2021年7月、『時をかける少女』や『サマーウォーズ』で知られる細田守監督の最新映画として公開された『竜とそばかすの姫』。仮想空間を舞台に主人公の成長を描くなかで、昨年の紅白でも披露された「U」をはじめとした”歌”が重要な役割を担っています。新進気鋭のシンガーソングライター、中村佳穂さんが主人公・すず/ベル(Belle)に抜擢され、中村さんも劇中歌などの制作に参加している本作。今回は「歌」を中心に作品の魅力に迫ります。
“歌の魔法”が奇跡を起こす、少女の成長物語
主人公・すずは高知の自然豊かな田舎に暮らす高校生。幼い頃に母親を亡くした経験から、人前で歌えなくなり、人からできるだけ注目されないよう、地味な学校生活を送っています。ただ、かつて母親と親しんだ音楽はずっと作り続けていました。
ある日、親友から総人口50億を超える人々が集うインターネット場の仮想空間「U」に誘われます。「U」では、自身の生体情報から本来の才能を発揮することができる自分の分身、「As(アズ)」を作り出すことで現実とは別の人生を生きることができます。すずは自分のAsにベル(Belle)と名付けUの世界へ。そこでふと口ずさむと、自然と歌えていることに気付きます。ベルの歌は瞬く間に全世界で話題となり、Uの歌姫として大人気に。そして、ベルの大型コンサートの日、突如会場に「竜」という謎の存在が現れ、次第にベルとU全体を巻き込んだ騒動へと発展します。
ベルの歌から感じ取れる魔法の言葉たち
テーマ曲の「U」は、King Gnuの常田大輝さん率いるmillennium paradeが手がけたことでも話題を呼びました。昨年の紅白でも披露されたため、この曲は知っているという人も多いのではないでしょうか。楽曲「U」だけでなく、劇中のベルの音楽=すずが作り出す音楽は、物語内で印象的なシーンで使われています。
例えば、Uの世界へ初めてログインしたすずがベルとして恐る恐る歌い出す場面。「歌よ導いて」というささやきから始まり、初めてベルとして歌った曲「歌よ」へと繋がります。「嫌になる、みんな、幸せなの? 愛している人がいるの? こうしてひとりでいると不安になる 歌よ導いて! どんなことが起きても良い!」
ずっとひとりで過ごしていたすずの心境が吐露されている言葉にも関わらず、どこか共感もできる歌詞に、Uの人々と同じようにベルの歌に引き込まれていきます。他の劇中歌「心のそばに」や、「はなればなれの君へ」の歌詞も、物語の重要な場面で、すずの心情が歌とリンクしていきます。
すず/ベルを担当された中村佳穂さんの歌声がとにかく素晴らしい本作。映画を観終わってから、またベルの歌声が聴きたくなってしまいました。ベルの歌は各種サブスクリプションにて配信されているのでいつでも聴くことができますよ。