ウィリアム・シェイクスピアの名作で、今日本でも数々のプロダクションが上演する『リア王』。9月に新橋演舞場で上演される『リア王』ではリア王役に中村芝翫さん、演出に井上尊晶さんを迎え、演舞場のスケールを活かしつ、現代にも通じる物語として描かれます。リアの家臣グロスター伯爵の長男エドガーと庶子エドマンドを演じるのは、三浦涼介さん、大野拓朗さん。ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』以来の共演となるお2人に、本作にかける思いを伺いました。
簡単には決断できなかった、シェイクスピア4大悲劇への挑戦

−まずは本作の出演を決めた理由、今の心境についてお聞かせください。
三浦「僕は正直、出演を決めるまでにとても悩みました。ここ数年、精神的にも肉体的にもハードな作品に携わる機会が多かったので、『リア王』という名前を聞いただけでも尻込みしてしまう感じがあって。でも色々とお話しさせていただき、自分とも向き合いながら、悩みに悩んで出演を決断しました。すごく考えて出した結論だったので、やると決めたからには良い作品にしたいですね」
大野「シェイクスピア劇に挑戦するということは、自分の中でハードルが高いことだったのですが、今まで悪役というものを演じる経験が少なかったので、場をかき乱すエドマンドという役をいただけたこともあり、自分の中で新たな扉が開くんじゃないかという予感があったので、“ぜひ!”とお引き受けしました」
−出演が決まって戯曲を読んでみて、『リア王』の魅力をどのように感じていますか。
三浦「やはりここまで歴史のある作品で、様々な方がやっていて、特に近年は日本でも多く上演されている作品ですから、そこはまだ我々も知らないような計り知れない魅力がたくさん詰まっているのだと思います。多くの人が大切に思っている作品なわけですし、色々な演出・パターンがあって、時代に合わせて作品が変化しているところも面白いです」
大野「本当にその通りですね。その上で今回は石井美樹子さんの訳で上演されるということで、日本初、つまりは世界初の、この脚本自体もとても魅力的だなと思います。きっと今まで『リア王』を観たことがある方、シェイクスピアファンの方にも新しい世界観をお届けできると思います。
『リア王』という作品は登場人物に悪役が多く、みんなが思惑を秘めて、自分の欲望のために動く、舞台上の熱量が高い作品だと思います」
三浦「エドマンドのせいでしょう!(笑)」
大野「でもリアの娘たちも、リア自身にも欲望がありますから(笑)。色々な欲望が渦巻く世界観が楽しみです」
愛ゆえに戦うエドガーと、孤独を抱えるエドマンド

−エドガー、エドマンドの印象や、役作りにおいて大事にしたいと思われていることはありますか。
三浦「エドガーは巻き込まれていく人物なので、誠実さや、思いやりのある部分を繊細に大事に演じたいですね。復讐もありますが、やはり血は争えない。僕は大野さんと久しぶりに共演できるのが楽しみです。前回『ロミオ&ジュリエット』でご一緒した時は親友役でとても良いバディになれたので、今回は戦えるだけ戦いたいなと思います」
大野「エドマンドは生い立ちによる深い孤独感や葛藤を抱えて生きてきたと思うので、根底にある飢えや寂しさを丁寧に理解しながら演じられたら良いなと思います。エドマンドも血は争えない、家族への思いや純粋で誠実な部分もあるはず。誠実な部分を外的要因で崩されたからこそ、ひねくれてしまった人物なのかなと思っています」
三浦「拓朗が演じるからそういう思いが生まれるんだろうね」
大野「僕をわざわざエドマンドにキャスティングしてくださったということは、やはり僕の要素が何かしら入ってくるんだろうなと思うと、自分なりにできるエドマンドを大切にしたいです。あとは3姉妹のうち2人を手玉に取るカリスマ性、モテる要素を研究していけたらと思います」
三浦「それはもうできるよね?!(笑)」
大野「いやいや!やめてください!(笑)りょんくんも言ってくれたように元々親友役でやらせていただいて、強い信頼関係を築いてきたので、信頼関係があるからこそ、思う存分エドガーをいじめ抜きたいです(笑)」
−エドマンドの全てをかき乱す原動力はどこから生まれていると思われますか。
大野「今感じているのは、寂しさや自己承認欲求です。自己顕示欲というよりは、自己承認欲求。何で構ってくれなかったんだ、という思いなのかなと思います」
−エドガーは追放された時、国を立ち去ることもできたと思います。そうせずに狂人にまでなって荒野にいたのはなぜだと思われますか。
三浦「父親への愛、弟への愛だと思います。僕が同じ立場だったら、父のグロスターを見ても“知らんがな”と思うかも(笑)。自分が壮絶な状況に置かれても、それでもと行動できるのは、愛ゆえだと思います」
『ロミオ&ジュリエット』以来7年ぶりの共演

