1996年にオフ・ブロードウェイで初演され、異例のスピードでブロードウェイに進出したミュージカル『RENT』。ニューヨークの片隅で月々の家賃(RENT)を滞納しがら生活する若者たちを主軸にした本作は、セクシャル・マイノリティや薬物中毒、HIVポジティブなど、1990年代の若者が抱える問題を真正面から取り扱い、熱狂的な支持を集めました。

その代表曲「SEASONS OF LOVE」は「時間」をかみ砕いた歌詞とゴスペル調のシンプルなメロディで、かけがえのない今日を生きることの価値を語ります。さまざまな事情を抱え、決してラクとは言えない生活をおくる若者たちの1年間。『RENT』の物語を象徴する、人生讃歌のようなこのナンバーに込められたメッセージを英語詞から読み解いてみましょう。

あなたにとってこの1年を表すものとは?ー何気ない日常を切り取った歌詞ー

1年を525,600分と言い換えて始まるこの曲。「How do you measure/ Measure a year(1年を何で測る?)」と言う問いかけは、1年という時間の変化をさまざまな尺度や単位で表現できることを示唆しています。「measure」を直訳すると、計測するという言葉になりますが、この歌詞では「表す」というニュアンスの方が近いかもしれません。

この問いかけに対する返答は「How about Love?(愛はどうだろう?)」。

誰しも平等に与えられる時間。人それぞれの過ごし方は違うけれど、人生は誰かを想いあうことの連続であり、愛する人との交流で1年の変化を表すことができるのではないだろうか、ということです。「Measure your life in love(愛で人生を表そう)」という歌詞は、ギリギリの暮らしを仲間で支え合う登場人物たちの生き様に重なります。

ここでポイントになるのは、1年を愛で測る、という哲学的な思想を提案するまでに、さまざまな1年の表し方が提示されているところ。夜明け、飲んだコーヒーの杯数、笑顔など、日々繰り返されていく事柄を列挙した後に初めて「How about Love?」という核心が提示されます。あえて数えるまでもないような、何気ない日常風景の愛おしさに重ねて、そこにいる大切な誰かに目を向けさせる。この秀逸な構成によって、楽曲のメッセージが心に沁み入ります。

Seasons of Love/RENT – A cappella Cover by sinfonia

苦しい時こそ、心にあたたかさをーSHARE LOVE, GIVE LOVE, SPREAD LOVEー

問いかけはさらに深化し、「How do you measure the life/ Of a woman or a man? (人の一生は何で測れるだろう?)」と、計測対象が人生そのものへと拡大。生きる苦しさにも触れ、だからこそ、愛を思い出して乗り越えていこうよ、という楽曲最大のメッセージへと発展していきます。

人生の苦味に焦点を当てた箇所、

「In the truths that she learned, or in times that he cried(学んだ真実で、流した涙で)」

「In bridges he burned, or the way that she died(断ち切ったもので、死ぬまでの様子で)」

には、すれ違って別れるカップルや、病魔に蝕まれていくHIV陽性者など、1年間で変化する劇中人物たちの人生をも反映。上手くいかない歯がゆさや人生の不可逆性を抽出しています。

苦しみを内包して生きる人々に向けて「SEASONS OF LOVE」が提示する「愛」のメッセージは、歌い手が手拍子で盛り上げながら歌う、次の歌詞から汲み取ることができるのではないでしょうか。

【Circle of Love】日本歴代RENTキャスト達によるリモート歌唱〜Seasons of Love〜

「It’s time now to sing out, though the story never ends/ Let’s celebrate, remember a year in the life of friends(この物語は終わることがないけれど、今こそ歌い上げよう 友と過ごす1年を胸に刻んで讃えよう)」

「Share love, give love、spread love(愛を分かち合い、与え、広めよう)」

何度も繰り返される言葉「Love」を「親愛」というニュアンスで解釈すると、時間を共にする仲間を誇り、大切な人との今日を重ねて季節を過ごせることへの感謝や祈りが込められているように感じます。大切な人との時間に価値を見出せるのは、それが永遠ではない、と頭の片隅で理解しているから。切なさとあたたかさが組み合わさった「SEASONS OF LOVE」は、聴く人に優しい気持ちを提供してくれます。

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Sasha

「SEASONS OF LOVE」のメッセージは『RENT』の最後を締めるフレーズ「No day, but today(かけがえのない今日)」へ繋がっています。人生とは今日の連続。どんな困難な時も、周りにいる誰かへの愛やあたたかさを支えにして今日を生きよう。今日が続けば、季節が巡っていくのだから…。落ち込んだ日、励まされたい気分の日にこそ聴いてほしい名曲です。