「切り裂きジャック」と言えば、聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。19世紀末にロンドンで起こった、「切り裂きジャック」の連続殺人事件を題材にしたミュージカルが『ジャック・ザ・リッパー』です。世界で最も有名な未解決事件を描いた本作は、韓国で大ヒット!ついに日本上陸となりました。Wキャストで上演が行われており、今回はダニエルを小野賢章さん、アンダーソンを松下優也さん、ジャックを加藤和樹さんが演じた回の観劇リポートをお届けします。(2021年9月・日生劇場)

「切り裂きジャック」の正体とは?

チェコで製作されたミュージカルを原作に、韓国流のアレンジが加わった『ジャック・ザ・リッパー』。2009年の初演以来大人気となった作品です。19世紀末、娼婦だけを狙う殺人鬼を追っている刑事のアンダーソン(松下優也さん)とロンドンタイムズ紙の記者モンロー(田代万里生さん)。殺人現場で出会ったのが、「犯人を知っている」と言う外科医のダニエル(小野賢章さん)。その名はジャック。7年前にダニエルと元娼婦のグロリア(May’nさん)は、ジャック(加藤和樹さん)に出会っていたのです。

アンダーソンはダニエルをおとり捜査に使い、ジャックを逮捕しようとします。しかし、号外スクープで多額の報酬を得ようとするモンローにより情報が漏れてしまいます。果たして、“ジャック・ザ・リッパー”の正体とは?そして彼の本当の目的とは…?

本作の見どころの1つは、没入感のある仕掛け。まず劇場に入ると、映画セットかのような完成度の高いロンドンの街並みのセットが迎えてくれます。暗いどんよりとしたセットに霧のような照明が降り注ぎ、殺人鬼の支配する重苦しい空間を演出しています。音楽も同様に、どこか不気味で重い世界観を表現。

さらに、作品構成も没入感を加速させる仕掛けの1つ。事件が終わった日から始まり、2日前、7年前と遡る構成となっています。現在・2日前の行動や言葉の意味が、過去を辿っていくことで徐々に明らかになっていくのです。

各キャラクターが彩る『ジャック・ザ・リッパー』の世界

刑事のアンダーソンを演じる松下優也さんは、ジャックを追いながらも麻薬中毒者で、心の闇を垣間見せます。ただジャックを追う熱血刑事ではなく、ジャックは何者なのか、自分はなぜジャックを追うのかを自問自答し続けるアンダーソン。彼から見えるロンドンは、暗く悲しい街。コロナ禍の現状にも重なり、個人的に一番共感できる役でした。

「こんな夜が俺は好き」と怪しげに歌うジャックを演じるのは、加藤和樹さん。登場する度に物語を支配するオーラと低く響く歌声に、恐怖を覚えながらも目が離せない存在です。

作品の鍵を握る外科医のダニエルを演じる小野賢章さんは、映画『ハリー・ポッター』シリーズのハリー役の声優として知られ、現在は俳優としても活躍。第1幕の使命感のある医者としての姿と、第2幕に愛ゆえに徐々に狂っていく姿が印象的でした。真っ直ぐに生きているからこそ、時に正論では語れない道を選ぶこともある。そんな人間としての性を感じさせる演技でした。

恐ろしい事件を嬉々として報じるロンドンタイムズ紙の記者モンローを、田代万里生さんが好演。今までの爽やかなイメージから一変、スクープとお金に目がない卑しくもコミカルな演技がまた、人間としての一種の残酷さを感じさせられました。

Yurika

ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』は9月29日まで日生劇場にて上演。10月には大阪公演が予定されています。チケットぴあでのチケット購入はこちら