エメラルド色の舞台で世界を魅了し続けるミュージカル『WICKED』。2003年のブロードウェイ開幕後、2020年現在まで世界9ヵ国でロングラン公演を展開した世界的な人気作です。日本では劇団四季の公演でご存知の方も多いのでは。大ファンの筆者がその魅力と制作秘話をご紹介します!

01 『オズの魔法使い』悪い魔女は本当に悪い魔女なのか?

『WICKED』は知らなくとも、『オズの魔法使い』は多くの人が知っているのではないでしょうか。『WICKED』は『オズの魔法使い』で登場する「西の悪い魔女」が主人公。ドロシーが倒したあの魔女です。『マレフィセント』や『ジョーカー』など、悪役を主人公にし物語を別の角度から捉える作品は近年でも多いですよね。『WICKED』はそのミュージカル版と言えます。

『オズの魔法使い』でドロシーが倒した西の悪い魔女。彼女の名前はエルファバ。緑色の肌と妹思いの優しい心を持つ少女でしたが、その魔法の力を利用しようと企んだ権力者に反発したことでオズの国から追われる身へ。大切な人を失うたびに自分を呪い、「悪い魔女」の心へと変貌していきます。

一方、ドロシーを支えた善い魔女グリンダは人気者になるためには手段を選ばない野心家として描かれます。対照的な2人の魔女は衝突しながらも深い友情で結ばれます。善い魔女と悪い魔女の絆こそ、ドロシーが知る由もないオズに隠された秘密なのでした。

02 邪悪な感情は「悪者」だけのもの?

原作は小説『オズの魔女記』(1995)。作者グレゴリー・マグワイアによれば、小説のアイデアが誕生したのは1990年のこと。湾岸戦争を前に国際社会の緊張感が高まっていた時期です。リベラル思想のグレゴリーは、連日の報道によって敵国への憎しみを募らせている自分に気が付きます。

メディアの煽動が憎しみを生んだのか、それとも眠っていた自分の邪悪さなのか…次第に自分の心の「悪」を受け入れ、物語の悪役に親近感が湧くようになったそう。この経験から『オズの魔法使い』の悪い魔女にエルファバという名前を与え、彼女の物語を執筆しました。(※1)

Sasha

嫉妬や憎悪は誰の心にも潜んでいるもの。エルファバを悪者に追いやったのは、そんな人々の心の闇だったのではないか。タイトルの『Wicked』(邪悪なという意味)にはそんなメッセージが込められています。ファンタジーな世界観で人間の弱さや愚かさを力強く訴える本作は、時代を越えて愛されることでしょう。 (※1: Cote, David (2005) Wicked: The Grimmerie, a Behind-the-Scenes Look at the Hit Broadway Musical, New York: Hachette Books. )