Audience人気企画、勝手に推しを大特集の特別版“公式に”推しを大特集。前回に引き続き、役者:朝木ちひろさんのインタビューをお届けさせていただきます。前編では朝木さんが役者として一歩を踏み出し、舞台を中心に芸を磨くところまでを紹介させていただきました。後編は、その努力が一つの実りを迎える場面から始まります。

初めての主演、初めての売り込める実績。自分にひとつ、自信がついた。

―役者としての修行をするために、1年間で6本もの舞台に出演されたとうかがいました。役者として、その次にどんなステップに進まれたのか、教えてください。

「修行の1年が終わるころ、契約期間が過ぎたので、所属していた事務所を辞めることになりました。そのまま、1年間はフリーランスとして、引き続き舞台の仕事をしていましたね。フリーランスになると、役者仲間同士や演出家さんから「次こういう舞台があるから、推薦してみようか。」なんて声の掛け合いもあって。いろんな劇団の舞台だったり、今まで自分がやったことない役柄をやらせていただくようになりました。そのなかで、アガサクリスティー原作の『蜘蛛の巣』っていう作品に出会い、それが大きな次の一歩になりました。

初めて主演を務めさせていただいたんですが、2時間の戯曲のうち、自分のセリフだけをストップウォッチで計ったら45分もある。大部分の時間を私が話している戯曲で、しかもミステリーモノ。私が人の名前とか言い間違えたら、ミステリーが解決しないんですよ。笑 台本はもう、真っ赤になりましたね。笑

でも、2時間の戯曲で45分も台詞がある主演を務めたことで、自分に1つ売り込めるものができたんです。自信もついて。新しい事務所の面接でも、『蜘蛛の巣』で主演を務めたことを、真っ赤な台本と一緒に実績として話して、入れてもらうことができました。」

―ちょっと脱線してしまうんですが、、、フリーランスの間も、役者仲間や演出家さんから新しい劇団・舞台に紹介をうけていたとうかがいました。もちろん実力が認められたからの紹介だろうなとは思うんですが、未経験からたった2年で、フリーランスで活動できる状態になったというのは凄いことだと思います。なにか、紹介を受けるために努力していたことや、意識されていたことなどあるんでしょうか。

「自分がなにか特別な努力をしたというよりは、応援してくれる友達が多かったことのおかげだと思います。

もともと私は、人から笑われたりとかするのを極端に怖がるところがあって。だから元々の私を知っている人に「役者をしている」っていうと、すごく驚かれます。どこか自分にコンプレックスがあったんですよね。なので役者を始めたことも、なかなか友達にカミングアウトできなかったんですよ。「え、あなたが役者?」みたいに笑われてしまうんじゃないかって思ってて。

だけど思い切って伝えてみたら、誰も笑わなかったんです。それどころか「すごいじゃん、がんばれ」って。「舞台やってるんだ、行くよ」って。おかげで、私は舞台の経験が浅いわりに集客ができたんですね。そんなふうに周りの友達にすごく恵まれていたから、「朝木ちひろは、最低でもこれくらい人を呼べるから推薦できる」と、フリーランスになっても紹介で舞台に立てていたんだと思います。

もともとの私を知ってるからこそ応援してくれる友達が多い。それがすごく私の強みになっていました。だから友達には、すごく感謝しています。

私、こういうお仕事をしてるから、いつ仕事が入るかわからなくて。全然みんなの結婚式とか行けてなくて。それなのに、「気になって、朝木が出ている映画見てきたよ」とかいってくれて、、、本当に周りに恵まれているんです。」

一夜にしてフォロワーが2万人近くに。シンデレラガールになれた、と思っていた。

―新しい事務所に移られて以降のお話をうかがわせてください。

「事務所が変わってから、だんだん映像のお仕事とかもいただけるようになっていきました。そして、29歳の2月。もう2年半前になりますが、出演していた『水曜日のダウンタウン』のキスドッキリがバズって、なんとTwitterのフォロワーが一夜にして約800人→約1万9000人になったんです。

