オーディション。それは、舞台を目指す全ての人が通る道。この作品はブロードウェイの新作オーディションに全てを賭けて挑むダンサーひとりひとりに焦点を当てた群衆劇です。「コーラスライン」とは、舞台の稽古場で主役級俳優と端役(コーラス)の立ち位置の境界に引かれる線のこと。スターの背景にすぎないコーラスの仕事を、それでも全力で勝ち得ようと集まる彼らの生き様は、観る者に活力を与えてくれます。

01 ミュージカル『コーラスライン』のストーリー

ニューヨーク、ブロードウェイ。とある劇場で行われている新作舞台のオーディションが白熱している。新進演出家・ザックの元に集まった大勢のダンサーは審査の度に人数が絞られ、最終選考には17人が残った。

「履歴書に書いていないことを話してほしい」とのザックの問いかけに、17人は自分の人生を語り始める。不遇な幼少期を美しいバレエの世界に逃避して過ごした者、思春期に親から言われた些細な一言に傷ついた者、性の目覚めで周囲との違いを自覚した者。その中には、かつてブロードウェイ・スターとして成功したが、ハリウッドに進出して挫折、ダンサーとしてブロードウェイで再起を目指すザックの元恋人・キャシーの姿もあった。

舞台に必要なコーラスは8人。はたしてザックは誰を選ぶのか…?

02 実話に基づいたダンサーたちの生き様

ショービジネスの世界を描いたミュージカルは数多あれど、『コーラスライン』ほど地味で現実的にダンサー達を描いた作品は他にないでしょう。舞台上には鏡と白いコーラスラインが1本、それだけ。演出家・ザックを演じる役者は観客席の最後列に鎮座し、観客は約2時間、オーディションに立ち会っているような感覚でダンスの審査や個々の自己紹介を見ていくのです。

『コーラスライン』は原作となった小説も映画もありません。ダンサー達を集めてワークショップを行い、そこで語られた彼らのエピソードを舞台化した作品です。幼少期から青春時代、そしてフリーランスとして仕事を得る難しさなどを赤裸々に語ったそのワークショップは12時間にも及んだとか。主催したマイケル・ベネット氏はそこから17人のダンサーの物語を構築し、本作の原案・振付・演出を担当。1975年に初演を迎え、その後15年間ものロングランヒットを記録する名作ミュージカルとなりました。

03 等身大でシンプルだからこそ心に響く「愛した日々に悔いはない」

作品のハイライトは、「怪我をして踊れなくなったらどうする?」というザックの問いかけにダンサー達が答える、「愛した日々に悔いはない」というミュージカルナンバー。「悔やまない 選んだ道が どんなにつらく この日々が むくわれず 過ぎ去ろうと」と歌い出し、「生きた日々に悔いはない ひたすらに この道を」と締めくくる、凛々しさが印象的な楽曲です。シンプルな舞台だからこそ、彼らの生き様や発せられる言葉の一つ一つに説得力が増し、心に響きます。

下積み期間は苦労も多く、仕事を求めてひたすらオーディションを受ける日々。成功しても次の仕事が入る保証もない。マイケル・ベネット氏がこの作品で体現したブロードウェイのダンサー人生は、華やかさとはかけはなれた地道で厳しい現実ですが、彼らひとりひとりの人生はどこか現実世界の私たちに重なって見えてくるのです。

04 日本公演 劇団四季の実力を証明した作品

日本で『コーラスライン』が開幕したのは1979年のこと。当時、劇団四季を率いていた浅利慶太氏が来日中のマイケル・ベネット氏に直談判、稽古場見学で実力を認めてもらい、劇団四季での上演が実現したそうです。劇団内外の俳優を広く募集してオーディションを実施し、稽古期間も初日まで誰が舞台に立てるのか分からない状況だったそう。まさしく、作中のダンサーたちのような境遇を経て上演された『コーラスライン』。現在でも劇団が大切に上演を続けるレパートリーのひとつです。

劇団四季のオーディションでも前述したジャズ・コンビネーションはよく使われており、やはり劇団員なら必ず踊れる振付のひとつだそう。全国ツアー公演も多い演目なので、上演の際には公演地も要チェックです。劇団四季「コーラスライン」作品紹介はこちら

Sasha

『コーラスライン』のように長く愛される演目には、人生経験とともに作品理解が深まるきっかけが潜んでいたりします。今何かを頑張っている人も、かつて頑張っていたけど諦めてしまったものがある人も、このミュージカルから心の琴線に触れる、きらめく何かを見つけることができるのではないでしょうか。