新進気鋭の女性映画監督・甲斐さやかさんによるオリジナル脚本で「信仰心」「神の存在」を問いかける、舞台『聖なる怪物』。3月10日(金)~3月19日(日)新国立劇場 小劇場で上演される本作の魅力について、W主演を務める板尾創路さん、松田凌さんにお話を伺いました。
「この世界観の中でお芝居をしてみたら面白そうだなと、興味が湧きました」
映画『赤い雪 Red Snow』で一躍世界から注目を集めた新進気鋭の女性映画監督・甲斐さやかさんオリジナル脚本・初舞台演出となる舞台『聖なる怪物』。心理サスペンス劇とも言える本作で板尾創路さんは教誨(きょうかい)のため刑務所を訪れる山川神父、松田凌さんは自らのことを“神”と呼ぶ死刑囚・町月を演じます。
−初めて脚本を読んだ時の印象を教えてください。
松田「初めから全てを理解したわけではなかったけれど、とにかく引き込まれるものがありました。ぜひ選んでいただきたいと、自ら制作の皆さんに熱い想いを伝えたくらい。吸い込まれるように惹かれる何かがありましたね。甲斐さんは映画監督であり、舞台初演出ということで、お客様も今までの舞台とは違った印象を持たれるのではないかと思います。僕が具体的に何か言うというよりも、来ていただければその答えを感じていただけるのではないでしょうか」
板尾「正直、最初本を読んだ時は、ずっと出てるやん、楽屋に戻ったりタバコ吸ったりする時間もないなと思ったんですけれど(笑)。二度三度読むうちに、ト書きに書かれているセットの様子や小道具の使い方などが物語の中にマッチしていて、こういう作品になるんだなと想像できた本でした。そこに自分がいることをイメージしてみたら、この世界観の中でお芝居をしてみたら面白そうだなと、興味が湧いてきたんです。物語やセリフではなく、作品の空気感に魅力を感じるということは、あまりない経験でした」
−甲斐さんのオリジナル脚本・舞台初演出ということも本作の見どころの1つですが、甲斐さんの演出を受けられてみていかがですか?
松田「今作を本当にこの人が書いたのかな?と疑問に思うくらい柔和で優しい方です」
板尾「確かに。演出家さんぽくないしね」
松田「共に作り上げている感覚は強いですよね。台詞1つ1つに対してディスカッションをしてくださいますし、繊細に作られている印象があります」
板尾「映画を撮る時って、細かい段取りを先に決めるよりも俳優さんの気持ちを見せてもらう方が演出しやすいと思うんです。今作も同じように、感情を優先してくれている気がしています。だからいつもやっている演劇の稽古というよりも、スタッフも合わせてみんなで作っている感じがしますね。ずっと映像のリハーサルをしているような感覚というか。甲斐さんもすごく意見を聞いてくださいます。
初舞台演出なのでわからないこともたくさんあると思うので、僕の経験値の中でご提案できるとこはするようにしています。良い脚本なので、惜しむことなく良い作品にしたいなと思います」
−初共演のお二人ですが、お互いの印象は?
板尾「同じ関西出身なので、関西人同士で楽しいですね。休憩中に喫煙所で交流深めています(笑)。普段は好青年な印象で、静かでソフトで礼儀正しくて真面目なイメージなのですが、いざ稽古になるとグッと芝居に熱が入って、ギャップがあります。引き出しも多いので稽古をしていて楽しいですよ」
松田「僕はもちろん以前から板尾さんの活躍を拝見していたので、念願の共演でした。ビジュアル撮影で初めてお会いした時、自分が真似したくてもできない、唯一無二の空気を纏っている方だなと感じました。稽古では自分のような若輩者にも色々と試させてくださって、それを受け止めてくれるので、ご一緒していて楽しいです」
−共演者には、舞台初出演となる朝加真由美さんと莉子さんもいらっしゃいますね。
板尾「普通の舞台はこんなんちゃうからね、初めてがこれで大丈夫かな?(笑)朝加さんは映像の経験が豊富なので、自分の役を短い時間で掴むのが早いですね。さすがだなと思います。舞台は何回もやるので、朝加さんに飽きられないように僕も変化をつけないと(笑)。
莉子ちゃんはまだ若い中で初舞台なので、彼女というよりも僕たちと、演出家の責任ですよね。どう覚醒させるか。甲斐さん、責任重大です(笑)」
松田「お二人の演技を見ていると、それぞれの役作りの違いや面白さを感じます。舞台じゃないと役が作られていく過程って見ることができないので、そこは舞台ならではの楽しみです」
“一人哲学者”で純粋な死刑囚・町月
−それぞれの役についても伺っていきたいと思います。まず死刑囚・町月はどのような人物でしょうか?
松田「町月については死刑囚というワードが第一に入ってくると思うのですが、いわゆる“死刑囚”で連想するイメージの人物とは異なる気がします。稽古前は色々と死刑囚と呼ばれる方の資料や映画をたくさん勉強してみていたのですが、今は町月の哲学を作り上げることを考えています。
死刑囚という特殊な環境で、生きること・死ぬこと、正義・悪などにとらわれず、考えが突き抜けてしまった人物。甲斐さんとは、町月は“一人哲学者”ですよねとお話ししたんです。それが神なのか、ペテン師なのか、怪物なのか…という言葉になるのかなと思います」
−山川神父から見た町月はどのような人物ですか?
板尾「物語では一見、山川が正しくて町月が訳の分からない人物に見えると思うのですが、きっと町月の方が、ある意味正直で純粋なのかなと感じています。真面目な山川こそ、結局何を考えているか分からないし、装っている。そんな気がします」
1つの正義しか持っていない神父が、多様な悩みに対応できるのか?
−続いて、山川神父についても教えてください。
板尾「山川は神を真面目に信じていますが、1つのことを信じすぎると環境や偶然によってはとんでもないことになっていくのかなと感じます。神父さんって色々な人の罪や悩みを聞く立場の人ですけど。自分は1つのことしか信じていなくて1つの正義しかないので、多様な悩みに対応できるのかなと稽古をやりながら疑問に思ってきました」
松田「町月にとって山川神父は、唯一何かを伝えたかった、何かを見出そうとしたのかなと思っています。死に向かっていく中で、唯一何かを求めた相手。初めて対峙した時から、それは如実に感じていますね。板尾さんの目のお芝居が凄くて、山川がどんな人間なのか分からなくなるくらい、変化していくのが印象的です」
約400席の新国立劇場 小劇場の空間で、緊迫感がヒリヒリと伝わってきそうな舞台『聖なる怪物』の魅力をたっぷり語っていただきました。本作は3月10日(金)〜3月19日(日)まで新国立劇場 小劇場にて上演予定。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。
舞台美術や音響・照明の世界観が合わさって初めて完成するという本作。映画のようでナマモノである、新たな演劇体験となりそうです。