「やっぱり水ダウおもしろいな。」「長い時間映してもらえたな。」とオンエアを観ていたんですが、ふと携帯をみたら大量のフォロー通知が来ていて。なんだろうって触ったら「携帯アッツイ!」ってなりました。笑

まとめサイトやLINEニュース、ヤフーニュースにも載せていただいたみたいで、一晩中通知が鳴りやまず、その日は徹夜してしまいました。もう、何が何だか分からない、凄いことが起きたけどどうしたらいいんだろうって状態。だったんですが、さらにすごく嬉しいことが起きたんです。

ドラマのコンフィデンスマンJPで共演させていただいた小手伸也さんが、私の記事を「コンフィデンスマンJPで、ご一緒した朝木ちひろさんです」ってTwitterで紹介してくださって、電車の中で投稿をみたんですが、もうそれで泣いちゃって。

小手さんはずっと役者業の傍らバイトをされていて、夢を諦めずに続けていたら注目されるようになった方。だからこそ、エキストラの気持ちもわかってくださるっていうか、、、共演したといっても、私はほぼエキストラだったんですけど、それでもこういうふうに見つけてくれる・言ってくれるっていうのが、何より嬉しかったです。」

―たった一晩で、一気に知名度が上がったんですね!それによって、仕事にも変化はあったんでしょうか。

「それが、、、あんまり変わらなかったんです。正直ちょっと舞い上がっていたんですけどね。シンデレラガール、みたいに記事でも書いていただけていたので。

でも、ワッと有名になったと思ったら、ガーッて落ちていくのがわかるんです。Twitterのフォロワーも、1日に100人単位で減っていくんですよ。本当にひとときのお祭りでした。家族からは「そんなに騒がれるほどあんた可愛くないよ」「だからみんなが冷めていくのは、絶対に覚悟しなさい」ってアドバイスをもらいました。笑

実際に自分でも、フォロワー数が好きなアーティストさんを超えたときに「いや私よりこの人の方が絶対にすごい、おかしい」って思ったりして、だから悔しいけど納得はしていたんです。

でも、今まで上がってくことしか考えていなかったから、下がっていくことに対してどう対応していいのかわからなくなってしまって。悩んで、焦って、ワークショップや映画祭に行っては「私、朝木ちひろっていうんですけど」といろんな人に話しかけたりなんかしました。そのとき出会った人たちからは、「凄く焦っている印象を受けた」って今でも言われます。」

SNSに翻弄されるなんて滑稽だ、自分から戦いを挑みにいこう。

―急に持ち上げられて、落とされて。それによる悩みや焦りを、どのように乗り越えられたのでしょうか。

「ふと「SNSに振り回される役者」というのが、すごく滑稽に感じたんです。そもそも自分は、インフルエンサーのようにSNSで勝負をしている人でもなかった。それなのに、自分の価値をフォロワー数だけで決めようとしているなんて。

ただ、フォロワー数が気になる自分も確かに存在している。ならもう、SNSに翻弄されていないで、むしろ自分からSNSに闘いを挑みに行こう。そう考えて思いついたのが、ミスiDを受けるということです。」

―そこでSNSを辞めようではなく、あえて闘いにいくという選択をされたんですね。

「バズったことはチャンスには違いないはずで、またチャンスが来るかなんてわからないから、「何とかこのチャンスに食らいついてやろう」と思って。それに、ミスiDなら『水ダウで1回バズったけど失速した』ことを面白いと捉えてくれるんじゃないか、という期待もありました。」

Miss iDって?
新しい時代をサバイブする多様な女の子のロールモデルを発掘するオーディション
2012年にスタートしたミスiD。「iD」は「アイドル」と「アイデンティティ」。そして「i(私)」と「Diversity(多様性)」。ルックス重視のミスコンとは異なり、ルックスやジャンルに捉われず、新しい時代をサバイブしていく多様な女の子のロールモデルを発掘するオーディションであり、生きづらい女の子たちの新しい居場所になることを目標とするプロジェクトです。8年目となるミスiD2020のキャッチコピーは、「世界はひとつじゃない。ルールも常識も女の子も」「人の人生を笑うな。」


https://miss-id.jp/about

「“2度目の打ち上げ花火は自分であげます。その花火が多くの人の心に残りますように”

