ブロードウェイの舞台を映像化、日本で観ることができる松竹ブロードウェイシネマ。本企画で3月11日より全国順次限定公開が予定されているのが、『プレゼント・ラフター』です。主演のケヴィン・クラインがトニー賞演劇主演男優賞を受賞した名作の映像が日本に。作品の魅力とタイトルに隠された秘密をお伝えしていきます!

私生活でも演じてしまう喜劇役者を、世界的トップスターが熱演

誰もが多少なりともコミュニティや相手によって自分を演じ分け、見栄を張り、時にしょうもない嘘をつく。その姿を舞台化して観客が見たら、さぞ滑稽なことでしょう。『プレゼントラフター』の主人公ギャリーはその典型、究極形とも言える存在。中年の大人気喜劇役者で、私生活でも自分を“演じる”ことから抜け出せません。夢見る若い作家が書いた脚本を見てアドバイスをすると約束してしまったり、真剣に付き合う気は無いのに、言い寄ってきた女性を家に泊めてしまったり…。

その場しのぎで「大人気喜劇役者」を演じてしまうがゆえに、秘書や昔からの友人たちはギャリーと一緒にトラブルに巻き込まれてばかり。ギャリー自身は、作家の育成にも、真剣な恋愛にも興味がないのがまた辛いところ。自分の本音を伝えるのが面倒、役を演じれば良い役者の仕事に逃げ込もうとするギャリーの姿は、“良い大人なんだからちゃんとしなよ”という呆れと、“面倒で逃げたくなる時もあるよね”という共感でせめぎ合います。

アカデミー賞とトニー賞のダブル受賞という名実ともにトップスターのケヴィン・クラインがギャリーを演じることで、彼の滑稽さと哀れさが更に際立ちます。(ケヴィンは実写版『美女と野獣』で主人公ベルのお父さん役を演じたことでも知られています)ギャリーの生活をかき乱すことになる女性の1人として、『アベンジャーズ』シリーズで人気のコビー・スマルダーズも参戦。本作が待望のブロードウェイデビュー作品となります。

人生は、儚い「今」が続くばかり

『プレゼント・ラフター(Present Laughter)』とは直訳すると、「今の笑い」。プレゼントとは「贈り物」ではなく、「現在」を意味しています。『プレゼント・ラフター(Present Laughter)』はシェイクスピア作の喜劇『十二夜』の台詞から引用してつけられたタイトルなのだそう。卒業論文で『十二夜』について論じた筆者はいてもたってもいられず、『十二夜』の該当箇所を探してきました。「present laughter」というキーワードが出てくるのは、『十二夜』に登場する道化師フェステが歌う、ラブソングの歌詞の中。

What is love? ‘Tis not hereafter,
Present mirth hath present laughter.

Twelfth Night (The Oxford Shakespeare)

hereafterとはin the futureを意味します。訳してみるとするならば、「愛とは何か?それは未来などなく、今この瞬間の陽気さ、今の笑いがあるだけ」、といったところでしょうか。つまり恋に落ちればその瞬間は浮かれたり笑ったりできるのだけれど、それが長続きするものではない、という恋の儚さを歌っているのです。

『プレゼント・ラフター』のギャリーも、恋を含めた人との繋がりというのはその時々のもので、永遠に長続きするものではない、という何処か諦めのような気持ちが心の奥底にあるのかもしれません。

『プレゼント・ラフター』は3月11日より全国で順次限定公開予定。詳細は公式HPをご確認ください。

Yurika

“バカ笑いできるコメディ”というよりも、人間の性を滑稽に炙り出す喜劇作品である『プレゼント・ラフター』。シェイクスピアを始めとする文学が礎にあるイギリスらしい作品だなと感じました。