吉本興業史上、最長構想期間4年。NON STYLE石田明さんが脚本・演出を手がける新作『結 −MUSUBI−』が2月から上演されます。本作の見どころは何と言っても、ノンバーバル(非言語)の舞台であること。言葉に頼らないことで、世界中誰もが楽しめる空間を創り上げます。本作への想いと稽古中の様子について、石田明さんと主演を務める小野塚勇人さん(劇団EXILE)にお話を伺いました。作品のチケット購入はこちら

“喋らへん面白さ”を追求して、吉本のお笑いを海外へ

−4年もの間、構想を練られていた舞台だそうですが、最初のきっかけは?

石田「僕が見ている限り、吉本がまだ弱い、もっと行ける部分は海外とお子様向けのコンテンツだという想いがまずありまして。海外で何かやりたいなと思っていたのですが、漫才はやはり、英語にすると格段に面白さが違いますよね。
面白さを減らしてまでやる意味ってないねんな、今の面白さを維持しながら海外に持っていきたいなと考えると、ゼロからコメディー作った方がいい。逆に“喋らへん面白さ”を追求したもの作ろうと、ノンバーバルの作品の構想が始まりました」

写真:山本春花

−国内外のノンバーバルの舞台を視察されたそうですね?

石田「京都のノンバーバルシアター『ギア-GEAR-』や、韓国にいくつかあるノンバーバルの常設劇場を観にいきました。『NANTA』(※)の製作スタッフにアポを取り、どのようにヒットに至ったのかを細かく話を聞かせて頂きました。
『NANTA』は元々海外向けのコンテンツとして作り始めたそうなのですが、全然ヒットせず、国内にもハマらなかった。最初は国内にハマらないと駄目なのだと聞いて、“そうなんや、全然違う方向で考えてた!”と気づかされました。いかに海外向けのコンテンツを作るかを考えていたので。
じゃあ日本でやろうと思うと、国内で言葉を削ってまでやる必要がなくなるじゃないですか。日本語を削ってまで面白くする理由とやり方を、ずっと考えてきましたね」

※『NANTA』は1997年初演、キッチン用具を楽器として用いた韓国発のノンバーバル・パフォーマンス作品。韓国の伝統的なリズム「サムルノリ」をベースに、キッチンで起こる出来事をコミカルにドラマ化している。ブロードウェイ進出、韓国公演史上最多の観客動員数を記録するなど国内外で評価を受けている

−ノンバーバルの舞台と言うと、ブルーマンのように、リズムやビートでパフォーマンスするイメージがあります。石田さんが作るノンバーバルの舞台はまた異なるものになるのでしょうか?

石田「そういった要素も取り入れはしますが、最小限です。どちらかというと皆さんに無音を楽しんでいただきたい。今の世の中、無音には慣れていないですよね。ノイズキャンセリングまでして、爆音で音楽を聴く時代。でも、みんなで共有する静かな空間って面白いじゃないですか。それを感じていただける作品にしたい。無音の中で、僕たちがどれだけはっちゃけられるかが、今回のテーマかなと思っています」

コメディの才がある。欲しいものを返してくれるのが、小野塚勇人だった

−主演を小野塚さんに決めたポイントは?

石田「オーディションでは、僕がその場の思いつきで色々とやっていただく形を取ったのですが、小野塚くんのコメディに対する才を感じました。“そうそう、そういうものを求めていたんです”と思える。僕の欲しいところにいたのが小野塚くんでした」

写真:山本春花

−小野塚さんはオーディションを受けてみていかがでしたか?

小野塚「映画やドラマのオーディションでは台詞を渡されたり、直前に1枚渡されて話したりというケースが多かったので、特殊ではありました。ノンバーバルなので、何か動き系だろうなという想像くらいしかできなくて。実際に行ってみたら、凄く楽しくオーディションに臨むことができました。ただ一緒にマネージャーがいたので、親に授業参観を見られている気分で恥ずかしかったですね(笑)」

石田「最後の帰りがけに、“上半身だけ脱いでもらっていい?”って見せてもらったんだよね(笑)。LDHということもあって、ムキムキ過ぎたら台本も変わるなと思ったので」

小野塚「僕はそんなバキバキではないんです」

石田「良いラインでした。そこも踏まえて、僕が求めている人物でしたね」

写真:山本春花

予定通りに行かないから、面白い。本番でトラブル発生予告?!

