良い人でいたいと思うものの、それだけではやりきれないのが人生というもの。特にコロナ禍で制限の多い昨今、ストレスが溜まっている人も多いのではないでしょうか。モヤモヤな気持ちの時には、ミュージカルが特効薬になってくれます。ちょっぴりブラックな物語に、数々のディズニー音楽を生み出した名コンビが作り上げた楽曲、この時代でも観客が参加できる仕掛けの数々…。毒々しい気持ちを吹き飛ばし、「素直に楽しかった!!」と思えたミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の観劇リポートをお届けします。(2021年9月・シアタークリエ)

ディズニーの名曲を生み出した名コンビの出世作!

『リトルマーメイド』、『美女と野獣』、『アラジン』と言えば、誰もが知る名作ディズニー作品。これらの音楽を手がけたのが、ハワード・アシュマン(脚本・歌詞)とアラン・メンケン(音楽)だということは知っている人も多いはず。彼らの出世作となったのが、ミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』です。

同名ホラーコメディ映画を元にオフ・オフ・ブロードウェイで上演され、オフ・ブロードウェイで5年半ものロングランを記録。ミュージカル映画化も果たし、日本を初めとする世界進出へ、2003年にはブロードウェイにも上陸を果たしました。名コンビが手がけただけあって、すぐに耳に残る楽曲ばかり。手拍子も何度も起きる楽しい音楽が、ブラックな物語を軽やかに彩ります。

主人公・シーモアの運命を変えた不思議な植物“オードリーII”

アメリカの寂れた街スキッド・ロウにある小さな花屋で働くシーモア。真面目で一生懸命でありながらとんでもなく不器用で、毎日怒られてばかり。シーモアが密かに恋をしている同僚のオードリーは、恋人である暴力的な歯科医・オリンから逃れられずにいます。ある日、シーモアが見つけたのは、食虫植物のような奇妙な植物。恋するオードリーから名前を取り、“オードリーII”として大切に育てますが、この植物の成長にはある条件が…。

どんどん巨大化する“オードリーII”が話題を呼び、シーモアはあっという間に有名人になります。しかし、それと共にシーモアは“オードリーII”の成長の秘密に悩まされるようになります。貧しく、愛に飢えていた純朴な青年が欲しいものを手に入れるために、“オードリーII”の悪魔の囁きに動かされてしまう姿は、「だめだよ!!」と思いつつもどこか親近感を覚えてしまいます。

個性豊かなキャスト陣が作品に愛らしさをプラス!3Dメガネなどの新演出も

シーモアを演じていたのは、『刀剣乱舞』や劇団☆新感線『髑髏城の七人 Season月』などで活躍の幅を広げる鈴木拡樹さん(三浦宏規さんとのWキャスト)。純朴オーラに溢れる佇まいと歌声、コミカルなダンスがシーモアの愛らしさとしてひしひしと伝わってきます。オードリーを演じる井上小百合さん(妃海風さんとのWキャスト)は元乃木坂46ということで、可愛らしさ満点のオードリーにぴったり!透き通る伸びやかな歌声、時折見せる真顔なツッコミなど多彩な魅力を発揮しています。

歯科医・オリンをコミカルに演じ、観客を物語に惹きこんでくれたのは数々のミュージカルで活躍する石井一孝さん。一緒に踊ったり、配られた紙を掲げたりして一体感を演出してくれます。恐ろしい植物“オードリーII”の声を務めたのはデーモン閣下さん。怪しげな雰囲気がまさに“オードリーII”に適役です。

本番15分前から男が舞台上で静かにマジックを披露したり、舞台中は3Dメガネをかけたりといった演出も。コロナ禍で舞台と客席の絡みは大幅に減ってしまった昨今ですが、“舞台は観客とともに創るもの”だと改めて感じさせてくれた楽しい空間でした。

Yurika

ブラックな物語なのに、笑顔で帰れる不思議な魅力を放つ唯一無二の作品、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』。沸々としたネガティブな思いも吹き飛ばしてくれる、今観たいミュージカル作品でした。本作は9月11日までシアタークリエで上演予定です。