コンテンポラリーダンスの聖地・イスラエルから、人気振付家の作品がこの5月に来日し、公演を行います。俳優・森山未來さんとも繋がりの深い振付家、インバル・ピントさんの最新作『リビングルーム』のご紹介です。

Who is ?  インバル・ピント

インバル・ピントさんはイスラエルを拠点に世界中で活躍する振付・演出・美術家。バットシェバ・アンサンブル、バットシェバ舞踊団で研鑽を積み、1992年にアヴシャロム・ポラックさんとカンパニーを結成して活躍の場を広げました。

その評価は高く、秀でた舞台芸術作品づくりに貢献したニューヨーク市のアーティストに送られるニューヨーク・ダンス&パフォーマンス賞(通称 :ベッシー賞)や、イスラエル文化省大賞、テルアビブ市芸術功労賞などを多数受賞。現在はフリーとなり、振付からオペラの演出まで、幅広く舞台創作を手掛けています。

日本での上演も多く、宮沢賢治や芥川龍之介など文学を題材にしたダンス、ミュージカルなど、多数のコラボレーション作品を手掛けてきました。筆者個人としては、森山未來さんが出演した『100万回生きたねこ』(2013年)での演出・振付は特に好評を得ていた印象があります。

映像や舞台美術、衣裳デザインをも手がけ、ユニークでチャーミングな世界観を演出する彼女の作品は、来日するごとに日本の観客を魅了しています。

パンデミックの中で生まれた最新作『リビングルーム』

今回、インバル・ピントさんの振付作品が上演されるのは、世田谷パブリックシアター。この劇場では、これまでにもアヴシャロム・ポラックさんとのカンパニー時代に『オイスター/Oyster』と『ブービーズ/Boobies』(2005年)、『ボンビックス  モリ  with  ラッシュ』と『ゴールド・フィッシュ』(2012年)といった作品を上演していました。

およそ10年ぶりに、世田谷パブリックシアターでの上演となる今回。上演作品に選ばれたのは、パンデミック中に創作された最新作『リビングルーム』です。

© Edouard Serra

『リビングルーム』はインバル・ピントさんが振付・衣裳・舞台美術を担当。 出演は、彼女と長年にわたり創作活動を共にしているダンサーのモラン・ミュラーさんと、彼女の処女作に出演し、ヨーロッパを拠点に活躍してきたダンサー・振付家のイタマール・セルッシさんです。ベテランふたりが魅せる濃密なデュオ作品を彩るオリジナル楽曲は、チェリスト・シンガーとして活動するマヤ・ベルシツマンさんが提供しています。

公演に寄せて、インバル・ピントさんは「さまざまな状況や人々のアイデンティティが流動的な今、どんなに思い描こうとしても現実は予測不可能で、未来はいつでも勝手に書き換わっていきます。私の初めての長編デュオ作品『リビングルーム』は、2人の驚異的なダンサー、モラン・ミュラーとイタマール・セルッシが新しい現実を探し出していく物語です」とコメント。この作品が今この時代を投影したまさにコンテンポラリーな作品であることを強調しました。

© Daniel Tchetchik

舞台上には、インバル・ピントさん自身がデザインした壁紙に囲まれたリビングルームが現れます。どこかノスタルジックで、でも何かが歪んだ世界。ダンサーの動きは人間の日常動作を切り貼りして編集したかのような違和感があり、日頃は奥底にしまい込んでいる心のざわめきを表しているようにも見えます。

「どんなに想い描いても、未来はせっせと書き換わり、世界は勝手に動きだすー」あらすじに書かれた壮大な広がりを、軽やかで繊細なダンスで追求する、インバル・ピントさんならではの世界観です。


インバル・ピント『リビングルーム』 は東京・世田谷パブリックシアター にて、2023年5 月19日(金)から21日(日)まで上演。その後、京都・京都芸術劇場春秋座にて5月26日(金)、5月27日(土)に上演されます。執筆時現在、残席はごくわずかとなっています。公演の詳細は公式ホームページをご確認ください。

Sasha

コンテンポラリーダンスは、人体の動きの可能性に驚きを感じたり、動きに込められた振付家の意図を解読しながら対話しているような体験ができるところが魅力だと感じている筆者。インバル・ピントさんの振付作品は、動きの緩急や濃淡のグラデーションが実に鮮やかで、見ていて想像力が膨らむのでとても大好きな振付家です。