これはミスiDの自己紹介PRに書いた文章ですが、まさにその気持ちでコンテストに臨みました。

ミスiDは、良いことも悪いことも、何でも叫べる場所。今モヤモヤしてるものを思い切りぶつけられる、そのときの自分が闘いにいくのにふさわしい場所だった気がしています。おかげさまで、VoCE賞・フェアプレー賞と2つも賞をいただくことができました。

現在は、ミスiDをきっかけに興味を持ってくださった監督さんとかもいて、映画とかに出してもらったりしています。」

―目の前の壁をすべて、避けずに乗り越えてきてらっしゃるようにみえます。

「友達の役者さんは、私のことを「目の前に壁があったら、素手でぶっ壊して前に進んでいくタイプ」って紹介してくれます。笑

いつも傷だらけだけど、なんか生き生きしてる子みたいな。自分でもその通りだと思います。何かいつもボロボロ。あえて素手、武装とかができない。でも、これからはそういう自分の武器みたいなものを、見つけて伸ばしていかないとなって考えています。

たとえば、唯一無二の演技力だったりとか、独特の雰囲気だったりとか。「やっぱりこの役はこの人がいいよね」って、それこそ小手さんとかそういう役者さんだと思うんですけど、そういう自分の武器を見つけていきたい。これからどんどん年もとっていくわけですし。」

自分で似合うと思う役より、みんなに似合うと思ってもらえる役を見つけたい。

―ちょうどこれから先についての話が出てきたので、いま朝木さんが特に力を入れている領域であったり、どんな役者を目指されているのかを教えていただけますか。

「10年後とかには、さきほどお伝えしたような「この役はこの人がいいよね」と名前が挙がるような人になっていたくて、今はいろんな役に出会って自分を模索している時期ですね。やっぱり役に出会わないことには、その役に向き合うこともできないですし、自分に合うかどうかもわからないと思うので。

役に出会うというのも、1人でワークショップとかで演じるのではなくて、作品を通していろんな自分をみんなに見てもらうことだと思っています。役に合う・合わないというのは、私が決めることではなくて、キャスティングする人や視聴者の方が決めることだから。

たとえば「私すごくメンヘラな役がハマる」って自分で思っていても、視聴者の人から「普通の人の役の方が似合う」思われるなら、それは視聴者の人の意見が正しいと思うんです。就活で言う、自己分析より圧倒的に他己分析の方が大事ってやつです。

なのでこれからも委ねるのは、他己分析。私はもう来るオファーだいたい拒まずに、ほぼNGナシで受けているんですけど、そこでキャスティングする人や視聴者からどう評価されているか、分析して自分をブラッシュアップしていくつもりです。

こういう考え方の部分でも、就活やOLの経験が活きているように感じています。」

―視聴者側からしても、いろんな役柄の朝木さんに会えるのは楽しみですね。これから公開される作品などあれば教えていただけますか。

まだ情報解禁ができないものが多いんですよね。。。2022年に劇場公開待機作があるので、ぜひ楽しみにしていてください。情報解禁の際にはSNSで告知させていただくので、TwitterInstagramをフォローしていただけると嬉しいです。

―最後に、読者の方へ伝えておきたいことがあれば、お願いします。

「まずは朝木ちひろっていう名前をぜひ覚えてほしいです。覚えていてくれれば、いつかどこかで私が出演しているものを観た時に「あっ」てなってくださると思うので。

そして、自分の人間性も知ってもらえたら、もっと嬉しいです。素手で壁をこうぶち壊してきた感じの、ボロボロのドリームファイターな役者がいて、その役者がテレビや映画に出ていたら、「自分も頑張ろうかな」ってもらえるんじゃないかなって思っています。」

Kei

前編・後編の2回にかけて、役者:朝木ちひろさんへのインタビューをお届けさせていただきました。夢に向かって突き進む、壁なんて素手でぶち壊す。だからいつもボロボロだ、と朝木さんは話されていましたが、筆者の目には、ボロボロというよりはキラキラと輝いているように見えました。