『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』や映画『恋に落ちたシェイクスピア』で知られるイギリスの劇作家トム・ストッパードが祖国チェコスロヴァキアを舞台に書き下ろし、2006年にロンドン、2007年にブロードウェイで上演された舞台『ロックンロール』。1968年にソ連軍に軍事介入されたプラハの春から、共産主義が崩壊したビロード革命までの約20年を描いた大作に、小瀧望さんが挑みます。

俳優の技量と説得力が求められるトム・ストッパード作品

−台本を読まれて、ご自身の役柄ヤンについてどのような印象を持たれましたか。ご自身との共通点を感じたところはありますか。
「ヤンとの共通点は素朴であること。僕は派手に見える職業をしていますけれど、意外と普通なんです。昔、小池栄子さんに“小瀧は普通だから良いんだよね”と言われたことがあって。そういうところは近いのかなと思います。
台本ではスマッシュカットという技法が多く出てくるので、気がついたら場面が変わっていて、読むのに苦労しました。この前まで出演していた『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』とは全く違う、もしくはそれ以上の困難が降り掛かろうとしているんだなと感じましたね」

−次のシーンへ唐突に転換し、年代も飛ぶスマッシュカットを演じるというのは、俳優としてどのように感じるものなのでしょうか。
「やりがいはあると思います。スマッシュカットの前後で、登場人物の立場が逆転していることもあるので、それは面白い構造だなと思います。聞き馴染みのない言葉も多いですし、俳優たちの技量や説得力が試される作品だなと、そういう作品をトム・ストッパードさんは作られるんだなと感じました。
先日、劇団青年座さんの公演『ハード・プロブレム』(作:トム・ストッパード)を観劇したのですが、こういう作風にチャレンジするのかと頭を抱えました。とても面白かったんですけれど、聞き馴染みのない専門的な言葉が雨のように降り注いでくるんです。アフタートークを聞いていて、トム・ストッパードさんは観客にそれを全部理解して欲しいわけではないとのことだったのですが、俳優としてはそれを理解し、体に落とし込み、その時代に生きている人として見せなければいけないので、俳優としての苦労はとてもあると思います」

−さらに小瀧さんはヤンというキャラクターの約20年間を演じられます。
「丁寧に演じなければお客様の心が離れていくのではないかというある種の緊張感はあります。何の話をしているんだろうと思わせてしまってはいけないので。でも約20年分と言っても根底ではずっと繋がっていますし、断片的に描かれているのが1つの魅力なのかなとも感じています。
『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』を演じきれて、“よし、立ち向かえた。何でも来い”と思っていたのですが、“これはかなり手強いのが来たな”というくらいのものが来てしまった、という危機感があります(笑)。台本を読んでいるだけでは理解が追いつかないところもあるのですが、稽古前に勉強会などもやってくださるので、分からないことは全て聞いていきたいと思います」

−1968〜1990年のチェコスロヴァキアを描いた本作ですが、現代とリンクする部分はありましたか。
「人間は繰り返すものですし、感覚的なものは今と全く変わらないと感じました。頑固に意見を曲げない親父もいれば、自分の自由や理想を掲げて生きる若者もいる。ヤンは時代の波に引き摺り込まれた感じの印象はありますけれど、大きくは変わらないなと思います。ただ登場人物たちは知的な人たちが多いので、文章も長くなっていくし、言葉に隠された真意が散りばめられていて、そういったところは自分の普段の会話とは違うなと感じます」

愛してやまない演劇の魅力とは?稽古場は「神聖な場所」

−今年は2本目の舞台作品出演となります。コメントでも「愛してやまない演劇」と表現されていましたが、小瀧さんが感じる舞台・演劇の魅力は何でしょうか。
「僕はまず稽古場が好きで、僕にとっては“サンクチュアリ”、神聖な場所なんです。最後の最後まで発見がある場所で、凄く楽しくもあり、真面目に取り組む場所でもあり、みんなに敬意を払う場所です。その後の本番には、緊張感であったり、高揚感、臨場感であったりが入り混じっていて。ライブでは全く緊張しないですけれど、舞台は毎公演緊張するんですよね。
そして皆さんの目の前で一緒に物語を体感してもらうということが好きです。観る側としても、出る側としても演劇は好きですね。(演出の)小川絵梨子さんと前回ご一緒した『検察側の証人』では成河さんや那須佐代子さん、斉藤直樹さん、テラ(寺西拓人さん)といったスーパー演劇人たちに揉まれたので、その経験も大きかったと思います。良い演出家、良いキャスト、良いプロデューサーに恵まれた結果、僕は演劇が好きなんだと思います」

−本番の緊張をほぐすためにやられているルーティンはありますか。
「絵梨子さんから“舞台に出たらもう出たところ勝負だから、全部手放して”と言われたのは印象に残っています。“役で生きていれば、細かい台詞は間違っても良い”と言ってくださったのは、凄く気持ちが楽になりました。毎回感謝と、“今日も自由に生きられますように”と願掛けをしてから舞台に臨むようにしています。楽屋には森新太郎さんに教わった“感情を腹に持って来い”“毎回最初で最後だと思って臨むように”といった言葉を貼っていて、それを眺めながら出るようにしています」

−ご自身の転機となった小川絵梨子さんとの念願の再タッグとなります。
「本当に待ちに待った再会です。基本的には年に1回のペースで舞台に出演しているのですが、今年は藤田俊太郎さんと小川絵梨子さん、お二人ともご一緒したかったんです。うちのスタッフから“(2本やるのは)大変ですよ”と言われたんですけれど、“いや、大丈夫です”と。その時は台本を読んでいなくて、まさかこんな大変な作品だとは知らなかったので…(笑)。
小川さんの感性も好きですし、性格も好きなんです。“足りてないよ”とはっきりストレートに言ってくれるのが僕はありがたい。ある種、座長のような存在で、付いていきたい人だし、付いていかなきゃと思わせてくれるような人です」