−お2人は2019年のミュージカル『ロミオ&ジュリエット』以来の共演となります。当時印象に残っていることはありますか。
三浦「多くのキャストが2017年からの続投だった中、僕は2019年に初めて作品に参加したので、すごく必死でした。地方公演に入ってからやっとみんなでパンケーキを食べに行ったことは覚えている(笑)」
大野「りょんくんは普段の稽古場ではすごく柔らかくて、おしゃれで、可愛らしくて優しいという印象なんですけれど、パフォーマンスをすると歌い方がロックだし、すごくかっこよくて、ベンヴォーリオとして優しくて包容力があって。変幻自在な人なんだなという印象でした」
三浦「そうなの?!嬉しいなぁ」
大野「稽古場の時も飄々としていて、全然余裕に見えました」
三浦「いやいや!毎朝早く稽古場に行って、大変だったんだから」
−久々の共演が決まっていかがでしたか。
三浦「あっという間に7年も経ったんだと驚きました。当時に戻るような感覚と、各々が7年の間に培ってきたものの答え合わせを稽古場で出来るのが楽しみでワクワクしています」
大野「全く同じ思いです。僕もこの7年間で成長しましたということを伝えたいし、全力でぶつかって、魂の交歓ができたらと楽しみにしています」
−再びシェイクスピア作品での再会となりましたね。
三浦「不思議ですね。蜷川幸雄さんの元にいらした井上尊晶さんの演出作品で再会できたというのが嬉しかったです」
−井上尊晶さんの演出というのも、観客の本作への期待が高まっているポイントの1つだと思います。
大野「ポスター撮りの時、どのくらい和を入れるんですか?と伺ったらまだ分からないとおっしゃっていたので、これからどう創られていくのか楽しみですね」
三浦「以前、出演させていただいたWOWOWの音楽番組『宝塚プルミエール LIVE 2018』の演出を尊晶さんが担当されていたのですが、動物の骨格標本などが展示されているインターメディアテクというミュージアムでの公開収録だったんです。突拍子もないというか、びっくりするようなことを考えられるのは、蜷川さんの血を受け継いでいらっしゃるのかなと思います。今回もどんな演出をされるのか楽しみです」
−リアを演じる中村芝翫さんの印象はいかがですか。
三浦「3人の息子さんがいらっしゃるということなので、ご自身がリアと重なっていくのが楽しみです」
大野「人に好かれるチャーミングな、魅力的な方なんだろうなという印象があります。よく周囲の方をお家に招いていらっしゃると聞いたので、人に慕われる方なのだろうなと。歌舞伎界の第一線を走られている方なので緊張もありますが、そういうお話を聞くと安心します」
分からなくても向き合い続けることで見えてくる、シェイクスピアの面白さ
−“演劇は時代を映す鏡”というシェイクスピアの言葉もありますが、近年では特に日本で『リア王』が求められていますよね。お2人は作品に挑む時、時代性や現代性というのはどこまで意識されていますか?
大野「僕は現代との共通点はそこまで考えないんですけれど、当時の時代背景を調べるのはすごく好きです。知識欲があるので、知らなかったことを知る作業が好きですね」
三浦「以前、歌舞伎に関する作品(『桜姫東文章』)に出演した時、歌舞伎の台詞回しの意味が最初は分からなかったんです。でも英語を学ぶ時に、日本で学ぶよりアメリカに行って生活してみた方が覚えるのが早いように、とにかくやり続けていたら、気づいたらその意味が分かって演じられるようになった瞬間がありました。
自分が20代の時は、シェイクスピア作品は難しい、本が長い、台詞が多いと言ったことに追われていた印象があります。でも今は経験と年齢のせいなのか、それを超えられるんです。もちろん時代背景を知って理解することも大事だけれど、それ以上にやり続けることで答えに近づけるんだなという印象があります。どんなに台詞が長くても、そこに込められた思いや、面白さというのは感じられるようになってきたかもしれません。
ギリシャ悲劇『オイディプス王』も自分の頭から煙が出るような、汗で水溜りができるような長台詞ばかりですけれど、再演では初演と比べると自由な感覚がありました。そこまで行けたら楽しいと思います」
大野「心強い!楽しみ!僕も今回そういうことに気づけたら良いですね。シェイクスピアというのも、シェイクスピアを専門に学ぶ学校や、一生をかけてシェイクスピアを専門にやっていく劇団があるくらいですから、伝統芸能に近いかもしれません」
−最後に本作を楽しみに待っている方へ、メッセージをお願いします。
三浦「数ある『リア王』の中で、我々がやる意味、出会えた意味を、劇場でお客様に真摯に向き合ってお伝えできればと思います。何が心に残って、どう感じたか、後でお手紙やSNSで感想を教えていただければ嬉しいです。一生懸命頑張ります、よろしくお願い致します」
大野「シェイクスピアの4大悲劇『リア王』と聞くと、難しい、ハードルが高いと感じる方もいると思います。でもりょんくんがお話しされたように、分からないなりに何度も何度も経験していくことで気づくことが、僕自身もこれまでにあったなと思います。そういう楽しみ方があるなとすごく腑に落ちたので、今まで通ってこなかった方も、『リア王』の世界観に一度足を踏み入れてみていただきたいです。1回で分からなくとも、2回、3回と観ていけばスルメのように味が出てくると思います。
そして『リア王』ファンの方も、新しい翻訳で、尊晶さんの演出で、新しい『リア王』の世界観が生まれると思います。ぜひ劇場に新しい経験をしに来ていただければと思います」

舞台『リア王』は2026年9月6日(日)から22日(火・祝)まで新橋演舞場にて上演されます。公式HPはこちら
シェイクスピア作品は見れば見るほど、考えれば考えるほど、多面的な魅力が出てきます。様々なタイミングが重なって『リア王』が多く上演される今、短期間で演出や役者によって作品の多面性が感じられるというのは凄く贅沢な機会だと思います。三浦さん、大野さんが役柄をどのように捉え、映し出すのか楽しみです。



















