近年、誰もが知る有名人を扱った伝記映画が話題を呼ぶことが多いように感じます。QUEENのフレディ・マーキュリーの半生が名曲で蘇る『ボヘミアン・ラプソディ』や、10代で成功を収めた女優の壮絶な人生をたどる『ジュディ 虹の彼方に』、そして、ミュージカル『RENT』の原作者ジョナサン・ラーソンの生涯を描く『チック、チック…ブーン!』…。華やかなエンターテインメントの最前線を駆け抜けた人物の人間ドラマは、その業界の歴史を知るきっかけにもなりますね。
今回、ご紹介するミュージカル映画『ファニー・ガール』(1968年)もそんな伝記映画のひとつ。20世紀前半のアメリカで活躍したコメディエンヌ、ファニー・ブライスの生涯を知ることができる、古き良きミュージカル作品です。
ファニー・ブライスはどんな人?映画版を観てわかる、スターへ駆け上がった野心と世間が知らない彼女の涙
ファニー・ブライスは1910年から30年代にかけてヴォードビルの舞台やラジオで活躍した伝説のコメディエンヌ。華やかな経歴の裏に隠された、下積み時代や彼女の苦労にフォーカスした『ファニー・ガール』はミュージカルの舞台として成功をおさめ、映画化もされた作品です。映画版ではミュージカル版でも主演を務めたバーブラ・ストライサンドの名演が光ります。
無名の頃から、天性のセンスで観客を惹きつけるファニー。自分を信じて、時にハッタリを使ってでも、舞台に立とうと奮闘します。当時人気だったローラースケートのダンスショーでは、ひとり滑れないファニーがショーを引っ掻きまわす始末。そんな型破りなショーが観客を爆笑の渦に誘い、彼女は一躍人気者に。レヴューショーの第一人者・ジークフィールドが手がける舞台で売れっ子スターとしての道を歩み始めます。
夢を叶えたファニーでしたが、売れてからは仕事とプライベートとの両立に悩むことに。実際には生涯に3度の離婚を経験した彼女ですが、本作では2人目の配偶者・アーンスタインとの関係性が描かれています。人知れず流した涙を無かったことにして、世間が求めるファニー・ブライスであろうとする痛々しい姿に、エンターテイナーの過酷な側面を感じさせられます。
挿入されるミュージカルナンバーが物語をドラマチックに彩り、楽しみながらファニー・ブライスという人物のことを知ることができる本作。時代設定がミュージカル黎明期と重なるため、当時のブロードウェイの中心だった煌びやかなレヴューショーのシーンがあるのもまた魅力的です。
ミュージカル版が2022年にブロードウェイに帰ってくる!
映画の基となったミュージカル版はファニーの没後、1964年にブロードウェイで上演。約3年間のロングランを達成しました。クラシカルな雰囲気のある雄大な曲の数々は劇場でオーケストラの生演奏で聞いてみたいもの。耳に残るミュージカルナンバーも多く、「パレードに雨を降らせないで」(原題:Don’t Rain On My Parade)はドラマ『Glee』でも取り上げられた人気の楽曲です。
今年は『ファニー・ガール』のブロードウェイ再演プロジェクトが進行中。3月26日プレビュー公演スタートと、開幕を間近に控えています。出演はゴールデングローブ賞にノミネートされたビーニー・フェルドスタイン、日本人のファンも多いラミン・カリムルーほか。『ラ・カージュ・オ・フォール』や『キンキー・ブーツ』の脚本を手掛けたハーヴェイ・ファイアスタインが脚本を改訂し、ブロードウェイに笑い声を呼び戻します。
『ファニー・ガール』は過去に日本でも上演されています。初演は1980年、宝塚歌劇団を退団したばかりの鳳蘭さんが退団後初の主演作として注目を集めました。2010年には同じく宝塚出身の春野寿美礼さんがファニー役に。レヴューシーンが多く登場するため、日本では宝塚歌劇団との親和性が高い作品と言えるかもしれません。