まもなく開幕するFIFAワールドカップ。サッカー強豪国のイギリスは、FIFA(国際サッカー連盟)の設立前からの名残りで、「イングランド」「スコットランド」「ウェールズ」「北アイルランド」に分かれて出場することで有名ですね。今回は「イングランド」と「ウェールズ」が同じグループBで戦います。

古くからサッカーが盛んなイギリスですが、北アイルランドでは長くプロテスタントとカトリックの紛争が続き、抗争によって命を落とした若者もいました。そんな時代の波にのまれていったサッカー青年の実話をもとに作られたミュージカル『ザ・ビューティフル・ゲーム』が2023年1月に上演されます。

実話にもとづくミュージカル サッカーに青春を捧げ、紛争で変わっていく青年の歩みを描く

ミュージカル『ザ・ビューティフル・ゲーム』は2000 年にロンドンで上演され、好評を得た作品です。ミュージカルの巨匠アンドリュー・ロイド=ウェバーと⼈気作家ベン・エルトンの新作として脚光を浴び、約1年のロングランを達成しました。北アイルランド紛争でハンガーストライキによって収監中に自殺したIRA(アイルランド共和軍)戦士のドキュメンタリー番組をきっかけに制作。北アイルランドの首都、ベルファストを舞台に、プロサッカー選手を目指して仲間と青春をかけた若き青年が、抗えない運命に翻弄されていく、実話をもとにした物語です。

タイトルのビューティフル・ゲームとは、サッカーの試合のことを指す言葉。全力で戦い、ぶつかり合って勝敗を決めるけれど、フェアプレーの精神も忘れない。そんな試合に熱中し、サッカーが生活の一部となっていた人々ですが、その日常にはサッカーと同じくらい紛争が色濃く刷り込まれていました。紛争とは別物でいて表裏一体なスポーツに青春を燃やした若者が、社会の流れのなかでいかに戦い、変わっていくのか。ロイド=ウェバーの情緒的な楽曲はもちろん、サッカーの試合を表現するナンバーもあり、鮮烈でドラマチックなミュージカルです。

日本ではこれまでに2回上演実績があり、サッカー経験者が主演を務めてきました。2006 年は櫻井翔さん、2014 年は馬場徹さんが主人公ジョンを演じました。今回、2023年の公演で主演を務めるのは、ジャニーズ WESTの小瀧望さん。青春のすべてをサッカーに捧げ、試合で、人生の逆境で、戦う男を演じます。

宗派争いが街を二分していた、イギリス領北アイルランドの首都ベルファスト

物語の舞台は、イギリス領北アイルランドの首都ベルファスト。北アイルランドの独⽴を目指すIRA(カトリック)の活動が活発になり、街を分断していたころのこと。対立が深まってもなお、サッカーはこの街の人々の生きがいとして賑わっていました。

プロ選手になることを夢見ているジョン(小瀧さん)はサッカーチームのエース。仲間とともに、国内リーグ優勝を目指して、恋愛模様もある充実した毎日を送る青年たちを、チーム監督を務めるオドネル神父があたたかく導きます。

しかし、カトリックとプロテスタントの争いは次第に激しさを増し、チームにも不穏な空気が漂い始めます。過激派による暴力がチームを脅かしたことをきっかけに、ジョンたちも憎しみの渦中へと引き込まれていくのです。

巨匠アンドリュー・ロイド=ウェバーの躍動感溢れる楽曲

作品を支える楽曲は、『オペラ座の怪人』『キャッツ』など、ロンドン発のミュージカルで一時のブロードウェイを席巻した作曲家、アンドリュー・ロイド=ウェバーによるもの。その名前だけでもブランドになる彼の楽曲ですが、キャラクターや場面に合わせて多様な楽曲ジャンルを取り込み、ストーリーの厚みを増強させるところが巨匠と呼ばれる所以です。

『ザ・ビューティフル・ゲーム』では、オーバーチュアをはじめ、楽曲の端々にアイルランド音楽のエッセンスを聞き取ることができます。ティン・ホイッスルやバグパイプを思わせるような楽器音のフレーズが印象的に差し込まれていて、舞台となるベルファストの情景が浮かぶよう。サッカーの試合の場面のナンバーでは、ロック調にギターで始まり、重なるコーラスが観客の歓声のように聞こえてきます。

観客の熱狂や、甘酸っぱい恋心、平和への願いなど、さまざまな感情を表す、ロイド=ウェバー楽曲にも、ぜひ注目していただきたいです。

また、この作品の楽曲にはミュージカルの巨匠ならではのエピソードもあります。それは今では幻の1曲となった「Our Kind of Love」という曲。初演版サウンドトラックに収録され、愛に国境はないと歌い上げたこの曲は、その後の海外公演では、カットされています。そして、ロイド・ウェバーが手掛けた『ラブ・ネバー・ダイ』(2010年初演)でタイトル曲として使用され、美しいメロディで作品の核となったのです。今回の日本公演でもおそらく使用されないとは思いますが、そんな豆知識を入れて観劇しても楽しいですね。

歌・芝居・踊り+サッカーの4拍子揃う 小瀧望がミュージカルに初挑戦

主人公ジョン役に抜擢された小瀧望さんは、テレビ番組や日本のミュージックシーンでの活躍がめざましいジャニーズWESTのメンバー。歌唱力とバラエティ番組への姿勢に定評のあるグループの末っ子で、その演技には定評があります。2021年には舞台『エレファント・マン』での演技が評価され、第28回読売演劇大賞の杉村春子賞および優秀男優賞を受賞。甘いマスクの実力派俳優として、ドラマや舞台で活躍の幅を広げています。

小学校6年生までサッカー一筋だったという小瀧さん。今回が初ミュージカルとのことですが、音楽活動で鍛えた歌、定評のある演技、ジャニーズで培ったダンス、そしてサッカー経験をアドバンテージにして、頼もしい主演を務めてくれそうです。

ミュージカル『ザ・ビューティフル・ゲーム』は2023年1月7日(土)から26日(木)まで東京・ 日生劇場にて上演されます。大阪公演は2月4日(土)から13日(月)まで梅田芸術劇場メインホールにて。

チケットの先行エントリーは東宝ナビザーブにて本日2022年11月8日から開始。

一般発売は11月26日(土)10:00から、東宝ナビザーブほか各プレイガイドにて。詳しくは公式ホームページをご確認ください。

Sasha

宗派をめぐる争い、というテーマに、今は突き刺さるものが大きい時期ですが、夢多き若者の熱い青春の姿に活力をもらえる作品だと思います。 その他キャストの情報も発表され、ヒロインは木下晴香さん、個性豊かで熱いジョンのチームメイトは、東啓介さんや新里宏太さんらが演じます。勢いのある若手俳優陣が送る熱い舞台にますます期待が高まります!