ミュージカル、ストレートプレイ、ショウケース……筆者は、これまでたくさんの作品を見てきました。そんな筆者が「観劇」にのめり込んだきっかけは、大泉洋さんらが所属する「TEAM NACS」。今回はその中から、十年ぶりに集まった兄弟たちに巻き起こる大騒動を描いた『下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。』(以下、下荒井兄弟)を「初心者向け1本目シリーズ」と題してご紹介します。

粛々と「十年祭」が過ぎていく……はずだった

『下荒井兄弟』は、2009年に上演されたTEAM NACSの第13回公演。脚本・演出を大泉さんが担当しています。出演者はTEAM NACSメンバーのみですが、森崎博之さん、戸次重幸さん、音尾琢真さんが2役を演じています。

ある春の日に迎えた両親の十年祭。家業のギター教室を継いだ長男、下荒井大造(森崎さん)の元へ、芸能事務所を経営する三男の剛助(安田顕さん)と、大手楽器メーカーに勤める末っ子の修一(戸次さん)が帰省してきました。

それを自室から眺める引きこもりの四男、健二(大泉さん)は、「独自の情報網」で剛助と修一が「ある事情」を抱えていることを知っており、2人に「いたずら」をしかけることにします。そこへ、十年前から音信不通の次男、大洋(音尾さん)が突然の帰宅。兄弟は騒乱の渦に巻き込まれていきます。※十年祭とは、仏教の法事・法要にあたる神道の追悼儀式のこと

個性的なキャラクターが集まったワンシチュエーションホームコメディ

『下荒井兄弟』は、いわゆる「ワンシチュエーション」作品。下荒井家の1階と2階など、部屋の区画はあるものの、セットチェンジが行われません。前半はコメディらしいバタバタした展開、後半は大洋が音信不通だった理由や兄弟の秘密が明かされるという構成で、緩急のバランスがとても良い作品だと思っています。

また、それぞれのキャラクターも非常に個性的で、中でも目を引くのは音尾さんが2役で演じる郁代。修一とともに下荒井家を訪れる社長令嬢なのですが、もう一方で演じる大洋とは真逆のキャラクター。あまりのギャップに、観客が思わず「え……?」といってしまったエピソードも存在しています。

客席を笑いで包みながらも、あたたかくてほんのり涙する作品

物語終盤、緊迫した状況の中で、昔父が作ったという曲を大洋がギターで弾き始めます。そのギターに合わせて、健二と修一が歌い始めるのですが、恋人、家族への愛を歌ったあたたかい歌詞に涙を誘われます。さらに大泉さんも戸次さんも非常に歌唱力が高く、より一層心を動かされます。

この曲は、劇中で途中まで披露されるのですが、フルバージョンが舞台のサウンドトラックに収録されています。CDのほか、Spotifyなどの配信サービスなどで視聴可能です。

『下荒井兄弟』は、「本当にこんな家族がいるんじゃないか」と思わせる親しみやすさがあり、全てのキャラクターがいとおしく思えるような作品です。舞台観劇というと、どうしても敷居を高く考えられがちですが、「自分だったらどんな作品をオススメしようかな」と考えてみてはいかがでしょうか。