出てくるのは、ジェイミーとキャシーという2人の男女だけ。出会いから別れまでを描くジェイミーと、別れから出会いまでを振り返るキャシー。2人の物語が重なるのは、結婚式の時のみ。オフ・ブロードウェイ作品であり2014年に映画化もされた本作の魅力をリポートします。(2021年7月・オルタナティブシアター)

バンドの生演奏を前に、2人の男女がすれ違うミュージカル

後列でもたっぷりと臨場感があるオルタナティブシアターで、舞台上にバンドの生演奏が組まれ、ジェイミーとキャシーが交互に歌い続けることで物語が進んでいく『The Last 5 Years』。まさにナマモノである空間の贅沢さに酔いしれます。

一方、物語はとても切ないもの。ニューヨークに住む人気小説家のジェイミーと、売れない女優のキャシーが出会い、恋に落ち、結婚し、そして別れる5年間を描きます。ジェイミーは出会いから別れまで、キャシーは別れから出会いまでを歌で辿って行きます。2人の物語がずっとすれ違い続け、愛を誓い合う結婚式でのみ目が合い重ね合わさる構成は、観客に心臓がぎゅっとなるような切なさを増させる効果をもたらします。

3組のペアが織りなす大人の“リアル”なミュージカル

木村達成さん×村川絵梨さん、平間壮一さん×花乃まりあさん、水田航生さん×昆夏美さんの3組で演じられている本作。私は水田航生さん×昆夏美さんの回を観劇しました。稽古中はそれぞれの演技を見ず、各役者の持ち味に合わせて小林香さんが演出されたとのこと。

昆夏美さんは売れないながらも「専業主婦にはならない」と女優の夢を追いかけようとする強さと、恋する愛らしさを流石の歌唱力で表現。目に涙をためながらも別れを受け入れようとまっすぐに立つ姿にグッと惹き込まれます。水田航生さんは純粋に熱烈に恋する姿と、小説家として仕事にも没頭するいつまでも青年のようなまっすぐな姿が印象的。2人は互いを想いながらも少しずつすれ違ってしまう。それは夢を叶えるペースが異なることだけが理由ではないでしょう。どこで何が違ったら、2人は別れを選択せずに済んだのだろうか。思わず考え込んでしまいながらも、ハッピーエンドではないリアルさはこの作品の魅力。また、別れを選択することが時に人生を好転することもあるでしょう。2人の歌唱力や生演奏の素晴らしさに感嘆し、カーテンコールでは仲良しなお2人にほっこりとさせられました。

Yurika

『The Last 5 Years』は、ハッピーエンドのファンタジー作品は苦手…という方でも観劇しやすいミュージカル作品ではないでしょうか。7月18日までオルタナティブシアターにて上演、その後大阪公演が予定されています。チケットぴあでのチケット購入はこちら