劇作家で演出家の藤田貴大さん率いる劇団「マームとジプシー」は、2012年から多ジャンルの作家とのコラボレーションシリーズ「マームと誰かさん」を上演しています。今回は小説家・詩人の川上未映子さん、歌人の穂村弘さんとのコラボレーション作品について見ていきましょう。

「マームとジプシー」は、どんな劇団?

「マームとジプシー」の作品の特徴は、シーンのリフレイン(反復)と、独特の身体表現。シーンや台詞を繰り返すことによって、俳優は感情も繰り返すこととなり、感情は身体を伴ってエスカレートしていきます。リフレインによって、同じ場面でも、異なる視点が提示されることで、観客は、新たな事実を発見することになります。

2012年からは、「マームと誰かさん」という企画で、音楽家の大谷能生さん、演出家の飴屋法水さん、漫画家の今日マチ子さん、歌人の穂村弘さん、ブックデザイナーの名久井直子さん等とコラボレーションをしています。

言葉の洪水が観客を襲う。小説家・川上未映子×マームとジプシー

川上未映子さんは、2007年に処女作『わたくし率 イン 歯ー、または世界』を刊行。翌年、2008年には『乳と卵』で第138回芥川龍之介賞を受賞しました。「マームとジプシー」主催の藤田さんは、20歳頃、川上さんの詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』を読んでからファンに。川上さんもマームとジプシーの『ハロースクール、バイバイ』(2010年)を観に行かれるなど交流があったと言います。

2013年、藤田さんから川上さんに「詩を使いたい」とリーディング公演を依頼し、コラボレーションが実現。藤田さんがマームとジプシーの作品で全く自身のテキストを使わないのは川上さんとのコラボレーション作品が初めて。他人のテキストで上演するなら川上さんでなくてはという藤田さんの強い希望で実現しました。
翌年、川上未映子×マームとジプシー『まえのひ』では、タイトルロール「まえのひ」含む7篇の詩を上演しました。2018年の『MUM&GYPSY 10th anniversary tour vol.2 みえるわ』は、川上さんの詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』『水瓶』に収録されている7篇の詩を使い6つの演劇作品を上演。会場ごとに扱う詩のラインナップを変えたり、劇場だけでなく、全国のライブハウスや酒蔵、古い講堂などで公演を行ったりしました。

川上さんの作品は、地元大阪の方言での表現、独特なリズムの言葉使い、そして女性性について書かれた内容が魅力です。藤田さんは、マームとジプシーを立ち上げた時から、“女性のわからなさに惹かれ追求したくなる”と「女性性」を描きたいと考えていたそう。マームとジプシーのコンセプトと合っていて、藤田さんの演出により、ハンドマイクを使って俳優が演じたりと、観客は洪水のように言葉を浴びる体験をします。

短歌に表れた人生観が舞台上でも。歌人・穂村弘×マームとジプシー

続いてご紹介するのは穂村弘さんとのコラボレーション。穂村さんは、現代短歌を代表する歌人の一人。エッセイや、評論、翻訳と多方面で活躍されています。40歳を過ぎた男性の苦悩と葛藤が、穂村さんの絶妙なワードチョイスで描かれ、人気です。

穂村さんとのコラボレーションでは、短歌というテキストをどのように演劇作品に落とし込むかという話し合いから始まったそう。川上さんの形とはまた違い、穂村さんへのインタビューや、穂村さん書き下ろしのテキスト・短歌を元に、舞台を藤田さんが構成しています。
2014年にマームと誰かさん・よにんめ『穂村弘さん(歌人)とジプシー』で初コラボ。2017年と2019年にマームと誰かさん『ぬいぐるみたちがなんだか変だよと囁いている引越しの夜』を上演しました。2019年の再演では、上演する会場を全国から公募で集めるという形が取られ、京都のギャラリーや、三重文化会館のリハーサル室、長崎県、岩手県等で上演されました。
『ぬいぐるみたちがなんだか変だよと囁いている引越しの夜』では、舞台上で俳優が黒縁メガネにジャージというスタイルで現れます。穂村さんのエッセイを読んだことがある人は、「これは穂村さんだな」と分かるのです。穂村さんの短歌やエッセイのエピソードから構成されたストーリーが展開されていきます。

「作家とコラボレーションする」という状況は同じでも人や作品が違うと、作品へのアプローチの仕方や、作風の違いに驚きます。

コラボレーションの仕方や、上演の新しい形を模索して、まだまだ進化を止めない「マームとジプシー」。今後の作品も楽しみです。今年の7月〜9月に全国ツアー形式で、今日マチ子さんの漫画が原作の『cocoon』を上演することが決まっています。

ミワ

2020年の『窓より外には移動式遊園地』で川上さんの作品の上演を観劇して、言葉の洪水に飲み込まれた強烈な記憶があります。これからもさまざまな形でのコラボレーション、そして上演で、どのような新しいものを観せてもらえるのか、期待が高まります。