6月21日に座・高円寺1にて開幕するチーズtheater 第7回本公演『ある風景』に出演する小出恵介さん。ニューヨークでの留学後、ドラマ・映画・舞台と幅広く活動する小出さんに、作品の魅力とニューヨークでのご経験について、たっぷりと伺いました。

限りなくノンフィクショナルに演劇を作る、チーズtheaterの魅力

撮影:山本春花

−本作を受けられた経緯を教えてください。
「昨年出演した舞台『12人の淋しい親たち』(シアターウエスト)を戸田彬弘さんが観ていただいたことをきっかけに、オファーをいただきました。そこから戸田さんの映画『散歩時間~その日を待ちながら~』や昨年のチーズtheater公演『海と日傘』を拝見して。『海と日傘』は松田正隆さんの岸田國士戯曲賞受賞作品で、戯曲が素晴らしいのはもちろんなのですが、戸田さんの演出が凄く素敵でした。ワンシチュエーションの会話劇で、極力シンプルに削ぎ落とされたおしゃれさと、その中にテーマが流れている空気感が良いなと思ったんです」

−『ある風景』の台本を受け取った時はどのように感じられましたか?
「新作ということで、顔合わせの時に前半部分の台本をいただいたのですが、今までに見たことがないくらい、セリフが短行でした。ほぼ1行ずつをみんなで紡いでいく。「え」「あ」「うん」「そうだね」くらい簡素なセリフが綴られていて、淡々と進んでいくので、物語を上手く伝えていけるのか不安になりました。これは技量が試されるなと。日常的な会話の裏にあるものや感情を演技でいかに伝えていくか、その作業を今稽古でしているところです」

撮影:山本春花

−戸田さんの作品・演出の特徴は?
「戸田さんは間を凄く大事にされているなと感じます。間というのを効果的に使うのは難しくて、長すぎるのも短すぎるのも意図が伝わらなくなるので、感覚が問われますね。間で伝えていくという感じがします」

−物語は孤独死がテーマとなっているそうですね。
「コロナ禍や孤独死、家族がテーマとなっています。コロナ禍の影響で実家に帰省しなくなった空白の3年半の間に母親が亡くなってしまう。突然、家族はいなくなることがあるんだということや、家族とは何かを考えさせられます。人は生きているうちに、自分たちがどんな家族なのか、自分がどういう長男なのかを考えたりすることってないですよね。ある日突然それが問われるというのは、コロナ禍関係なく、普遍的なことだと思います。

特に僕が演じる肇はその矢面に立たされる役柄です。凄く仲良くしていたわけではないけれど、自分の人生もあって、自分はどうしたら良かったのか。しかも母親が亡くなってしまったことで、答えを聞けないんです。その状況って凄く不安になるんですよね。取り残された者たちの命題というところも作品の大きなテーマかなと思いますね」

−自分たちはどんな家族か。日常ではなかなか考える機会がないまま過ごしてしまいがちですね。
「大人になるとそれぞれの人生を精一杯生きているので、普段から心がけることはなかなか難しいですよね。でも突然に離別は訪れるというのは普遍的なことで、喪失の体験でもあるんだなと演じていて感じます」

撮影:山本春花

−演出・展開としては淡々としているという感じでしょうか?
「大がかりな演出や展開といったものではないですね。淡々と1日の会話を聞かせる作風なので、そこがまた難しいところです。役者としては分かりやすく感情を発露した方がもしかしたら楽なのかもしれないんですけど、そういった風には展開しないので。あくまでリアルな日常会話だけで紡いでいくんです。観ている方は演劇というよりも映画を見ている感覚になるかもしれません。“劇を演じる”感じはしないといいますか」

−今回初めてチーズtheaterに参加してみて、どんなカンパニーだと感じられましたか?
「フィクションですけれども、限りなくノンフィクショナルに作ろうとしていると感じますね。今回食べるシーンが多くて、とにかく会話しながら飲んだり食べたりしているんです。食べながらだと役者は大きな声で喋ることができないですし、食べるという生理現象の呼吸に合わせた会話になるので、限りなくノンフィクショナルになっていって、段々演じているのかどうか分からなくなる感覚があります。それがチーズtheaterの魅力になるんだろうなと思っています。

いわゆる一口だけ食べるといったことではなく、とにかく食べ続けてくれと戸田さんに言われるんです。“食べ続ける”ことに戸田さんはこだわっていて、それを演劇でやるというのは挑戦的で面白いです。じゃあ僕らは何を演じるんだろう?とも思うんですけど、そこには絶対に役者としての技量が介入する場所もあると思っています」

−色々な作品に出演されてきた小出さんにとっても、新しい挑戦となりますか?
「そうですね。以前、岩松了さんの『シダの群れ』という作品に出演させていただいたのですが、その時もリアルな日常会話を、日常で会話している音量でやるといった演出でした。食べるシーンも多くて、毎日寿司を食べまくってました(笑)。でも今回はその比じゃないくらい食べます。お腹パンパンでセリフが出てこなくなっちゃうんじゃないかという、別の課題と向き合ってます」

