名前を奪われて、不思議な街で働くことになった十歳の少女、千尋。両親のために一人ひたむきに頑張る少女と、そんな千尋と関わって自身も少しずつ変わっていく人々が浮世離れした世界で送る、出会いと別れの物語。国内外問わず高く評価を受けた本作品が、2022年に舞台で蘇ります!
「呼んでいる胸のどこか奥で いつも何度でも夢を描こう」
『千と千尋の神隠し』は、八百万の神の世界で千尋が過ごした、数日の物語。新しい街に引っ越す際、道に迷ってくぐったトンネルの向こうは、見知らぬ世界だった。神々に出すはずの食事を食べて豚に変えられてしまった両親を元の姿に戻すため、寂しさを隠しながら湯婆婆が采配する「油屋」で孤軍奮闘する千尋の姿は、それだけで私たちの心を揺さぶります。胸をうつような少女の成長譚と、それを彩る美しく透明感のある世界観と音楽。観終わった後もどこか懐かしいようなその余韻につい浸ってしまいます。
木村弓さんの「いつも何度でも」で歌われているように、千尋にとってこの不思議な数日は、成長しても、記憶からなくなってしまっても、きっと心のどこかに残っているものとなったことでしょう。小さい頃、もしかしたら自分もこんな世界と出会っていたかもしれないと思ってしまうような、私たちの心にずっと残り続ける指折りの名作です。
神隠しの舞台が帝国劇場に
本作品が公開された2001年からおよそ20年。この八百万の神の世界が、2022年に帝国劇場に現れます。舞台化にあたり演出を手がけるのは、『レ・ミゼラブル』を世界初演するにあたり潤色・演出を担ったジョン・ケアードさん。主演の千尋役は、今をときめく女優の橋本環奈さんと上白石萌音さんが、Wキャストで演じます。
物語のキーである「名前」。湯婆婆は油屋の従業員たちの名前を奪い、千尋は千としてこの世界で働き始めます。一方ハクは、名前を思い出せないがために湯婆婆のもとを離れられません。本作品において名前のような言葉には大きな力があることがわかります。
事実、宮﨑監督は「『言葉は意志であり、自分であり、力』である」と、言葉を本作品のテーマのひとつとして挙げています。20年前よりも便利になった分言葉の力の弱さが叫ばれる今、改めて本作品を観ることでかつてとは違った見方ができるかもしれません。
神々の世界の彼らはどこか人間らしく、この世界は案外自分たちの住む世界に近いのかもしれないと思ってしまいます。もしかしたらそこのトンネルの向こうに、千尋が過ごした世界が広がっているのかもしれない。そう思うと少し、スタジオジブリのつくる世界に触れたような気がします。