舞台を観ていて、耳と心に残るセリフってありますよね。今回は、2012年に観た劇団四季版ミュージカル『アイーダ』より、今でも忘れられないセリフをご紹介します。

錯綜する様々な愛と運命

ディズニーミュージカルである本作は、ヴェルディが作曲したオペラ『アイーダ』を元に、2000年にブロードウェイで初演されました。オペラ版とはストーリーが異なるので、まずは本作品のあらすじを紹介します。

時は古代、強国エジプトは目覚ましい勢いで領土を広げていました。指揮する若きエジプト将軍ラダメスは、ヌビア(現在でいうエチオピア)から捕虜を連れて来ますが、その中に身分を隠したヌビア王女アイーダが紛れていました。

故郷を奪われたアイーダは、ラダメスの婚約者であるエジプト王女アムネリスの侍女として差し出されます。人知れず王女としての悩みを持つアムネリスは、奴隷であるはずのアイーダと次第に心を通わせるようになります。

一方で、冒険を愛し、結婚という約束された将来に疑問を抱くラダメスは、捕らわれの身になっても希望を失わないアイーダに惹かれるように。アイーダも、ラダメスへの許されない恋心を募らせますが、ヌビア王女としての祖国への想いや、主従関係を越えたアムネリスとの絆に葛藤します。それぞれの国を背負い、運命に翻弄される3人の結末は…。

「自分の運命が気に入らないのなら、変えればいい。」

この台詞は、1幕中盤、エジプト王家の晩餐会でたまたま居合わせたラダメスとアイーダの会話で登場します。アムネリスとの婚礼が正式に決まり、二度と冒険に出られず束縛されてしまう己を嘲笑うラダメス。そんな彼に対してアイーダが投げかけたのが、この言葉です。

故郷を追われ今や奴隷となったアイーダからすれば、ラダメスはむしろ自由の身。手枷をつけられているわけでもないのに、まるで奴隷のように弱音を吐くラダメスを、アイーダは挑発するのです。

目指していた道が閉ざされ光が見えなくなってしまう瞬間、誰でも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。そんなとき、私はこの台詞を思い出すのです。

たとえ自分の力ではどうにもできないような状況に置かれても、「自分の人生は自分で切り開いていく」という強い心だけは忘れてはいけない。アイーダの言葉にはそんなメッセージが込められているように感じます。

作詞にティム・ライス、作曲にエルトン・ジョンを迎えた本作品は、2000年のトニー賞では4部門、翌年のグラミー賞では最優秀ミュージカルアルバム賞を受賞したヒット作。日本では、劇団四季で2002年に初演されて以降、多くの観客を魅了してきました。現在は上演予定がありませんが、また再演される機会があれば、是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

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私がこの作品を観た当初は、アイーダとラダメスの恋の部分が強く印象に残りました。しかしその奥には、「人は迷いながら人生を生き、いつか辿り着く」など、恋愛に限らない壮大なテーマが通じていて、咀嚼すればするほど深い作品だなと思う今日この頃です。