−チーズtheaterの戸田さんとは同い年だそうですね。
「同じものを見てきて、同じ時代を生きてきた方なので、どういったものが感性として出てくるのかは非常に興味がありますし、楽しみですね。これまで年上の先輩方とご一緒することが多かったので、ここまで同年代の方とやるのは初めてです」

−同年代の方と舞台を作る中で感じられていることはありますか?
「どんどん他のメディアも変わってきている中で、舞台も作風や言葉、演出の仕方が変化してきている感覚はあります。人との距離感というところが、描かれ方も、稽古場でも、変わってきている感じでしょうか。演出家が正解を持っていたところから、演出家も役者も一緒に作り上げていく感覚ですね。役者も自発的に役を解釈していく割合が増えている感じがします」

アメリカで感じた、エンタメに対する許容度の高さ

撮影:山本春花

−小出さんのYouTubeでは、ご自身が思う代表作として蜷川幸雄さん演出の舞台『盲導犬』を挙げられていました。作品に参加して印象に残っていることはどのようなことでしょうか。
「蜷川さんと最後にやらせてもらった作品だというのと、唐十郎さん作というところですね。僕は唐さんを始めとするアングラ芝居にかなり影響を受けていて、昔から本も映画も見て好きだったので、それに触れられた感動がありました。日常会話とは真逆の観念的なセリフが多くて、そういった言語を操るということに興味がありました。蜷川さんはそういったアングラの時代をリアルに生きていた人なので、そんな蜷川さんに演出を受けたということも非常に思い出深いです」

−エンタメの街・ニューヨークでの留学生活はいかがでしたか?
「エンタメ全体の考え方も構造も日本と違うなということに気づきました。演技という点では学校に通ったのですが、今まで無意識でやってきた演技というものと一回距離を置いて、アカデミックに捉える機会になって、新しい見方も生まれて良かったです。プレイヤーに戻って、またその時間が活かされているように感じています。あの時間がなかったら、演技と近すぎていた気がするんです。長年無意識でやっていると気づかない偏りが出てくると思うのですが、演技を客観的に捉える機会を持てたことで、新しい視点が生まれました」

撮影:山本春花

−街の真ん中にブロードウェイがあることや、エンタメに対する捉え方も異なる気がします。
「エンタメに対してのリスペクトと協力の次元が違いますね。例えばアメリカでは撮影となると、街も封鎖しやすいし、やっていいことも多い。エンタメに対する許容度が高いです。国も民間も両方とも。そこは1つ扱われ方の違いを感じます。それにお客さんも鋭い視点を持っている人が多いです、ニューヨークは特に。そうすると作品も育つし、正しい分析は演劇にとって必要だなと思います。演劇作品を発表するだけでなくて、それに対するレスポンスがないと物事は立ち上がっていかないと思うんですけど、ニューヨークでは凄く鋭い分析・評論があります。1日で作品がクローズしてしまうこともあるくらいですから…シビアでスピーディだし、柔軟さがアメリカらしいですよね」

−ニューヨークで観劇された中で、影響を受けた作品はありますか?
「最近は小川彩さんの作品『THE NOSEBLEED』(リンカーンセンター・シアター)を観ました。ご自身とお父さんの関係を描いた作品で、小川さんご自身の役を4人で入れ替わり描いていくという演出で、凄く面白かったです。観客の反応も良くて、日本人を描いた話がアメリカのお客さんに届いていたのも凄いなと思いました」

撮影:山本春花

−ブロードウェイのミュージカル作品も観られていたのでしょうか?
「色々観ました。最近で印象に残っているのは『Come From Away』ですね。展開が早くて、ジェットコースターのようなミュージカルですよね。一瞬も観客に休ませる暇がない。ある種ポップに9.11を描いているのも、色々な物事の事象に対してどう描くかは本当に自由なんだなと思いました。それはニューヨークでものすごく感じたことです。シェイクスピア作品の新解釈も色々なやり方があって、それも全部“あり”なんだと。表現の可能性はまだまだあると感じさせられます」

−ミュージカルに出演したいとも思うようになられたのだとか。
「ブロードウェイで、ミュージカルのかっこよさを感じましたし、自分は出ないと勝手に思っていた枠を取って、自分にもそういう選択肢があるんだなと考えられるようになりました」

−今後の俳優としてのビジョンは?
「これまで僕はドラマも映画も舞台も、様々なジャンルをやらせていただいているので、そのスタイルは今後も貫いていきたいです。それぞれに大変さと楽しさと、学べることがあるんですよね。だから僕は全部やりたいです。それにプラスして、アメリカのエンターテイメントに自分も少しでも参加できたらなと思っています」

撮影:山本春花

小出恵介さんご出演の舞台『ある風景』は6月21日(水)から6月25日(日)まで座・高円寺1にて上演。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。また、アプリ「Creators with Audience」にて小出恵介さんの稽古日記を掲載中!稽古場で感じられたことを小出さんご自身の言葉で語っていただいています。19日までの登録で、無料で見ることができますので、ぜひお見逃しなく。

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ヘアメイク:永瀬多壱
スタイリスト:佐々木敦子

Yurika

ニューヨークで新たな刺激を受け、進化を遂げた小出さんの今後のご活躍が楽しみです!