2020年にDisney+(ディズニープラス)にて配信が開始し、2021年11月に待望の日本語字幕が追加されたミュージカル『ハミルトン』。2015年の初演以降ブロードウェイにて驚異的な人気を誇り、オバマ前大統領は2度観劇。2016年にはミュージカル作品賞を始めとするトニー賞史上最多受賞を誇り、ミュージカル史を大きく動かした作品となりました。

ヒップホップで語る、アレクサンダー・ハミルトンの生涯

『ハミルトン』の主人公は、カリブ海の島出身という“移民”ながらもアメリカ建国に大きく貢献したアレクサンダー・ハミルトン。優れた知性と文才で貧困の境遇から抜け出し、独立戦争、新政府づくりに邁進した一生を描きます。アメリカ国民にとってアイデンティティとも言える物語。しかし歴史物と言うと、とっつきにくいイメージがあるのは万国共通でしょう。

それでもミュージカル『ハミルトン』が若者を始めとする多くの観客の心を掴んだのは、「ヒップホップ音楽」という革新的な手法にあります。本作はミュージカルと言っても、ラップが主軸。セリフから徐々に感情が昂り、言葉が積み重なって音楽になっていく。それは言葉を武器に人生の道を切り開いてきたハミルトンのキャラクターを表現するにも相応しい手法と化しています。

本作の脚本・作詞作曲・主演を手がけたのは、映画『イン・ザ・ハイツ』で日本でも一躍有名となったリン=マニュエル・ミランダ。『モアナと伝説の海』では作曲を担当し、「How Far I’ll Go」でアカデミー主題歌賞にノミネートされました。まさに時代の寵児と言える彼が生み出す音楽は、エモーショナル。登場人物たちの感情を細やかに紡ぎ出します。(関連記事:「【勝手に推しを大特集】リン=マニュエル・ミランダ編!現代ミュージカルの顔となった天才劇作家」はこちら

「歴史が君を見つめている」

自分の遺産(レガシー)を残したい。貧しさを知っているからこそ、命がけで、政治の世界をのし上がっていったハミルトン。それは彼の強さであり、弱点でもありました。自分の意志を明確に示し、野心を見せればそれだけ、敵も生まれやすいのです。そんなハミルトンに対して、アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンは「History has its Eyes on You(歴史が君を見つめている)」と諭します。

初代大統領という途方もない重責を果たしたワシントン自身の経験から生まれた重いこの言葉は、熱を持って観客にも語りかけられます。ミュージカル『ハミルトン』は奇しくもオバマ氏、トランプ氏という両極端な大統領の時代に上演され、作品の捉えられ方も変化していきました。歴史は過去の人物たちによって作り上げられたものではなく、今を生きる私たちが前に進めていくもの。そして後世に、渡していくものです。私たちが今、遺していくべきこととは何なのか。キャスト陣は「答えを与える」のではなく、「対話を生む」のがミュージカル『ハミルトン』の役割だと語っています。

ハミルトンの意志を引き継いだイライザ

本作では黒人を始めとする、白人以外の俳優を多く起用したことでも歴史的な作品となりました。多様な人種の俳優が、アメリカという国への夢を語り、国づくりを担う。多様性の体現はもちろんのこと、全ての人々がアメリカという国、そして人類の歴史の当事者であることを、観客に印象づけます。

当事者は男性だけではありません。ハミルトンの妻イライザは、ハミルトンの死後、彼の文書をまとめ、彼の遺産(レガシー)を確立させました。それに加え、ニューヨーク初の私立の孤児院を創設。孤児で貧しい少年ハミルトンが歴史を変えたように、未来の「歴史」を担う人々を支える場所を作ったのです。彼女の力強い生き様は、女性として大きな勇気をもらいました。

ミュージカル『ハミルトン』はどこで観られる?

ミュージカル『ハミルトン』はディズニー公式動画配信サービスDisney+(ディズニープラス)にて観ることができます。ディズニープラスは月額990円(税込)で、ミュージカル『ハミルトン』のほか、『メリー・ポピンズ』『メリー・ポピンズ リターンズ』『天使にラブ・ソングを…』『グレイテスト・ショーマン』『リメンバー・ミー』『ハイスクール・ミュージカル』などを観ることができますよ。

ディズニープラスで配信されているミュージカル『ハミルトン』はニューヨーク・ブロードウェイで本作を上演しているリチャード・ロジャース・シアターで収録されたもので、3回の舞台本番の収録と無観客での収録を合わせたものだそう。ディズニーが映像化権として約82億5千万円(7,500万ドル)もの金額を支払ったことや、コロナ禍での劇場クローズを受けて配信(映像化)が前倒されたことも話題となり、本作がいかに影響力のある作品かを窺い知ることができます。時代を変えた歴史的ミュージカル『ハミルトン』。ミュージカルには抵抗があるという方にもおすすめの1作です。ディズニープラスの公式HPはこちら

Yurika

アメリカ国民ではない自分がどこまで感情移入できるだろうか…などと考えていましたが、見始めるとそんな心配は無用でした。音楽とダンス、俳優たちの熱演に惹き込まれ、何度見ても涙してしまう作品です。