ついに2月に公開を迎えるミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』。スティーブン・スピルバーグ監督が「キャリアの集大成」と語る力作が期待を集めています。今回は一足早く試写会にて本作を観た筆者が、『ウエスト・サイド・ストーリー』を映画館の大スクリーンで観るべき3つの理由をお伝えしていきます。
異世界を作り出す天才・スピルバーグが描く“ウエスト・サイド”
『E.T.』『ジュラシック・パーク』『レディ・プレイヤー1』と多様な角度から異世界を作り出し、観客を魅了してきたスティーブン・スピルバーグ監督。世界中で上演され続ける名作ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』の映画化がスピルバーグ監督の念願であったことは、意外でした。一見、彼が手がけてきた作品とは異なるジャンルのように思える本作。しかし、映画を見るとスピルバーグ監督がどのように『ウエスト・サイド・ストーリー』という作品を捉え、映画化を夢見てきたかがよく分かります。
『ウエスト・サイド・ストーリー』の舞台は1950年代のニューヨーク、ウエスト・サイド。ヨーロッパ系移民のチーム・ジェッツとプエルトリコ系移民のシャークスの縄張り争いから物語は始まります。本作ではこの“移民から見たニューヨーク”という要素に加え、スラム街を取り壊し、富裕層向けのエリアに再開発するという時代背景を追加。既に建物が壊され始めている工事現場をカメラが追っていくと、まだ“街”として機能しているウエスト・サイドにたどり着く。そこに暮らしているのは、故郷を離れ、夢と現実の狭間で揺れ動く若者たち。こうして観客は、時代と空間を超え、“異世界のウエスト・サイド”に入り込んでいきます。
対立構造が次々と変化。誰もが多数派であり少数派になり得る
“街を追われる若者たち”という視点は、移民の対立が恋人を引き裂く悲劇を描いた『ウエスト・サイド・ストーリー』に、富裕層と貧困層という新たな対立構造を浮き彫りにします。自由の国“アメリカ”を夢見てやってきた人々が、ようやく掴んだ居場所を追われる。この視点で言えば、ジェッツもシャークスも目の前の世界がいつ崩れ去るか分からない、焦燥感に駆られる日々を過ごしているのです。
また本作では、ジェッツの元リーダーであるトニーの過去にもフォーカス。トニーがジェッツのリーダーを辞めた理由、暴力の日々から抜け出そうともがく姿を語ります。彼とマリアの恋は、日々の憂さ晴らしを暴力で解決しようとするジェッツ・シャークスとの対立でもあります。人の心を満たすのは、恋か、争いか。
人種、性別だけでなく、住む場所や環境、生きる目的といった多様な視点において描かれる『ウエスト・サイド・ストーリー』。私たちは誰もが、常に“普通”でい続けることなんて出来ない。ある時は多数派であり、ある時は少数派になり得ます。未曾有のウイルスによって分断されつつある社会で今、改めて認識するべきテーマなのではないでしょうか。
世界中のショービジネスに影響を与えた音楽とダンスに臨場感をプラス
『ウエスト・サイド・ストーリー』のダンスが、「今夜はビート・イット」を始めとするマイケル・ジャクソンの振付に影響を与えたことはよく語られています。世界中のダンスカルチャーに革新をもたらしたと言われ、日本もその例外ではありません。今や様々なグループが多方面で活躍するジャニーズも、当時野球チームだった子供たちと映画『ウエスト・サイド物語』映画を観たことから始まっています。
「Tonight」「Cool」「America」など鮮烈に耳に残る楽曲はミュージカル界の巨匠スティーブン・ソンドハイム(作詞)とレナード・バーンスタイン(作曲)によるもの。『ウエスト・サイド・ストーリー』が長年愛され続ける大きな要因であるダンスと音楽を、スピルバーグ監督は壮大なスケールと臨場感で引き立てます。トニーとマリアのはやる気持ちを存分に描いた「Tonight」、街中を舞台に美しく迫力あるダンスを楽しめる「America」は大スクリーンで楽しむべきでしょう。
『ウエスト・サイド・ストーリー』(配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)は2022年2月11日(祝・金) 全国ロードショー。質の高いダンスパフォーマンスや歌声、迫力ある映像に、映画でありながら思わずスタンディングオベーションしたくなる作品でした。