最近は映画作品の舞台化が目立ちますよね。この流れに便乗してぜひ舞台でも観たいのが、2009年公開のインド映画『きっと、うまくいく』。2010年のインドアカデミー賞では史上最多の16部門にノミネートされ、2013年に日本で公開されてからは第37回日本アカデミー賞では優秀外国作品賞を受賞した大ヒット映画です。3人の青年がお尻型の椅子に座ったユニークな作品ポスターも印象的でしたね。
インド映画といえばノリノリな歌とダンスですが、『きっと、うまくいく』の中には心が踊りだすようなミュージカルシーンとポジティブになれるセリフが詰まっています。ミュージカル好きなら、観れば「舞台化はまだなの?」と思わず言いたくなりますよ。
インドの社会問題を盛り込んだドタバタ青春コメディ
主人公は、インドの難関工科大学ICEに通っていた3人の男性。工学よりも実は動物の写真撮影が好きなファルハーン、なんでも神頼みにする貧乏学生のラージュー、そして発明の天才であり自由奔放なランチョーは、大学でいつも一緒に行動していた親友トリオでした。
なかでもランチョーは、校内の注目の的。常識にとらわれない柔軟な頭脳と彼のモットーである「アールイズウェル」という魔法の言葉で、さまざまな大騒動を起こします。
ランチョーが真っ向から対立していたのは、ICEを支配しているヴィールー学長。学問ではなく「点の取り方」を教える教育や、学生同士を競わせて自殺させるほど追いうちをかける学長のやり方に、ランチョーは疑問を覚えたのでした。反骨心の強いランチョーは、親友2人とともに学長の方針にとらわれない痛快な大学生活を送ります。 そして卒業から10年後。ファルハーンとラージューは、卒業式の後に消息を絶ったランチョーを探す旅に出ることにしました。彼らのドタバタコメディが、ランチョーをめぐって再び始まります。
一度聞いたら忘れられない「アールイズウェル」とは?
ランチョーが唱える魔法の言葉「アールイズウェル(Aal Izz Well)」は、英語の「All is well」から派生した言葉です。困難な状況を打開したいとき、ランチョーは「アールイズウェル」を唱えて自身が前向きになれる“言葉の魔法”をかけていました。
「アールイズウェル(Aal Izz Well)」は、もともとイギリス統治時代にインドの街を見回りする夜警が「All is well」と唱えていたのがなまった発音になったものです。これを日本語に訳した「きっと、うまくいく」が、日本版のタイトルになりました。ちなみにこの映画の原題は『3 idiots』で、「3バカ」という意味です。映画序盤で主人公の3バカトリオが指笛を拭きながら歌うナンバー「Aal Izz Well」は、底抜けに明るくて一度聴いたら忘れられません。
“まるで映画のような”甘いデュエットソングにも注目
「Aal Izz Well」と合わせて必聴のミュージカルソングが、ランチョーと彼に恋する医学生のピアがデュエットする「Zoobi Doobi」。日ごろからロマンティックなミュージカルを観ている人は、もしかしたらこちらの曲の方がハマるかもしれません。宴会場や月夜をイメージした豪華なセットを背景に、インド映画らしいカラフルな衣装を着たランチョーとピアが恋する喜びを歌い踊るナンバーです。
ピアは今まで「映画の中の話じゃないんだから」とバカにしていた恋のロマンティックな感覚におぼれてしまい、ランチョーへの愛が止まりません。ランチョーとの甘いデュエットソングですが、あくまでも恋に盲目になったピアの頭の中で“脳内”ミュージカルシーンなのが笑えます。
スティーヴン・スピルバーグやブラッド・ピットなど、世界各国の著名人にもファンが多いインド映画『きっと、うまくいく』。上演時間は171分とやや長めですが、観終わったあとに思わず劇中歌を口ずさみたくなるほど晴れやかで楽しい気持ちになれます。映画も十分に素晴らしいですが、絶対に舞台映えする作品です。いつかミュージカルとして舞台化されることを切に願います。