ファン待望の演劇集団キャラメルボックス 2022クリスマスツアー『クロノス』。SF作家 梶尾真治さんの連作短編集『クロノス・ジョウンターの伝説』を舞台化し、キャラメルボックスを代表する人気作品となっています。今回で3度目7年ぶりの上演。12月17日の初日を前に、通し稽古が行われました。
“ただの同級生”を、何度でも助けに行く理由とは
これから先を予期させるようなダンスから始まり、物語の幕が開きます。舞台は、2022年12月の横浜。吹原和彦(すいはらかずひこ)は時間軸を圧縮して物質を過去に飛ばす機械、クロノス・ジョウンターの開発に携わることに。そんな時、中学生の頃に想いを寄せていた蕗来美子(ふきくみこ)と再会します。
しかし、来美子はタンクローリーが横転した事故に遭い、亡くなってしまいました。彼女を助けたい。その一心で、吹原はクロノスに乗り込みます。
ただクロノスは開発途中。過去にいられるのは一定時間で、奮闘虚しく来美子を救うことができないまま、引き戻されることに。しかもエネルギーの反発の影響で、吹原が戻れたのは7ヶ月後でした。
身体にも多くの負担がかかったにも関わらず、吹原は再びクロノスに向かいます。例え戻る時間が伸びても、身体がボロボロになっても、来美子を救うことを諦めない吹原。
彼は、彼女の家族でもなければ、恋人でもありません。それどころか、内気な彼は来美子と言葉を交わした数すら少ないのです。救ったからと言って、来美子が自分を好いてくれるとも限りません。
見返りを求めず、ただ好きな人を救うことに命をかける吹原。一見“普通”の冴えない男・吹原の中にある、頑固とすら言える想いの強さと行動力に胸が打たれます。
時を超えても、キャラメルは甘酸っぱい
純粋で真っ直ぐな男・吹原を演じるのは、畑中智行さん。不器用ながらも必死に、“過去を変える”という壮大なミッションに立ち向かいます。その熱い姿は、“過去は変えられない” “恋人でもない相手に命懸けになるなんて”と思ってしまった自分の非情さが恥ずかしくなるほど。
吹原が命懸けで恋する相手・来美子を演じるのは、原田樹里さん。凛とした美しさと、柔らかさの中に芯の強さを感じさせる姿に、吹原が恋をしたのも頷けます。
吹原を見守る妹のさちえや、同僚の藤川、津久井らはコミカルで愛らしいキャラクターばかり。この和やかな空間と、“想い”を貫く真っ直ぐすぎる主人公。これぞ、キャラメルボックスの真髄と言える作品ではないでしょうか。時を超える物語が、時を超えて再演される今も、甘酸っぱい味のするキャラメルボックスは健在でした。
演劇集団キャラメルボックス 2022クリスマスツアー『クロノス』は12月17日から神戸にて開演。東京公演は12月21日から上演予定です。24日、25日のクリスマスのチケットは既に完売となっていますので、チケットの購入はお早めに。詳細は公式HPをご確認ください。
色々なことがあった2022年。今年の漢字は「戦」。暗いニュースも多いですが、いつの時代でも、人を“想う”気持ちに寄り添うキャラメルボックスに、心洗われました。