音が使われていて、凄くナチュラルな雰囲気があります」
−舞台美術、セットについてもお聞かせください。
「様々なシーンの絵を見せていただいたのですが、とってもテンションが上がりました。ファンタジー要素のあるシーンもあるんですけれど、そのシーンの描き方がなんとも可愛らしくて。キュートな世界観が素敵です。お芝居は凄く繊細なのに、音楽やセットが背中を押してくれていて、全てがうまく繋がって『ロマンティックス・アノニマス』という作品になっていると思います」
人生を諦めていないからこそ、葛藤を抱えるアンジェリーク

−ロマンティック・コメディということで、コメディシーンについてはいかがですか。
「ジャン=ルネとアンジェリークはとってももどかしい2人で、他人の目を気にしすぎるが故にすれ違ってしまう瞬間も多いです。そこも微笑ましいと思いますし、2人を囃し立てながらも、背中を押してくれる登場人物がたくさん出てきます。ストーリーテラーがいることもあって、客席に物語であることをバラしてしまうような、メタ的なシーンもあって。飛び出す絵本のような感じもあります」
−ダンスシーンもあるのでしょうか。
「たくさん踊っています。ジャズテイストの振り付けが多く、私はヒップホップ出身なので苦戦しつつ…綺麗に見せられたらと思いますし、そこはミュージカルっぽさがあるので面白いなと思います」
−アンジェリークという役柄はどんなキャラクターだと捉えていますか。
「アンジェリークを表現する台詞として、“引きこもり職人で天才ショコラティエ”という言葉が何度も出てきます。誰にも姿を見せないでチョコレートを作っているのですが、チョコレートはものすごく人の心を動かす力を持っている。その二面性が印象的で、チョコレートへの愛や情熱はとてもあるし、自分の気持ちをチョコレートに吐露しているような感覚もあります。自分自身も前に進みたいという意欲はあるけれど、恐怖心や、弱さもあって。心がやられてしまいながらも、何度も立ち向かう強さもあり、人生を諦めていないからこその葛藤を凄く持っている子だと思います」
−ご自身が共感したり、シンクロしたりする瞬間はありますか。
「共感できるところだらけです。アジェリークは人の目が気になって、人前に立つと最終的には気絶してしまうのですが、そこまではいかなくても、心臓の音が早くなっていく感覚はとてもよく分かります。自分は過剰に人の目を気にしすぎだなと思うこともあるし、それでも自分を変えていきたい、諦めずに進んでいきたいという葛藤を同じようにしてきたと思います」
岩﨑さんはジャン=ルネそのもの

−ジャン=ルネを演じる岩﨑大昇さんの印象はいかがですか。
「ジャン=ルネを、岩﨑さん以上にうまくできる人はいないと思います。どの瞬間も、ジャン=ルネでしかない。頑張ってジャン=ルネを演じているわけではないリアリティがあるんです。滲み出ている優しさもありますし、カンパニーみんなが、台詞を言っているのかご本人として言っているのか分からない感覚になっています。 “ここはどうしていこうか”と細かくディスカッションしながらできているのもありがたいです。岩﨑さんが嘘なくやられるので、私も嘘なく自然と出た言葉になっています。そういう掛け合いが意図せず自然にコメディになっていくのが楽しいです。歌声も素敵で、もう一生ジャン=ルネ役をやり続けてほしい(笑)。この繊細さは岩﨑さんで観たい、ってみんなが思うと思います」
−カンパニー全体の雰囲気はいかがですか。
「キャストが少人数なので、何役も演じる方も多く、キャラクターが切り替わっていくのが印象的です。日本初演でもありますし、みんなが切磋琢磨して良い作品づくりをしようという雰囲気になっていると思います」
−スコット・シュワルツさんの演出についてもお聞かせください。
「日本初演ということもあって、細かく詰めていかなければいけない部分も多いのですが、スコットさんがとても温厚で、ラフにいてくださります。キャストやスタッフの言葉を丁寧に聞いてくれるし、“その考え方は凄く良いね”といった肯定的な言葉と共にディスカッションをしてくださる。無理に演出に沿ったことをしなければいけないというプレッシャーがないので、気持ちの整理をしながら進めていくことができています。何よりも、稽古終わりに毎日、“今日はこんなことが出来て凄く良かったね、みんなありがとう”と言って、拍手をしてくださるんです。初演の大変さがある中で、毎日この雰囲気を保てるのは、やはりスコットさんの人柄が大きいと思います」
弱さも丸ごと受け入れる勇気をくれる作品に

−本作は吉柳さんと同世代の女性にとっても共感する部分が多そうですね。
「ファンの皆さんからもよく相談してもらうのですが、自分自身の弱さと向き合う難しさや、人に対しては出来るけれど自分に対しては自己受容ができない、という人は多いと思います。私自身もそういった悩みを抱えてきたのですが、自分ができないことがあった時、“責める自分”を責める必要はないし、それも含めて自分だよね、と認められることが自己受容だと思います。それをとても温かく伝えてくれる作品なので、きっと救われたと感じてくださると思います。チョコレートの甘くて苦い世界観を楽しめる作品ですし、私は序盤とラストがすごく大好きなんですけれど、始まってすぐに作品の世界に惹き込まれると思うので、それを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです」
−吉柳さんはこの作品と出会って変化はありましたか。
「毎回色々な作品や役と出会うたび、自分がこじ開けたくないところを、結局こじ開けなければいけないんだなという感覚があるんですけれど、今回もそれをすごく感じています。自分に近い役だからこそ嘘がつけなくて、冷静になれなくなる瞬間もあるのですが、リアルな感覚で演じられるのが良いなと思いますし、私自身が今アンジェリークと同じように感じているんだな、と共感できることが嬉しいです。自分という体を使って演じている以上、どうしても切り離せない部分はありますし、リアリティがありながらも、物語性に救われている。これを同時にできているのが良いなと思います。アンジェリークを通して、フラットな価値観をもらったり、“こういう道もあるんだな”と勇気づけられたりするシーンがたくさんあります」
−吉柳さんはいつも考えていることを正直にお話しされるので、共感されるファンの方が多いんでしょうね。
「いつも正直に話しすぎなのですが…自分は完璧にはなれないし、完璧を追い求めることが完璧なのか?という問いを繰り返しているのは、きっと私だけじゃないなと思うんです。私自身、皆さんが共感してくださることで救われた瞬間がたくさんあったし、手を差し伸べてくれる人たちがいたからこそ、この世界で10年もやってこられたんだと思います。いつまでも救われる側で満足してはいけないし、この立場だからこそ発信できることがあると思う。共感したりしてもらったり、助け合っていけたら良いなと思います。いつも与えてもらっている愛を、感謝や、悩んでいる人の同じ目線に立つことで、返していけたらと思っています」

ミュージカル『ロマンティックス・アノニマス』は2026年3月1日(日)から24日(火)まで東京建物 Brillia HALL、4月1日(水)から5日(日)まで東京建物 Brillia HALL箕面 大ホールにて上演が行われます。公式HPはこちら
吉柳さんはいつも心の内を静かにオープンにお話してくださるので、お伺いしていても引き込まれます。ロマンティック・コメディということだったのでキュートな雰囲気での撮影をさせていただいたのですが、お花を持って様々な表情を見せてくださりました!


