−現状、作品はどんな段階でしょうか?(1月上旬時点)

石田「脚本が完成して、稽古も始まっています。2日目が休みなくらい、順調です(笑)。チーム感も凄く良いと感じました。みんな真面目に笑いと向き合うというより、単純に自分達が楽しむ空気ができている。この調子で、どんどん僕の脚本をぶっ壊していって欲しいです」

−どんどん脚本が変わっていく現場になりそうですね。

石田「間違ったことの方がもしかしたら残っていくかもしれない。やっぱり予定通り行かない方が人生面白いし、僕は予定通りいかないような台本を書いているわけじゃないですか。だからそれがもっと予定通りいかなくなったところで、それは凄く良いことなんですよ。皆さんで、僕の脚本家意欲を沸かせてほしい。本番直前まで書き換えているくらいが理想ですね」

写真:山本春花

−もしかしたら、本番の舞台で変わっていく部分も?

石田「いくつかそういった仕掛けは用意してあります。仕掛ける演者しか知らない部分もあるので、何かしらのトラブルは絶対起きるでしょうね。何度来ても別の舞台になっていると思います。もしかしたら全然噛み合ってない日もあるかもしれない。それを含めて楽しんで欲しいですね」

“してはいけないこと”が増えた世の中。大切なのは、楽しむ方法を探すこと

−本作では相撲部屋を舞台に、2つの“してはいけないこと”(私語と女性を土俵にあげること)がテーマになっています。このテーマを取り上げた背景とは?

石田「近年、“してはいけないこと”が増えてきています。お笑い界で言えば、容姿いじり。日常では、コロナ禍でマスクをしなければいけない世の中になった。“してはいけないこと”だと言われると、禁止事項に押さえつけられている感覚が出てくる。僕は、その感覚が良くないなと感じています。“してはいけないこと”が増えること自体は、別に悪いことではない。ただ押さえつけられていると感じてしまうと、一気に楽しくなくなってしまうんですよね。
卓球大会でいきなり“利き腕でやる卓球は禁止します”と言われたら困るけれど、遊びの中では“左でやってみようぜ”とか言いますよね。英語禁止ゲームとかもそう。誰かに決められた、押さえつけられたと思うと楽しくなくなるけれど、自分からやれば楽しい。
最近NON STYLEでも、<石田のお笑いは時代遅れ>という漫才をやりました。井上が、俺の容姿をいじるのは時代遅れだと指摘するというもの。今の環境を踏まえた上で、いかに面白い漫才を作るかを模索していくのが正解なのだと思います。自分から楽しみ方を見つけて、やっていく時代だと思う。『結 −MUSUBI−』も、喋らない舞台で楽しむ方法を考える。“してはいけないこと”の中で、楽しむ感覚を知れる作品になると良いなと思いますね」

−最後に、観客へのメッセージをお願いします。

石田「お笑い好きの方も、演劇好きの方も、そうでない方も、手ぶらで楽しめる舞台だと思います。海外の方、耳の不自由な方も楽しめる作品になっていると思うので、様々な方に見て頂きたい。海外の方には、日本にはこんな娯楽があるんだと知って頂き、日本に来てもらえたらなと思っています」

小野塚「ノンバーバルは、日本ではあまり知られていないジャンルだと思います。世界に発信する日本の新しいお笑いの形に参加できることがありがたいです。その面白さをしっかり自分の中で落とし込んで、表現していきたいと思います」

写真:山本春花
Yurika

脚本・演出をNON STYLE石田明さん、主演を小野塚勇人さんが務める『結 −MUSUBI−』。2月4日から東京公演(渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール)、2月11日から大阪公演(COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール)が行われます。日本のお笑いがノンバーバル舞台に。新たな歴史の一歩目を、見届けてください。