演出家・長塚圭史さんと主演・堤真一さんの豪華タッグが実現したシェイクスピア名悲劇『マクベス』。革新的な舞台仕掛けに魅せられました。(2013年・Bunkamuraシアターコクーン)
マクベスをたぶらかす魔女の正体は…?
シェイクスピア4大悲劇のひとつ『マクベス』。魔女たちに告げられた予言に惑わされ、主君殺しに手を染める将軍マクベスの苦悩と墜落を描いた作品です。
堤真一さんを始めとする俳優陣の圧巻の演技もさることながら、刮目すべきは四方を観客席に囲まれた舞台構造。3人の魔女は座席に紛れこみ、観客は自らが魔女の化身になった気分。皆でマクベスを追い詰めてゆく感覚を味わいます。客席を舞台に変えるこの策略が臨場感をより高め、観客は1人残らず作品世界に引きこまれていきます。
忍びこむ狂気、自らを侵食する心の闇
己の野心に蝕まれ、闇に溺れていくマクベスとマクベス夫人。彼らを追い詰める観客も、ある時ふと気づかされます。この闇は誰しもの心深くに潜む、人間の脆さそのものなのだと…。
観客を巻きこみ、普遍的な人間の性(さが)を鮮やかに舞台上に映し出す─。演出家の企みは功を奏し、『マクベス』は現代に生き生きと蘇りました。魂のこもった役者の息づかいと、演出の魅力を肌で感じる名舞台でした。