−共演者の方々への印象はいかがですか。
「再共演の方も多いですし、直近で舞台を観にいかせていただいた方もいますし、『うま』を観にきてくださった方もいます。何よりも、僕が崇めている那須佐代子さんがいますから!那須さんとの出会いは衝撃的だったので、再共演できて嬉しいです。吉原光夫さんは『レ・ミゼラブル』ジャン・バルジャン役を拝見して、村川絵梨さんは『エクウス』を観にいかせていただいて、上口耕平さんは『ディア・エヴァン・ハンセン』を観にいかせていただきました。浅野令子さんとご一緒するのは初めてですが、浅野雅博さんは『梨泰院クラス』で僕のお父さん役で、“次は妻をよろしくね”という会話を交わしたんです。僕が演劇を始めた頃には誰も知り合いがいなくて寂しかったので、こうやって徐々に居場所ができてきているのが嬉しいです」

ヤンを突き動かすものを、理解したい

−先日は本作の舞台となるチェコスロヴァキアにプライベートで訪れたそうですね。
「本当は行くつもりなかったんですよ。でも『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』でもご一緒していた大鶴佐助くんに“のんちゃん、『ロックンロール』読んだ?台本だけだと分からないことが多いから、チェコに行ってくるよ”と言われて。その時にはまだ『うま』をやっていて『ロックンロール』の台本は読めていなかったのですが、僕も行った方が良いのかなと思って、友人に付いてきてもらってチェコに行ってきました。
勉強というよりはほとんど旅行のような感じでしたけれど、石畳の景色だったり、歴史的な大聖堂やプラハ城、カレル橋を見たり。“世界一の街並み”と言われたこともある場所なので、とても美しい街でした。色々な角度から見てみようと言って、男2人でボートから街を眺めてみたり。たくさん写真を撮ったので、稽古場にも貼ってもらえたら良いなと思っています」

−本作ではヤンの愛するロックミュージシャンの名前も数々出てきます。
「僕はイギリスのロックを通ってこなかったですし、世代も違うので、音楽についても勉強が必要だと思います。ヤンは愛するロックが奪われる、自由に聞けないという、ストレスという言葉のもう2つくらい上の言葉があればそれを使いたいくらいの状況に追い込まれます。ただ好きで、自由でいたいだけなのに、政治的、時代的にそれが奪われてしまう。その中でも最後まで諦めない生き様があるので、台本をとにかく読み込むのはもちろん、稽古から本番期間までロックを聴き続けるべきだと思います。ヤンを突き動かすものを理解したいですし、小瀧望としてはこれが好きだな、という楽曲やアーティストも見つけたいですね。楽しみながら勉強できたらと思います」

−ヤンは愛するロックを禁じられる物語となりますが、小瀧さんがこれを禁じられたらヤンのように立ち上がる、というものはありますか。
「ウイスキーですね。僕の生活リズムのオフのスイッチを入れてくれるものなので。仕事後、家に帰ってきたり、近くのバーに行ったりして1杯飲んで、“今日も頑張ったな”と思える時間は、凄く大切です。
あとはヤンと同じように音楽は好きですし、歌うこと、ドラマや舞台といったものも含めると、表現なのかな。ウイスキーと表現を禁じられたら厳しいですね」

−最後にメッセージをお願いします。
「まず僕もタイトルを聞いた時に“ん?”と思いましたが、ミュージカルではございません(笑)。様々な人がそれぞれ抱く正義や主義、平等、自由といったものを約20年かけて描く物語です。それぞれが異なる正義を抱いていますが、決してどちらかが正しくて、どちらかが間違っているというものではないと思います。
音楽と進んでいく物語なので、音楽も楽しんでほしいと思いますし、人と人との会話の緻密さ、奥深さも楽しんでいただけるんじゃないかと思います。スマッシュカットでいきなり場面が変わるやりとりも、面白いんじゃないかと思います。
そして強力なキャスト陣!僕が出ていなくても、このメンバーが出ていれば“間違いない”と思うメンバーです。親愛なる、信頼のあるキャスト、そして小川絵梨子さんという素晴らしい演出家と、難解なトム・ストッパードの『ロックンロール』に挑みます。みんなが一丸となって取り組めば、とても説得力のある作品になると思います。少しでも理解を深めたいという方は当時の時代背景に少し触れていただけるとより楽しめると思いますし、分からない方にも僕たちが楽しんで頂けるように作るので、激動の時代、それぞれが抱くものを体感して頂けたらと思います」

撮影:晴知花、ヘアメイク:佐々木麻里子、スタイリスト:村田友哉(SMB International.)

舞台『ロックンロール』は2026年11月6日(金)から11月8日(日)まで兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、11月13日(金)から12月6日(日)まで東京建物 ぴあ シアターにて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

日本最高峰の演劇人たちに出会い、演劇に魅了されていった小瀧さん。インタビュー時も構えずナチュラルにお話ししてくださる姿が印象的で、スターながらもその“普通さ”があるからこそ、素直に演劇人から色々なことを吸収されているのだろうなと感じました。お忙しい中、自ら時間を確保してチェコスロヴァキアまで足を運ばれるその姿に、1つ1つの作品に対する真摯さが伝わります。戯曲自体は非常に難解ですが、小川さんと圧巻のキャスト陣が魅力的な舞台空間に創り上げてくれることと思います!