日本でも熱狂的ファンの多いブロードウェイミュージカル『RENT(レント)』。25周年のアニバーサリーであり、オリジナル演出見納めでもある本公演の観劇リポートをお届けします。『RENT(レント)』のあらすじはこちら(2022年5月・東急シアターオーブ)

コロナ禍を経て、対峙する『RENT』の世界

初めて『RENT(レント)』の来日公演を観たのは、2016年のこと。「NO DAY BUT TODAY」、今この瞬間を生きる彼らの強さに共感し、勇気をもらった作品でした。しかし今から思うと、不治の病としてのエイズ、「去年の家賃」を払えないほどの貧困、同性愛者に向けられる偏見の目、といった作品が投げかけるテーマについて、理解が浅かったように思います。未曾有のウイルスに怯え、世界が時を止めたような日々を過ごした今、改めて対峙した『RENT』からは、作品の根底にある悲しみと強さが、ひしひしと伝わってくるようでした。

HIVに感染、死への恐怖の中で自分は何を残せるのかと自問自答し、引きこもるロジャー。“もし自分がもっと若かったら(そしてHIVに感染していなければ)、君と恋に落ちただろうね”と悲観的になるロジャーに対して、ミミは“未来も過去もない。あるのは今だけ”だと強く語りかけます。ミミもHIV陽性で、彼女は更にドラッグとも闘っているのに。

また本作の人気No.1キャラクターと言っても過言ではないエンジェルについても、この数年で大きく解釈が変わりました。LGBTQにまつわる議論と課題を多く知るようになった今だからこそ、彼女がどんな日々を過ごしてきたか、その上であらゆる人々に愛を忘れない彼女の人間としての強さを、痛感させられたのです。

名曲「Seasons of Love」で歌われる“愛をシェアし、広げよう”というキーワードは、エンジェルの生き様であり、作品の大きなメッセージ。刹那な人生の中で、人はどう生きるべきか。人生の価値を何で測る?キャスト全員が言葉1つ1つを丁寧に歌う姿を見て、この曲の壮大さを実感しました。

遺された人・コリンズ

登場人物たちと観客の心を掴み翻弄するモーリーンなど魅力的なキャラクターたちが多い中で、筆者が強く心動かされたのは、エンジェルを最後まで看取ったコリンズでした。彼がエンジェルを失った後に歌う「I’ll Cover You(Reprise)」は教会のレクイエムのよう。仲違いする恋人たちに向かって、エンジェルの愛を忘れたのか?彼女の死を無駄にするなと切願する彼の言葉は、多くの人を失ったコロナの時代の私たちに向けられているようでした。

Yurika

エンジェルやモーリーンの登場シーンから大きな拍手が鳴り止まない、熱気に溢れた劇場。多くの『RENT』ファンが作品への愛を伝えようとしていることが感じられ、「Seasons of Love」で起こる大きな手拍子に涙が止まりませんでした。