5月22日まで、下北沢の本多劇場で上演している、ゴツプロ!『十二人の怒れる男』を観劇してきました!作品とアフタートークのリポートをお届けします。『十二人の怒れる男』についてはこちら

人間本来の価値観があらわにされる、『十二人の怒れる男』

ゴツプロ!は俳優の塚原大助さん主催、2015年に男性俳優7人で立ち上げられた劇団です。2016年の旗揚げ公演『最高のおもてなし!』は好評を博し、2018年に幻冬舎文庫で小説化されました。同年、『三の糸』で海外進出を果たし、台湾の台北で上演。万国共通の人間の根本的な部分を作品に落とし込み、世界に発信しています。

今回上演する作品は『十二人の怒れる男』。1957年にアメリカで公開されたヘンリー・フォンダ主演の映画で知られ、日本でも三谷幸喜さんが『十二人の優しい日本人』というオマージュ作品を上演するなど、演劇作品としても人気です。『十二人の怒れる男』についてはこちら

スラム街で暮らす少年が父親殺しの容疑で起訴された事件の陪審員として集まった、十二人の男たち。判決は全員一致でなければなりません。全員が有罪だと確信していた中、一人の陪審員が「話し合いたい」と声を上げます。少年に不利な証拠や証言の疑わしい点を1つ1つ再検証していくと、有罪だと思っていた陪審員たちの考えは徐々に変化していきます。

対話が減った現代で目の前の相手と議論を交わすということ

本作では12人の陪審員たちは、1号〜12号というそれぞれの陪審員としての番号でお互いを呼び合います。少し登場人物が多いですが、番号順に席に着くので混乱せずに観られます。

印象的だったのは12人の中で1人だけ、「1人の命の問題」だから無罪の可能性を捨てないよう、何度も呼びかける8号の姿。「映画では8号はヒーロー的に描かれているけれど、そうしたくなかった」と8号演じる泉知束さんは言います。“有罪か無罪か本当に分からないから議論しよう”と問題点を1つずつあげていく実直さを感じました。

一方、最後まで有罪説を唱えるのは3号と10号。貧困層への偏見の強い10号は、決定的な理由がないにも関わらず、少年がスラム街出身ということだけで初めから有罪しかあり得ないと強く主張します。また、陪審員たちの中には、議題の少年と同じくスラム街育ちの5号や、ヨーロッパからの移民でユダヤ人の11号がいますが、彼らに対しても差別的な偏見で食いつき、他の陪審員たちに止められます。

3号も自分の意見に確信を持ち、最後まで有罪説を唱えますが、彼の理由は10号のものとは違います。彼が有罪を主張し続ける理由には、自身の息子との問題が関わっているのです。3号も、10号も、自分たちなりの「正義」に従っての言動なのですが、それは時に私たちがSNSで見かける批判の言葉と重なって見えます。

しかし、12人だけの閉鎖された空間で、目の前で怒りを露わにしてぶつかり合うことと、顔の見えないSNSで闇雲に怒りをぶつけることは違います。3号も、10号も、話し合いの末、意見を自ら変えるのです。人と人が対面で言葉を交わし合うことがいかに大切か、目の前で巻き起こる白熱した議論と、感情と共に発せられる言葉の力から感じました。判決の結果よりも、人々の熱量あるぶつかり合いに目が奪われる作品です。

思考や価値観の移り変わりを現す、独特な舞台セットに注目

通常『十二人の怒れる男』の舞台セットは、大抵舞台の中央に、正面から見て横向きに長机が置かれます。しかし、本作の舞台セットでは縦向きに長机が置かれていました。また、上手手前の隅にはウォーターサーバーが、他三隅には種類の違う椅子が設置されていました。

そして、特徴的なのは客席の配置。舞台を360度囲むように配置されています。私は今回、通常の舞台では上手の奥側にあたる位置で観劇しました。正面に通常の客席があるので、相手から見られているような、不思議な緊張感でした。客席で舞台を囲むことで、“目撃者”の意識が強くあったように感じます。

更に、西沢さんの特徴的な演出は他にも。長机と陪審員たちの座る椅子12脚は、「盆」という円形状の「回り舞台」の上に乗っていて、芝居中でその盆が回るのです。舞台が回ることで、陪審員たちの思考や価値観の移り変わりを表現する演出に感動しました。

私の観劇した回の後には、アフタートークが実施されました。中でも印象的だったお話は、座り位置によって相手から受ける影響も変わってくるということ。隣が誰か、正面が誰かによって感じるものが違ってくると言います。これも実際に、その場で言葉を交わし合っているから起こること。2号を演じる佐藤さんは、隣の3号演じる山本さんの睨みに圧倒され、稽古中どんどん机の端に追いやられていってしまったのだとか。

席の座り順も、芝居できちんと整理が付くように組み立てられている巧妙な戯曲。座り位置の話を聞いて、何人か、机から離れて、舞台の隅にある椅子に座りにいく事があるのですが、それにも意味があると感じました。ぜひ、これから観劇される方は注目してみてください。

ゴツプロ!『十二人の怒れる男』は、5月13日(金)〜5月22日(日)下北沢の本多劇場で上演しています。公式サイトはこちら

ミワ

『十二人の怒れる男』という作品自体が好きで、映画版も舞台版も観た事があるのに、最後まで手に汗握りながら観劇しました。舞台セットに大興奮。シリアスですがクスッと笑えるシーンも。あっという間の1時間45分でした。