名画に隠された恐怖の背景を解説した美術書「怖い絵」(中野京子著)。2017年に東京・兵庫で「怖い絵」展も開催され、足を運んだという鈴木おさむさんが手がけたのが舞台『怖い絵』です。絵画の謎と、物語の謎を解くという新感覚の作品の観劇リポートをお届けします。(2022年3月・よみうり大手町ホール)
ベストセラー美術書「怖い絵」が舞台に
オランダの画家フェルメールの作品『窓辺で手紙を読む女』。フェルメールらしさが表れている初期の傑作として知られるこの作品は、1979年のX線調査により、キューピッドの絵(画中画)が塗りつぶされていることが分かりました。フェルメール自身が消したものだと考えられていましたが、塗りつぶされたのはフェルメールの没後であることが判明。第三者の手によって一部が塗りつぶされた絵だったのです。
作者の手元を離れ、何十年も生き続ける絵画。その中には一見見ただけでは計り知れない、様々な背景、意図、メッセージが込められています。時にはそれが鳥肌の立つような怖い真実であることも。そんな名画に隠された恐怖の背景を解説した、ベストセラー美術書「怖い絵」(中野京子著)を元に作られたのが、今回の舞台『怖い絵』。中野さんも監修を担当、作・演出を鈴木おさむさん、「怖い絵」のコレクターを尾上松也さんが務めます。
15歳で女王になるも、わずか9日後には反逆罪として投獄、処刑されたレディ・ジェーン・グレイを描いたドラローシュ作『レディ・ジェーン・グレイの処刑』。異様なまでに切り裂きジャックに執着し、彼自身が切り裂きジャックだったのではないかとも言われるウォルター・リチャード・シッカート作『切り裂きジャックの寝室』。様々な「怖い絵」の裏側に踏み込んでいく一方で、尾上松也さん演じるコレクターの光は、ある事件の裏側も解き明かしていきます。絵の意外な真実を知るとともにミステリーが進行していく本作は、知的好奇心と謎解き欲の双方を同時に満たしていく感覚です。
ミステリー&サスペンス&コメディで心を掴み続ける120分
尾上松也さん、比嘉愛未さん、佐藤寛太さん(劇団EXILE)、崎山つばささん、寺脇康文さんの5人芝居である本作。惹き込まれていくミステリー部分の迫真さと、ナマモノである舞台を活かしたアドリブ満載のコミカルさ、緩急の付け方はさすが実力派揃いのカンパニー。表面に見えている事実の裏側に、どんな真実が隠されているのか。フェルメールの『窓辺で手紙を読む女』のように、他人によって塗りつぶされてしまった本当の事件の背景とは何だったのか。ひと時も真実を見逃すまいと心を掴み続けられた120分でした。
舞台『怖い絵』は3月21日まで東京公演、24日から27日まで大阪公演の上演が予定されています。詳細は公式HPをご確認ください。
絵画が描かれた当時の社会的背景や作者の背景を知ることで、作品の奥行きが広がっていく。それは演劇も同じです。芸術を愉しむということの面白さ、奥深さを改めて感じることのできる作品でした。