2000年の同名映画をミュージカル舞台化した『ビリー・エリオット』。2005年にロンドンで初演され、数々の演劇賞で最優秀作品賞を受賞するなど高い評価を得ています。高い身体能力が求められる主人公のビリー役をはじめ、子役が大活躍の本作。日本でも2017年と2020年に上演、注目作品として多数のメディアに取り上げられてきました。今回はミュージカル『ビリー・エリオット』の基本情報をご紹介します。
夢へ羽ばたく少年に希望を見出す大人たち
物語の主人公・ビリーはバレエを習ったことをきっかけに、踊る喜びに目覚めた少年。数年前に他界した母への恋しさを小さな胸に抱え、イギリス北部の田舎町で炭鉱夫として働く父と兄、そして痴呆気味の祖母とともに、つつましい暮らしをしていました。
ひょんなきっかけから家族に内緒でウィルキンソン先生のバレエレッスンを受ける事になり、バレエの楽しさを知ったビリー。先生は彼に才能を感じ、ロイヤル・バレエ学校のオーディションを受けるよう説得し、放課後にバレエの特訓を施します。
その間、ビリーの父と兄は炭鉱夫の待遇改善を訴えるストライキ運動に加勢し、エリオット家は収入が途絶えて家計が苦しい状況に。オーディションを受けることを知った父と兄は猛反対、「バレエなんて男のするもんじゃない」と持論を押し付けます。ビリーは大人達から向けられるさまざまな期待の板挟みになり、一度はバレエを諦めてしまうのでした。
それでも一人になると、燻る感情をバレエに昇華させ、夢中で踊るビリー。その姿を偶然目にした父は、息子に夢を追いかけるチャンスを与えてやりたい、炭鉱夫とは違う人生を歩ませたい、と新たな思いを抱きます。オーディションが行われるロンドンまでの旅費さえ工面できない状況で、父親が息子の夢のために下した決断とは・・・
複雑な家庭環境で、そして炭鉱夫だらけの田舎町で、バレエ・ダンサーになりたいという夢を抱いたビリーの挑戦。次第に周りの大人たちの心に変化をもたらすビリーの存在は、彼らの希望の光として描かれています。
選び抜かれた子役達の挑戦に釘付け!
本作の注目ポイントはなんと言っても子役たち。特にビリーはバレエ、タップ、アクロバットを求められるため、長期間のオーディション兼特訓で、スキルを習得した少年だけが演じることができる難役中の難役。本番での過酷さは、演出家に「ビリーを演じることはマラソンを走りながらハムレットを演じるようなもの」と言わしめるほどです。
ダンススキルと体力を磨きながら、複雑な環境で自分を見つめるビリーの役どころを深める子供たち。舞台上でこれでもか!と動き回る一生懸命な姿は、世界各地で観客の心を鷲掴みにしてきました。
ロンドン公演の歴代ビリーの中には、その後も高い身体能力を活かして映画や舞台で活躍する方も。初演でビリーを演じた1人、リアム・ムーアさんはその後バレエ・ダンサーとしてキャリアを重ね、オールダー・ビリー役(ビリーが成長した姿として登場するバレエ・ダンサー)で『ビリー・エリオット』への再出演を果たしました。
また、マーベル映画でスパイダーマンを演じるトム・ホランドさんもビリーを演じた1人。舞台で磨きをかけた運動神経を発揮し、映画ではスタントなしのアクションシーンを多数こなしています。
本作を観るなら、まずは2014年にライブビューイングを行った際のロンドン公演映像版がおすすめ。ビリーの躍動感や大人が闘うストライキの臨場感などが画面越しでもしっかりと伝わってきます。カーテンコールでは歴代ビリー総出演のスペシャルパフォーマンスもあり、見応え抜群です。 日本公演でもビリー役の選出には1年以上をかけるため、コンスタントな上演が難しい演目のひとつ。近い将来に次の公演が決定することを期待して、ビリーに会える日まで首を長くして待ちたいと思います。