『ロミオとジュリエット』『マクベス』『ハムレット』や『ジュリアス・シーザー』。今まで劇作家・シェイクスピアが作った作品たちは、日本を含めた世界中で何度も上演が行われてきました。シェイクスピア劇の特徴と言えば、膨大なセリフ量。シャワーのように降り注ぐ言葉たちに圧倒され、“難しそう”という印象を持っている方も多いかもしれません。そこで、今回は大学時代にシェイクスピア文学を研究していた筆者が、シェイクスピア作品を理解し楽しむ3つのコツをご紹介します。

耳を澄ませて、言葉で想像力を働かせよう

そもそもシェイクスピア劇でセリフ量が膨大にあるのは、かつての演劇が“聴覚”を重視していたから。ダンスをしながら合唱をしたのが演劇の始まりと言われており、1人の俳優が合唱隊と交わりながら語るスタイルから演劇が生まれていきました。当時の劇場は円形で、舞台が突出しているスタイル。全ての客席から役者の細かい動きが見える形ではなかった一方で、オーケストラや合唱がよく聞こえるように作られていました。

シェイクスピア劇が演じられていたグローブ座(再建されたもの)

また、照明や音響などがなかったため、今の場面が昼なのか夜なのか、晴れているのか天気が荒れているのか、全てをセリフで表現していたのです。現代では映像演出などもありますが、当時はとてもシンプルな舞台。役者の“言葉”から、作品の世界観を表現しなくてはなりませんでした。そこで劇作家であるシェイクスピアは、言葉巧みに作品を表現したのです。シェイクスピア劇を観劇するときはこういった背景を踏まえ、目の前の俳優の演技や衣装・美術だけでなく、セリフの言葉から想像力を働かせてみてください。きっと奥行きのある情景が浮かんでくるはずです。

演劇の法則を無視?!次々と起こる事件に注目

シェイクスピア以前の演劇は、筋・時間・場所が統一されていなければならないという「三一致の法則」がありました。1つの筋で、同じ場所で、1日のうちに完結する物語を演じなければならない、という法則があったのです。しかしシェイクスピアはこの法則を完全に無視しています。『冬物語』という作品では様々な事件が起こったのち、一気に16年後まで時を飛び越えてしまいます。当時の観客たちはさぞ驚いたことでしょう。そこで『冬物語』では「時」という登場人物(砂時計を持った、はげ頭で翼のある老人!)を登場させ、翼を使って時を飛び越えますよ、と観客に呼びかけます。バラエティ番組でよく出てくる、ジャンプすることで場所を移動する(ワープしている)のに近い感覚かもしれません。

とにかくシェイクスピア劇ではあらゆる事件が次々と起き、スピード感ある物語展開が魅力です。ロミオとジュリエットは恋に落ち、ロミオがジュリエットの親族を殺してしまい、駆け落ちに失敗し2人とも死んでしまいます。2~3時間の上演時間で登場人物たちの運命がどんどんと動いていく様子を、体感してみてください。

今の世にも通ずる、性の曖昧さを描く

多様性、LGBTQといったキーワードが浸透してきた昨今。実はシェイクスピア作品にも性について考えさせられる作品が多数存在します。そもそもシェイクスピア劇では女性役を少年が演じており、舞台で演じていたのは男性のみ。宝塚と逆のイメージですね。シェイクスピアの作品には、女性が身分を隠すためなどの理由で男装するシーンが多く登場します。男性が演じる女性が、男装をするという何とも複雑な設定になっているのです。

例えば『十二夜』という作品では、男装したヴァイオラという女性が、男性として仕えた公爵(男性)に恋をしてしまいます。公爵はヴァイオラが男性だと信じているため、恋心に気づくはずもありません。一方、公爵が恋心を寄せるオリヴィアは、ヴァイオラを好きになってしまうのです…。しかもヴァイオラそっくりの双子セバスチャン(男性)が現れてしまい、しっちゃかめっちゃかな展開に。最後には様々な誤解が解けてハッピーエンド、となるわけですが、喜劇の中に性に対するテーマがしっかりと存在していることが分かるはずです。こういった作品に隠されたテーマを探すのも、シェイクスピア作品を楽しむ醍醐味です。

Yurika

シェイクスピア劇は想像力を掻き立てるキーワードがたくさん登場するからこそ、それをどのように舞台上で表現するか、演出家の手腕が問われます。2013年に上演された長塚圭史さん演出の『マクベス』では、魔女が客席に座ることで“魔女が消えた”ことを表現していたのが印象的でした。シェイクスピア作品を観劇する際は、ぜひこれらのポイントを踏まえて楽しんでみてください。