空から飛んでくる彼女の姿、一度聞いたら耳から離れない楽曲の数々。『メリー・ポピンズ』と聞くと、“子ども向けのディズニー作品”というイメージを持たれる方も多いかもしれません。しかし華やかなステージの根本には、困難な時代を生き抜くためのヒントが数多く隠されていました。（2022年4月・東急シアターオーブ）

メリー・ポピンズに任せれば、「何もかもパーフェクト」

バンクス家の子どもたちジェーンとマイケルは、子守りが次々に辞めていってしまうほどのいたずらっ子。一家の王様として規律を重んじる父のジョージ・バンクス、上流階級に馴染めない妻のウィニフレッドと、バンクス家には問題が山積みです。そんなバンクス家の新たな子守りとしてどこからともなくやってきたのが、メリー・ポピンズ。

どんなに嫌なこと・面倒なことも、“お砂糖ひとさじ”で楽しむことができる。外見にとらわれず、その人の内面を知り、理解する。硬貨は使い方次第で価値が変わる。彼女の言葉と教えの数々は、忙しい日常に追われ、大切なことを失いかけている大人にも突き刺さります。

ぬいぐるみを乱暴に扱うジェーンに対して、ぬいぐるみ側も“あなたと遊んでほしいとは思わないでしょうね”と言い放つメリー。しかしジェーンは“ただのぬいぐるみ”だと考えを改めないため、メリーはぬいぐるみたちに魔法をかけ、彼らの怒っている姿を見せます。人に対しても、物に対しても、相手への想像力を働かせ、敬意を持って接する。魔法を使いながら、導くように大切なことを教えてくれるメリーは、「何もかもパーフェクト」です。

安定感抜群のコンビ！凛とした笹本メリーと素朴な小野田バート

メリー・ポピンズを演じるのは、本作への出演が夢だったという笹本玲奈さん（濵田めぐみさんとのWキャスト）。高音が続く楽曲をいとも簡単に歌い上げ、凛とした美しい声で子どもたちを率います。優雅にダンスを披露したかと思えば、キレのあるタップダンスまでお手のもの！笑顔で「スーパーカリフラジリスティックエスピアリドーシャス」の高速ダンスを踊る姿は、まさにメリー・ポピンズその人です。

メリーと共に子どもたちを魔法の世界に誘う煙突掃除屋のバートを演じるのは、小野田龍之介さん（大貫勇輔さんとのWキャスト）。これまで数々のミュージカル作品で共演してきた笹本玲奈さんとの息はぴったり！メリーの魔法を理解しながら、常に自然体な姿が、メリー・ポピンズの世界と観客とを繋ぐ役目を果たしてくれます。

分断の時代だからこそ、私たちが信じるべき“魔法”

ここ数年、世界は様々な困難に直面してきました。未曾有のウイルスにより大切な人を亡くし、触れ合うことができなくなり、旅行はおろか、外出すら難しい時間が長く続きました。そして今、私たちのすぐそばで、戦闘が起こっている。世界には誰も味方がいないと、孤独を感じる人も多いのではないでしょうか。

バンクス家もジョージが職を失いそうになったり、メリーが去った後に厳格な子守りがやってきたりと、あらゆる困難が襲い掛かります。家出をしたジェーンとマイケルの前に現れたのは、メリーとバート。屋根の上からロンドンを眺めてみると、たくさんの煙突掃除屋たちが見守っていて、困った時に駆けつけてくれるのだと教えてくれます。分断の時代を生きる私たちも、少しだけ視点を変えて、日常の中のお砂糖のような楽しみを探してみると、自分を支えてくれる存在に気づけるのかもしれません。

ミュージカル『メリー・ポピンズ』は5月8日まで東急シアターオーブにて、5月20日から6月6日まで梅田芸術劇場メインホールにて上演予定です。チケットの購入はこちら