東京ディズニーリゾート内に位置する舞浜アンフィシアターにて、2022年10月23日より劇団四季のディズニーミュージカル『美女と野獣』が開幕しました。
これまでも『アラジン』や『アナと雪の女王』など、ディズニーミュージカルのバラエティを増やし、アニメーションの魔法を現実の舞台へ体現させてきた劇団四季。『美女と野獣』は劇団四季とディズニー・シアトリカル・プロダクションズとの25年にも渡るパートナーシップの原点であり、東京ディズニーリゾートで上演する初の劇団四季作品としてふさわしい作品と言えるでしょう。
新しく生まれ変わった今作を観劇し、時代が変わっても色褪せない『美女と野獣』の世界にうっとりと酔いしれました。(2022年10月末・舞浜アンフィシアター)
東京ディズニーリゾートにふさわしいストーリーと楽曲構成
今回の舞浜公演は、これまで国内で総公演回数5,675回を誇る劇団四季の『美女と野獣』を、大胆に一新。2018年から2020年にかけて上海ディズニーリゾートで上演されていた上海版をベースに、台本と演出の再構築を加えた新たな劇団四季版なのです。
具体的な変更点を挙げると、「二人で」、「メゾン・デ・ルーン」などのミュージカルのオリジナルナンバーが一部カット。その代わり、日本初披露となるベルのソロナンバー「チェンジ・イン・ミー」が追加されました。
第2幕のストーリーはガストンが率いる民衆とお城の召使いの”もの”たちが戦うシーンが省略されて、全体の公演時間は約2時間25分と他の演目より短めです。
筆者は上海公演をディズニーランドと一緒に楽しんだことがありますが、パークで遊んだあとでも集中してみられるテンポの良さが印象的でした。
舞浜公演もエンタメ施設の多い東京ディズニーリゾート内で公演するにあたり、観劇以外の予定を組みやすく、小さなお子様も集中してみられるほどの長さになったのではないかと考えます。
公演時間が短いからと言って、見劣りするわけではありません。映画と共通する印象的なミュージカルシーンはそのままに、ときには東京ディズニーリゾートらしい遊び心のあるオマージュも飛び出します。
舞台版の名物と言っても過言ではない「ガストン」の酒場でのマグダンスでは、隠れミッキーが登場して思わず笑みがこぼれました。
新曲が加わり、ベルの心の変化が明確に
1幕冒頭では、ベルと父親のモリースが歌う「二人で」がなくなり、代わりにモリースがベルの母親のことを話すセリフが追加されました。
町で「変わり者」と呼ばれて悩むベルに、モリースはベルの母親に出会い、「この人しかいない」と感じて今までの自分が変わったと話すのですが、このセリフが印象的で、その後のベルと野獣の恋の進展をまさに言い表していました。
追加曲の「チェンジ・イン・ミー」は、野獣の城で素晴らしい晩餐を楽しんだあと、ベルが家に戻ってモリースに野獣との心のふれあいを歌う曲です。
最初は恐ろしい怪物だと思っていた野獣の純粋さや優しさを知り、これまで馴染めないと思っていた自分の世界が変わったと歌うベル。モリースと同じようにベルも野獣と出会ったことで、人を愛する尊さ、それによって自分が変わっていく喜びを知ったのでした。
この曲が加わったことで、今までの劇団四季版では描ききれなかったベルの心の成長が明確に伝わります。
舞浜公演ではこれまで野獣のソロショットだったメインアートが、ベルとの2ショットに変更になりました。実際に公演を観てから改めてメインアートを見ると、この作品はベルと野獣双方の心の歩み寄りを感じられるラブストーリーなのだと感じさせられます。
恋人たちとともに成長する舞台セットと衣装
舞台セット、衣装もリニューアルされ、特に野獣の城はこれまでの重厚感が薄れて軽やかな印象になりました。これまでの劇団四季版の印象が強い方は舞台セットの変更に、最初は違和感を覚えるかもしれません。
しかしアンティーク風のフレームが幾重にも重なった舞台セットは、奥行きの広さや絵本のような可愛らしさがあり、まるで切なさや喜びを重ねて変化する野獣とベルの心情を表しているようでした。
透け感のある蚊帳も、見かけだけではなく内側の美しさを見つめるという今作のテーマにマッチしています。舞台セットがシンプルになったことにより、物語の見通しが良くなったように感じました。
また、印象的なベルの黄色いドレスはフリルやリボンを控え、シンプルなデザインと鮮やかな黄色、裾の刺繍が映える上品なデザインに変更。それまでの少女らしさが残る衣装からグッと大人っぽいドレスに変わり、ここでもベルの心が大人の女性へと変化してく様子を感じられます。
東京ディズニーリゾートという新たな場所で開幕した劇団四季の新しい『美女と野獣』。これまでの華やかさを引き継ぎながら、新たな演出を加えてベルと野獣双方の心の変化が感じ取れる作品となっています。チケットや作品スケジュールはこちら
この日の主演キャストであったベル役の五所真理子さんと野獣役の清水大星さんは、互いを思いやる優しさがセリフに滲んでいて「この人しかいない」と思わせる演技が見事でした。互いを愛することで変わる喜びを知ったベルと野獣のように、この舞浜公演で劇団四季の『美女と野獣』がさらに喜びで溢れた作品へと変わっていくことを密かに期待しています。