劇団四季のディズニーミュージカル『美女と野獣』が、東京ディズニーリゾート内の劇場・舞浜アンフィシアターにて上演されています。今回の舞浜公演では、衣装や演出など従来の劇団四季版『美女と野獣』を大胆に一新。そのなかでも注目したいのが、舞浜公演で初めて追加されたベルのソロナンバー「チェンジ・ イン・ミー」です。

日本公演で披露されるのはこれが初めてですが、実はブロードウェイでは90年代から愛されている人気曲。日本語版の歌詞が付き、劇団四季版においてもベルの心情が深く感じ取れる印象的な1曲となりました。『美女と野獣』の追加曲「チェンジ・イン・ミー」を考察し、ベルの心の成長を読み解いていきます。

ブロードウェイ公演5年目に追加された人気曲

「チェンジ・イン・ミー」が作中ナンバーとして追加されたのは、ブロードウェイ初公演から5年目に突入した1998年のこと。当時の公演のベル役候補に挙がったのは、ポップシンガーのトニ・ブラクストンでした。

オファーを受けるか迷っていた彼女のために出演の交渉条件として作曲家アラン・メンケンと作詞家ティム・ライスが描き下ろした新曲が、「チェンジ・イン・ミー」だったのです。結果、トニが歌った「チェンジ・イン・ミー」は大ヒット。彼女が降板したあとも歌い継がれ、ミュージカル『美女と野獣』において人気の高い楽曲の一つとなっています。

ベルが夢見る少女から大人の女性へと変わる一曲

2幕の中盤、野獣の城から解放されたベルは、森を彷徨っている父モリースを助けて我が家に帰ります。最初に野獣の城で囚われていたモリースは、自分の身代わりになったベルが野獣に好意を寄せるようになったとは知る由もありません。

「一体どうやってあの恐ろしい野獣から逃げたんだ?」と問うモリースに、ベルは逃げたのではなく、彼が自分を開放してくれたのだと説明します。野獣の優しさに触れたこと、それによって見える世界が変わったと表現するナンバーが、この「チェンジ・イン・ミー」です。

和訳を担当したのは、劇団四季のディズニーミュージカルの翻訳ではお馴染みの高橋知伽江さん。歌詞の中で、ベルは野獣と出会ったことで今まで自分の居た世界が違って見える、今の私が好きだから子供の頃の夢を手放してもいいと歌います。

ここで思い出して比べてほしい曲が、1幕序盤でベルが歌うソロナンバー「ベル(リプライズ)」。このとき、ベルは町の外に自分の居場所を求め、広い世界へ羽ばたくことを夢見ていたのですが、「チェンジ・イン・ミー」ではその少女の頃の夢よりも素晴らしい世界を知ることができたと言うのです。

ディズニープリンセスが歌うソロナンバーは未来への夢が歌われることが多く、それらは”ウィッシュソング”と呼ばれています。そのウィッシュソングで歌った夢を手放しても良いと歌うのは、なかなか珍しいこと。ベルの人生にとってそれほど野獣の存在が大きく、夢見る少女から大人の女性へと変わろうとしている成長を感じさせますね。

父親のモーリスの前だからこそさらけ出せた本音

「チェンジ・イン・ミー」を父モリースの前で歌うというのも、このシーンの重要なポイントです。なぜならモリースは、野獣と出会う前のベルにとってたった1人の味方であり、家族として愛し愛される存在であったため。父以外に初めて好意を抱いた男性が野獣であり、ベルはこの曲をモリースに歌うことで野獣への恋心を自覚していきます。

変わり者と言われたことをかつて父に相談していたベルが、そんな自分を恥ずかしがらずに「今のあたしが好き」と歌うのですから、モリースにとっても娘に何か良い変化が起きているのだと予期せずには入られませんよね。愛娘の歌に耳を傾けて穏やかな表情を浮かべるモリースには、あふれんばかりの愛情を感じます。

モリースの前だからこそ、ベルは自分の気持ちに素直になることができ、「 チェンジ・イン・ ミー」を歌えたのではないでしょうか。

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さきこ

ブロードウェイ版の人気曲である「チェンジ・イン・ミー」が追加され、新たな魅力が生まれた劇団四季版の『美女と野獣』。 恋を知ったことで世界が違って見えるというベルの心情は、恋をしたことがある人なら誰しも感じたことがある幸せな気持ちだと思います。 観劇中は、嬉しそうに歌うベルの表情と、それを穏やかに見守る父モリースの姿にどうぞ注目して観て下さい。