7月25日に待望の日本版初演を迎えるミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』。開幕を前に、エヴァン役の柿澤勇人さん/吉沢亮さん、ハイディ役の安蘭けいさん/堀内敬子さん、ゾーイ役の木下晴香さん/松岡茉優さんら、総勢23名のキャストがプレスコールに臨みました。(各役五十音順/Wキャスト)

“助けが欲しいときは きっと見つけてくれる 誰かが”

作詞・作曲を『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』を手掛けたベンジ・パセック&ジャスティン・ポールのゴールデンコンビが、脚本を名作『RENT』に大きな影響を受けたスティーヴン・レヴェンソンが手がけ、2016年にブロードウェイで上演、第71回トニー賞でミュージカル作品賞・ミュージカル脚本賞・オリジナル楽曲賞など6部門を獲得した大ヒットミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』。

日本版では小山ゆうなさんを演出に迎え、新劇場EX THEATER ARIAKEのオープニングラインナップ第3弾として上演、愛知・大阪でも上演が行われます。

プレスコールで披露されたのは本作の代表的な楽曲と共に描かれる4つのシーン。まず幕開けの「誰か地図をもってる?/Anybody Have A Map?」「窓越しに手を振る/Waving Through a Window」が披露されました。

出演は、エヴァン役:柿澤勇人さん、ハイディ役:堀内敬子さん、ゾーイ役:松岡茉優さん、コナー役:立石俊樹さん、ジャレッド役:須賀健太さん、アラナ役:高野菜々さん、シンシア役:マルシアさん、ラリー役:石井一孝さん ほか。

「今日はいい日になる、理由はこうだ」。社交不安障害を抱えるエヴァンが、医師にセラピーの課題として勧められた自分宛の手紙を書き始めることから始まります。母ハイディは息子を心配し、骨折した腕のギプスに友人の名前をサインしてもらうように提案。

一方、マーフィー家では暴力的で孤立した息子コナーと心を通わせることができず、家族の間に溝が深まります。ハンセン家とマーフィー家、経済的な状況は対照的でありながら、息子の心の内が見えないという共通の悩みを抱えている様が伺えます。

高校でエヴァンは、同級生のアラナやジャレッドにギプスへのサインを求めますが、応じてもらえず。そこにコナーがやってきて…。エヴァンは“走り出す前にブレーキを踏む”自分の人生を振り返り、孤独な心情を募らせます。“手を振る 窓越しに 誰か気づいて振り返してよ 僕に”。

柿澤勇人さんは、人前ではおどおどとした様子を見せながらも、一度話し始めると早口で言葉が止まらなくなるエヴァンの繊細なキャラクターを丁寧に体現。ミュージカルファンから愛される名曲「Waving Through a Window」では、原曲が持つ抑揚やリズム感を大切にしながら、日本語版ならではの自然な表現へと昇華させました。パセック&ポールによるキャッチーなメロディーと言葉の響きを、日本語で違和感なく届けるには高い歌唱力と緻密な表現力が不可欠。その難曲を見事に歌い上げ、本作における柿澤さんの存在感の大きさを改めて印象づけるパフォーマンスとなっていました。

続いて披露されたのは「伝えられたら/If I Could Tell Her」。コナーが自ら命を絶った後、コナーと自分は親友だったと嘘をついてしまったエヴァンは、コナーの妹であるゾーイにコナーとのエピソードを話して聞かせます。

好意を寄せるゾーイに、兄が自分について何と話していたかを問われたエヴァンは、秘めた恋心を重ねて言葉を紡いでいきます。松岡茉優さん演じるゾーイは、決して良好な関係とは言えなかった兄の死にどう向き合えば良いのか分からず、戸惑う姿を静かな佇まいで魅せていきます。

3つ目のシーンは、「Disappear/消えていい人はいない」と「You Will Be Found/誰かが見つけてくれる」。出演はエヴァン役:吉沢亮さん、ハイディ役:安蘭けいさん、ゾーイ役:木下晴香さん、コナー役:廣瀬友祐さん、ジャレッド役:上口耕平さん、アラナ役:宮澤佐江さん、シンシア役:瀬奈じゅんさん、ラリー役:新納慎也さん ほか。

心の中に潜むコナーの声に後押しされ、エヴァンはコナーを追悼する「コナー・プロジェクト」をアラナ、ジャレッドに提案します。

追悼集会でスピーチを求められたエヴァンは、“助けが欲しいときは きっと見つけてくれる 誰かが”という願いにも似た強い言葉が溢れ出し、SNSでの拡散によって感動や共感を集めていきます。

2016年当時、いち早くSNSを大きく取り扱った作品としても注目を集めた『ディア・エヴァン・ハンセン』。日本版ではSNSの広がりや混沌を、美術や映像、ステージングで象徴的に見せていきます。

誰かの言葉が、世界のどこかにいる孤独な誰かに届き、勇気を与える。そんなポジティブな側面と、どんな言葉でも一瞬にして広まってしまうネガティブな側面、双方が描かれた本作は、2026年にも強く響くのではないでしょうか。

