『アナと雪の女王』から『メリー・ポピンズ』まで、2022年はディズニーミュージカルが盛り上がりを見せる1年。劇団四季の『リトルマーメイド』は静岡、広島、宮城の3都市をまわる地方公演を巡演中です。新緑を揺らすさわやかな風を感じながら、人魚姫アリエルが泳ぐ静岡の海へ飛び込んできました。(2022年4月・静岡市民文化会館)

心が躍るリアルな海の世界

海底王国に住むアリエルは、18歳の人魚姫。陸の世界と人間に興味を持ち、海上の探検に出かけていきます。航海中の船を見に行ったアリエルは、人間の王子・エリックに一目惚れ。しかし、目の前でエリックの船が嵐に巻き込まれてしまいます。アリエルは海に投げ出されたエリックを浜辺まで連れていき、彼の命を助けました。

命を救い、美しい声で歌ってくれた謎の女性に心惹かれたエリックは、声の主を探すことを決意。アリエルもエリックへの恋心を募らせ、海の魔女アースラの魔法で自分の声と引き換えに人間の足を手に入れます。

ファンタジーに満ちた『リトルマーメイド』の舞台化と聞くと原作アニメーションと現実にギャップが生じるのではと思うところですが、そんな心配はご無用。美しいオーバーチュアが流れて幕が上がると、舞台の上は人魚が泳ぎ回る海の世界です。

見惚れてしまうのが、アリエルをはじめとする人魚や魚のリアルな動き。水中の場面では、生き物たちが水の流れに身を任せて体を揺らします。地上の重力を感じさせない俳優たちの演技には脱帽してしまいました。

アリエルが陸への憧れを歌う『パート・オブ・ユア・ワールド』のシーンは、何度見ても圧巻。伸びやかな歌声と泳ぎが本物の人魚姫のようで、ここが劇場であることを忘れてしまうくらいです。

リアリティを感じさせつつ、カモメたちのタップダンスやカニのセバスチャンと宮廷シェフの戦いといったコミカルな場面も魅力的で、自分が原作アニメーションの世界に入り込んでしまったかのようなひととき。終演まで胸の高鳴りが止まりませんでした。

歌声を失くした人魚姫の告白

人間になってエリックと再会し、お城で過ごすことになったアリエル。憧れていた陸の生活に胸を踊らせますが、海で助けてくれた女性の声を探し求めるエリックには、アリエルが声の主であることが伝わりません。

会話はできないけれど、ダンスで心を通わせる2人。親しくなれたのも束の間、お城では歌声の美しい女性を集めたコンテストが開かれ、エリックは王位継承者としてその中から結婚相手を決めなければならないのです。

アリエルは魔法の代償として、コンサートの日の日没までにエリックからキスされなければ一生アースラの奴隷になってしまいます。アリエルとエリック、そしてアリエルを見守る父のトリトン王とセバスチャンによる「もしも(カルテット)」は、あまりにも切なく胸に響きました。

いよいよコンテストの日。声が出ないアリエルは、歌の代わりにエリックに教わったダンスのステップを披露して気持ちを伝えます。今回アリエルを演じていたのは、若奈まりえさん。歌声もルックスも可愛らしい若奈さんのアリエルは、くるくると変わる表情の演技が印象的でした。コンテストの場面では、他のお姫様に笑われ、憐れまれながらもエリックへの愛を表現する若奈アリエルの懸命な表情が、見ていてとても愛おしかったです。

さきこ

劇団四季ミュージカル『リトルマーメイド』の静岡公演は、5月29日まで。劇場の近くにある商業施設は作品とタイアップしていて、平日でも観劇目当ての人で賑わっていました。7月11日から10月10日までは広島で、11月からは宮城で上演します。日常を忘れさせてくれる幻想的な人魚姫の世界に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?