フランス人外交官が、国家機密情報漏洩で逮捕された。駐在していた中国・北京で恋に落ち、20年関係を続けた京劇女優は、実は男であり中国のスパイだったのだ…。驚愕の実話をヒントに、劇作家ディビット・ヘンリー・ファンが創作した『M.バタフライ』。日本では32年ぶりの上演となる本作の舞台挨拶リポートをお届けします。※ネタバレにご注意ください 作品と京劇文化についてはこちら

フランス人外交官・ルネの視点から、衝撃の愛の物語を描く

模範的な夫として、そして忠実なフランス人外交官として生きてきたルネ・ガリマール。素朴な彼を変えたのは、魅惑的な“東洋”の女性ソン・リリン。プレスコールではルネがリンに惹かれていく一場面が上演され、岡本圭人さん演じるソンの美しい京劇の舞が披露されました。妖艶なソンの仕草、含みを持たせる言葉の1つ1つに、心捉われていくルネ。

撮影:岡千里

2人で街を歩き言葉を交わしただけなのに、ルネは妻にその事実を話せず、初めて嘘をつくことになります。そして幼馴染マルクとソンについて話す夢を見る。まだ関係は始まっていないけれど、ルネの中で恋は既に始まっているのだと感じさせられます。

本作は最終的に投獄されたルネ自身の視点から、観客に事の顛末を語りかける構成。ルネが初めてソンを見た際、ソンが披露したオペラ『蝶々夫人』の物語と対比させながら、自身の「正しさ」を説いていきます。演出を手掛ける日澤雄介さん(劇団チョコレート)によれば、「ルネの頭の中に、いかに観客を連れて行けるか」が演出のテーマだったそう。ルネを演じる内野聖陽さんの穏やかな語り口に誘われて、段々と物語に、そしてソンとの恋に惹き込まれていきます。

撮影:岡千里

32年ぶりの上演にあたり、1年以上の月日をかけて日本語訳を再解釈

1990年に劇団四季で上演されて以来、32年ぶりの日本上演となる『M.バタフライ』。上演にあたって内野聖陽さんが中心となり、翻訳を見直し。様々な翻訳家の訳を見た上で改めて吉田美枝さんの日本語の美しさに気づき、吉田さんの翻訳を元に上演することが決まったのだとか。しかし翻訳されたのは1989年ということで、現代に合う日本語になるよう1年かけて再調整していったと言います。

撮影:岡千里

「日本語にこだわりを持っている」という内野さんが、日澤さんらと共に1つ1つの台詞を紐解き、丁寧に構築していった本作。岡本圭人さんも言葉のイントネーションを内野さんと確認していったそうで、舞台挨拶中も「とても“挑戦的な”役で…“挑戦的な”(という言葉)のイントネーション合っていますか?」と内野さんに確認する一幕が。カンパニー一同、細やかに作品に向き合ってきたことが伺えました。

所作や京劇を学び、「共演者の皆さん、素晴らしいスタッフの皆さんと共にソンという人物を作り上げていった」と語った岡本圭人さん。緊張を見せつつも、「舞台はお客さんがいて初めて完成するもの。『M.バタフライ』がどのように完成するか楽しみ」と意気込みを語りました。

舞台『M.バタフライ』は新国立劇場 小劇場にて6月24日から7月10日まで、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて7月13日から15日まで上演予定です。チケットの購入は作品公式HPから。

Yurika

岡本圭人さん演じるソンの妖艶な所作には思わず目を奪われてしまいます。劇場から街へと歩いていく様子を、街の喧騒の音で表現するなど、想像力の掻き立てられる演出が光る作品です。