開演前には舞台上のモニターで、作品の公式SNSで募集した「自分宛の手紙」「とっさについてしまった嘘」「ひとりじゃないと感じる瞬間」「愛するわが子へ」のメッセージも表示されています。

また本作では日本版ならではの演出として各登場人物の心情を表現する“影”をダンサーが演じ、視覚的に作品に奥行きを与えます。

木下晴香さんはエヴァンの“唯一の希望”であるゾーイを美しい声と圧巻の歌唱力で印象的に表現しています。

プレスコールの最後に披露されたのは「大きな家 小さな私/So Big/So Small」。嘘が大きな出来事に発展し、傷つくエヴァンに、母ハイディは父が家を出て行った日のことを振り返りながら、“大きく思えてもいつか小さくなる”と語りかけます。

吉沢亮さんは、高校生そのものと思わせる瑞々しい佇まいでエヴァンを体現。プレスコールのわずかな時間の中でも涙をにじませるほどの高い表現力を見せ、その柔らかな声がエヴァンの繊細な心情をより深く印象づけました。短い披露ながら、その役への没入度の高さを存分に感じさせるパフォーマンスでした。

そして舞台美術はSNSを描くデジタルな映像演出と、「窓越しに手を振る/Waving Through a Window」に通じる擦りガラスのセットが印象的。盆を存分に活用して2つの家族、エヴァンとコナーの交差を描いていきます。ゲネプロではWキャストで演じ方の違いも多く感じられ、各キャストのアプローチを大事にされた演出だと感じました。

撮影:山本春花

SNSで言葉は一瞬にして広まる時代になりました。“1人じゃない”と感じられることは、日常生活で深い孤独を感じていたエヴァンにとって、強い希望だったと思います。しかしSNSに解き放たれた言葉は例え嘘であったとしても、広まってしまえば全員に訂正することは難しく、“言ったもの勝ち”な側面を持つのもSNSです。

嘘がまるで真実のように広まっても、自分自身は嘘をついたことを知っています。優しい嘘や小さな過ちも、自分の手には負えなくなるほど大きくなってしまうこの時代に、私たちは完璧ではない自分自身と、どう向き合ったら良いのでしょうか。2026年の今だからこそ、『ディア・エヴァン・ハンセン』を通して考えられることがあるように思います。

そして、今深い孤独の中で苦しみ、“誰も助けに来てくれない”と感じているあなたへ。劇場はその孤独にそっと寄り添って、“1人じゃない”と伝えてくれる場所であることが、この作品を通して届くことを願っています。

クリエイター&キャストコメント

小山ゆうな(翻訳・演出)
ブロードウェイの初演から10年が経ち、SNSをはじめとする仮想空間で発信される言葉や画像・動画が私達に及ぼす影響はより直接的になり、コロナ禍を経たことで人と人が繋がる事の意味合いも大きく変化しました。
2026年の今、日本で上演するのにベストの形を目指すべく話し合い、試み、修正を繰り返しながら稽古を進めてきました。
今まで『ディア・エヴァン・ハンセン』を愛してきた方々にも初めて触れる方にも楽しんでいただけることを祈っています。
EXシアター有明のオープニングラインナップ3作目。是非劇場へいらしてください。

■柿澤勇人(エヴァン・ハンセン役/Wキャスト)
カンパニー一同、長い期間を共に、一生懸命稽古に取り組んでまいりました。
お客さまに観ていただくことで作品が完成すると思いますので、早く我々の時間を共有したいです。
皆さまが最後のピースです。
忘れられない夏になると確信しております。
ご来場を心よりお待ちしております。

■吉沢 亮(エヴァン・ハンセン役/Wキャスト)
ブロードウェイでお芝居の素晴らしさに衝撃を受けた『ディア・エヴァン・ハンセン』を、いよいよ皆様にお届けできることを嬉しく思います。
人とコミュニケーションを取ることに憧れを持っていたエヴァンが、ほんの少し踏み出していく成長の物語を、たくさんの方に観ていただきたいです。
ミュージカルは2度目なので緊張していますが、最後まで走り切れるように精一杯頑張ります。

ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』は2026年7月25日(土)から8月23日(日)までEXシアター有明(東京ドリームパーク内)にて上演。8月29日(土)から9月6日(日)まで愛知・御園座、9月10日(木)から21日(月祝)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

映画版の『ディア・エヴァン・ハンセン』が公開された2021年、コロナ禍でエヴァンと同じような孤独を抱えていた時に、「Waving Through a Window」や「You Will Be Found」に涙が溢れて止まらなくなったことを思い出します。あの時は不安や絶望感に押しつぶされそうで、自分にできることは何もないと感じていました。でも私には演劇から“もらったもの”が多くあり、それが一筋の光となって、もう一度歩き出すことができました。本作を通して、そんな光が多くの人に届くと良いなと思います。