世田谷パブリックシアターで12月5日から上演されている、三谷幸喜さん演出のシス・カンパニー公演『23階の笑い』。瀬戸康史さん、松岡茉優さん、吉原光夫さん、浅野和之さんといった豪華キャストが集結、1950年代のテレビ業界を舞台にしたコメディーです。三谷さんが影響を受けた作家でもあるニール・サイモンの作品を、三谷さんはどう演出するのか。そしてキャスト陣はアメリカのテレビ業界という特殊な世界をどう演じるのか。期待に胸を膨らませながら劇場へと向かいました。
セットは“23階”のみ!強烈キャラで観客を魅了
本作は、人気コメディアンのマックス・プリンスと、彼の番組『ザ・マックス・プリンス・ショー』の放送作家たちの日々を描いたもの。セットはなんと、ニューヨークの23階にある彼らのオフィスのみ。シンプルな1つのセットで、強烈なキャラたちが巧みな会話術だけで魅せていくのはまさに演劇の醍醐味。それだけに俳優たちの力量が問われる作品です。
人気番組のコントを作り上げる放送作家たちは、言葉巧みで個性的な人たちばかり。なんだかチャラそうなおじさんがいるな…と思っていたら、『レ・ミゼラブル』の主役ジャン・バルジャンを男らしく演じてきた吉原光夫さんだった!と気づいた時は衝撃でした(笑)。梶原善さん演じる、日々何かの病気にかかったと思い込んでいるアイラも強烈です。そんな個性的なキャラたちと観客を繋いでくれるのが、瀬戸康史さん演じるルーカス。唯一爽やかな青年ルーカスが時に観客に向かって事情を話してくれることで、観客も天才(奇才!?)たちの会話に入り込んでいけるのです。
今だからこそ、二度と戻れない日常を想う
マックス・プリンスを筆頭にした番組チームはテレビ局上層部とやりあいながら、日々最高のコメディを作るために奮闘します。時にたわいもない喧嘩や脱線を繰り返しながら。彼らを見ていて思い出すのは、“二度と戻れない日常”。例えば、体育館の隅で尽きないお喋りを続けた高校時代や、仲間と励ましあいながら卒論に苦戦した大学時代。なんてことのない日常だけれど、それはもう二度と戻ってこない。そんなことを思い返していました。
同じ作品であっても、演じられる時期や、観客の心境によって作品から受け取るものは大きく変わります。コロナ禍で“日常”が大きく変わった今だからこそ。私は、コメディアンたちの日常に笑いながらも切ない気持ちになったのかもしれません。今だから、感じ取れるものがある。多くの人に観て頂きたい作品です。
劇場では感染症対策として席ごとに仕切りが設けられ、没入感も増したように感じられました。公演は12月27日まで。当日券も販売されています。詳細は公式HPをご確認ください。